降下作戦
それぞれの機体に乗り込んでOSを立ち上げる。アディショナルブースターは訓練によってかなり使いこなせるようになったはずだ。後は実戦でやれるかどうか。
――操縦桿を握る手に自然と力が入ってしまう。気負いすぎないように気をつけなければ。
<タケミカヅチ>の前方のハンガーには<カグツチ>がいる。ナノニウムアