颯爽登場、アマテラス
後もう少しだったのにと悔やんでいると<タケミカヅチ>の出力が低下し動きが重くなる。
爺ちゃんが説明してくれた通りパワーダウンが発生してしまった。このまま襲われたらまともな抵抗も出来ずになぶり殺しにされる。
「とにかくあいつから離れないと……」
『ここまで好き勝手やって、やることやったから「はい、さよなら」なんて酷いじゃな~い?』
「――っ!?」
<クラーケン>がぎこちない動きでこっちに向かって移動を始めた。四脚のうち後部右側が動いていないが歩く分には問題ないらしい。
『今のは本当に危なかったわー。腕をパージして離れてなかったら完全に昇天してたわよ。それにしても全身に電撃が走ったあの感覚……一生忘れることは出来なさそうねぇ。どう責任を取って貰おうかしら』
「くそ……動け、<タケミカヅチ>……動いてくれ……!」
必死に機体を動かすイメージをしても操縦桿を動かしても<タケミカヅチ>は思うように動かない。
そうしている間に少しずつ<クラーケン>が一歩また一歩とにじり寄ってくる。
――そしてついに目の前にまでやってきてしまった。
『剣鬼ちゃん……以前の渋い感じも良かったけど、今の可愛い感じもどストライクで実にいいわぁ~。久しぶりに本気になっちゃいソ』
全身に鳥肌が立ちデューイさんが頑なにフォルネスとの再戦を避けた理由が分かった。
本能レベルで恐怖を感じている。保育装置から出てきてから今までの日々が走馬灯のように駆け抜けていく。
色々な意味での死を覚悟したその時、目前にいたイカの化け物が横に吹っ飛んだ。高速で飛んできた何かが直撃したみたいだ。
続けて『ドン』という重い音と共に<クラーケン>にD粒子の弾丸が当たってさらに吹っ飛ぶ。
あの巨体を吹き飛ばすなんて普通じゃない。その射線の先に視線を向けると一機のAFがいた。かなり離れた距離、しかも空中に浮いている。
その機体はピンクを基調としたカラーリングで細身の女性的なフォルムをしていた。腰部サイドアーマーとリアアーマーは大型のユニットになっていてまるでスカートみたいだ。
グリーンのデュアルアイで<クラーケン>を見下ろし大型のライフルを構えて即座に発射する。
『そう何度も食らって堪るもんですか!!』
<クラーケン>は巨体に似合わない素早い動きで横移動し回避した。あれだけダメージを受けているのに本当に粘り強い。
標的に当たらなかった弾丸は射線上にあった遮蔽物を貫通した。
「今のはスナイパーライフル!? 見たことのないタイプだけど何て威力だ。それにあの機体はいったい……」
意識を空にいるAFに向けるとさっきまでいた場所にはいなかった。何処に行ったのかとレーダーで探すと息を呑む。
ピンク色の機体はいつの間にか<タケミカヅチ>の頭上へと移動していた。
「あれだけの距離を一瞬で詰めてくるなんて……」
謎のAFをデータ検索しようとすると<タケミカヅチ>が強い反応を示し始める。
コックピットモニターに『TMHX』という文字が幾つも表示されては消えていき、やがて全ての文字が消えると正面に『Project―TakaMagaHara』という表記が出てきた。
「タカマガハラ計画……? これって確かアマツシリーズの……」
『その通りよ。アマツシリーズはタカマガハラ計画で開発された高性能AFの系統。どうやらこの場にアマツシリーズの機体が一定数揃ったことで共鳴反応が起きたみたいね』
コックピットに女性の声が聞こえてくるとその声の主と思われる人物がモニターに映る。茶色のロングヘアの女性で凜とした雰囲気のある綺麗な人だ。
どうやらこの人があのAFのパイロットらしい。
「助けて貰いありがとうございます。そのAFもアマツシリーズの機体なんですね」
『ええ、その通りよ。あたしはアマツ部隊隊長の【セルティ・デイブレイク】。この機体はTMHX―06<アマテラス>。あたしが来たからにはもう大丈夫よ。――それにしても動力が不調な<タケミカヅチ>でチドリを使うなんて無茶するわね』
「面目ないです。――僕はカナタ・クラウディスです。よろしくお願いします」
『デューイから報告で聞いてるわ。中々良い腕をしてるみたいね。それに度胸も良いみたいだしね、歓迎するわ。それじゃあ、そこのデカブツを片付けましょうか。――と、その前に……』
セルティさんは話を区切ると深呼吸をする。一体何をする気なんだろうか? そう思っていると彼女は馬鹿でかい声で話し出した。
『――聞こえてるわね、野郎共!! あたしが救援に来たから安心しなさい! 順番に敵を片付けて助けに行くからそれまで各自持ちこたえるように。以上!!』
大音量で通信が流されてきたので耳が痛い。なんつー無茶をするんだ、この人は……。
「セルティさん、大きな声を出しても水中にいるデューイさんには通信は届かないですよ」
『問題ないわ、ちゃんと届いてるわよ。<アマテラス>はアマツ部隊のリーダー機で通信機能が強化されてるの。ちょっとやそっとの電波障害なんて目じゃないし水中でも問題なく繋がるわ。――言ってる側から返信が来たわね。『了解』……か。それじゃ、ちゃっちゃと終わらせるわよ!』
「は、はい!」
<クラーケン>は相変わらず巨体からは想像出来ないすばしっこさでスナイパーライフルの直撃を避けている。
所々当たってはいるけど中枢部を破壊しない限り奴は落ちない。
『よくも乙女の柔肌を傷つけてくれたわね! ボロボロのグチャグチャにしてあげるわ!!』
『はぁ!? 何が乙女よ。そんなイカクサそうな機体のくせして笑わせんじゃないわよ』
『イカクサ……ですってぇ!! 何てはしたない女なのかしら。品性ってものがないのぉ!?』
『野太い声で喚き散らさないでくれる? 鬱陶しいったらありゃしない。第一あんたこそ、その気のない男のケツ追いかけ回して喜ぶなんて恥ずかしくないの?』
酷い罵り合いをしながら二人は攻撃を繰り返す。<クラーケン>は残った二基の砲身で弾幕を張りつつ体当たりをしている。
既にまともな武装がないあの機体にとって質量とスピードを生かした突撃が唯一の武器と言ってもいい。
満身創痍であっても油断は出来ない。一撃でも体当たりをもらえば押しつぶされてしまう。
セルティさんが囮になってくれている間に<タケミカヅチ>はパワーダウンから回復した。
まだライキリは使えないが攻撃を回避するぐらいの動きは十分可能だ。
これ以上ここで手間取っていたら他の場所で戦っている仲間たちが危ないかもしれない。
――こうなったら少々危険かも知れないがすれ違いざまにダメ押しを食らわせるしかない。




