タケミカヅチVSクラーケン
ギガフォートレス<ケートス>には既に<ツクヨミ>と<カグツチ>が乗り込んで甲板上で敵AF部隊と戦闘を繰り広げている。
そのお陰か、かなり接近しているにも関わらず迎撃の気配はない。
「この混乱に乗じて乗り込むしかない……!」
<クラーケン>の攻撃を避けながら飛行を続け<ケートス>後方の甲板に着地した。バルト達は<ケートス>前方で戦っている。
この位置なら皆を巻き込まずに戦うことが出来る。
『あらあら、海上のダンスに飽きちゃったのかしら? でも甲板で戯れるのも悪くないわねぇ』
<クラーケン>は脚部を浮遊形態から四脚に戻すとスラスターを噴射しながらゆっくりと甲板に着地した。
こうして地に足を付けて対峙してみるとやっぱり大きい。こっちの三倍以上の高さがある。
「サイズが大きくても頭部とコックピット部分を破壊すれば機能が停止するのは変わらないんだ。さっきだってそうやって倒した。やれるはずだ!」
『さっきと同じ手は通じないわよ。<タケミカヅチ>が接近戦で無類の強さを誇っているのはよく知ってるわ。それなら近づかせなければいいだけよ!』
<クラーケン>の四脚部に備えられている砲身からマシンガン級の弾幕がばら撒かれ、とても近づける状態ではなくなった。
<ケートス>の巨大な体躯には障壁として使える場所が数多くあるので、そういった所に身を隠して弾幕から身を守る。
「こうして隠れているだけじゃ奴を倒せない。何とかして近づかないと……」
弾幕を張っている砲身は各脚の付け根付近に設置してある四つ。
集中砲火されると厄介だけど高速機動で翻弄すればいけるかもしれない。それなら――。
「アディショナルブースター起動……最大出力で加速すれば一瞬で接近できるはずだ」
バックパック左右に装備されているアディショナルブースターの後部装甲が展開すると内部のスラスターが露出し火が入る。
障壁から身を乗り出し<クラーケン>の視界に入ると案の定集中砲火が開始される。
『あーら、いきなり出てきちゃってどうしたの? 男子ならもっと堪え性がないとダメだゾ』
弾幕に加えて両腕のクローアームを射出して捕縛しようとしてくる。ここで勝負を決める。
「アディショナルブースター最大出力――ハイマニューバ!!」
アディショナルブースターによる凄まじい推力が合わさって<タケミカヅチ>は一気に加速した。
重力制御装置で加速時のGが軽減されているはずなのに身体がシートに押しつけられる。シミュレーターによる訓練時よりも圧迫感が強い。
けれどこの程度で音を上げる訳にはいかない。この戦いでアディショナルブースターによる高速戦闘を自分のものにするんだ。
姿勢制御バーニアを噴射して敵の弾幕を避けつつ一瞬で間合いに入った。<クラーケン>の黄色いデュアルアイが驚いたようにこっちを見つめている。
『はやっ――』
「遅いっ!!」
すれ違いざまに敵機の脇腹にライキリの一太刀を浴びせる。しかしタイミングがずれて予想よりも斬撃が浅く入ってしまった。致命傷と言うにはほど遠い。
「ちっ!」
舌打ちしつつ<タケミカヅチ>を<クラーケン>に振り向かせ再度接近を試みる。だがフォルネスは弾幕を更に厚くしてこちらの接近を許さない。
しかしこの程度ならハイマニューバモードの<タケミカヅチ>には驚異じゃない。
今度は直線コースじゃなく大きく弧を描くような軌道で突撃する。機体のつま先が僅かに甲板に触れて火花が散る。
――今度は確実に決める!
『そんなスピードじゃ複雑な動きは無理でしょ。これで終わりよ!』
<タケミカヅチ>の動きを読んだフォルネスがこちらの進行方向にクローアームを射出してきた。先端の三つの爪が開いて捕まえようとしてくる。
このまま突っ込めば直撃すると思った矢先、僕は不思議な感覚に陥った。めまぐるしかった周囲の動きがゆっくり動いて見えるようになっていたのだ。
クローアームの動きもはっきり視認できる。
即座に機体左側に設置してある全バーニアを一瞬だけ最大出力で噴射して僅かに軌道をずらし、クローアームを紙一重で躱すとライキリで横薙ぎにして破壊した。
『なっ!? 今の超反応はいったい何なの!!』
各部バーニアとアディショナルブースターの噴射方向を微妙に操作し、不規則に動いて再び<クラーケン>の懐に入りこんだ。
「――もらった!!」
敵機のコックピット目がけて刺突攻撃をするとクローアームに阻まれてしまう。
『さっきもそうだけど迷わずコックピットを狙ってくるなんて、ホント可愛い顔してえげつないことしてくれるわねぇ。まあ、そのお陰でこうして直撃を避けられた訳だけど……って、痛ァァァ!!』
もう一本のライキリをクローアームに突き刺しそのまま敵の胴体に打ち付ける。
その体勢でアディショナルブースターを噴射し<クラーケン>を後方に押し込んでいく。
「まだまだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
『くぅぅぅぅぅぅぅ! 熟練者のテクニカルな感じも良いけど、この力任せでがむしゃらな感じも青々しくて実に良いわぁぁぁぁぁぁ!! クセになっちゃうかも』
ふざけた言動と隙が多い相手ではあるけど、こちらの行動パターンを見切った洞察力と判断能力は確かだ。
これ以上戦いを長引かせたら動きを先読みされてやられるなんて事になりかねない。
――だからこの状態で一気に倒す必要がある。
でも現状<タケミカヅチ>の主武装であるライキリを超える武器は装備していないし、ライキリ使用中はナルカミも使えない。
……いや、あるぞ。この巨大な相手を倒せる可能性のある武器がまだある。
倒し損ねたらこっちがピンチになるかもしれない。けど、どのみちこのままじゃ危険なのは変わらない。
幸い<タケミカヅチ>に搭載されている六基のヤサカニは全てフルチャージ状態だ。
「――やってみよう、<タケミカヅチ>!!」
『この状況で何をする気なのかしら。もしかしてもっとワタシをワクワクさせてくれるの? 楽しみだわぁ』
フォルネスは自分の勝利を確信していて余裕に満ちている。そこにとっておきの電撃を流し込んでやる。
「装甲各部開放、ヤサカニ全基エネルギー放出準備!」
<タケミカヅチ>の肩、前腕、膝部の一部装甲がスライドしヤサカニを搭載している機構が露出する。
そこから眩い光が溢れ出し溜め込んだエネルギーが開放を待ちわびる。
<クラーケン>を逃がすまいとライキリを収納しマニピュレーターでクローアームを掴んだ。
「絶対に逃がさないぞ。――いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! チドリッッッ!!!」
『何ですって!?』
デュアルアイがセンサー保護用シールドで覆われると各ヤサカニ搭載機構から凄まじい電撃に変換されたエネルギーが開放された。
接触部位から電撃が<クラーケン>に流れ込んでいき、その巨躯を内部から破壊していく。
身体の所々から爆発が起こり誘爆を避けるためかミサイルを積んでいるエンペラ型のバックパックを切り離した。
こんな状況だっていうのに、そんな冷静な判断が出来るなんてやはり危険な相手だと思わされる。
機体周辺の半径二百メートルが電撃で焼け朽ちていく中、重装甲の<クラーケン>もまた既に表面は焼け焦げている。
チドリが終了するまであと数秒。最後までダメージを与えられればいけるはず――。
勝てると思ったのも束の間、クローアームが切断され<クラーケン>との間に距離ができた。
「しまっ――!」
チドリは使用限界を迎え機体が通常モードに戻ると前方には機体各部から火花を散らせる<クラーケン>が佇んでいた。
かなりの損傷を与えたがその目にはしっかりと意志の光が灯っている。
――倒しきれなかった。




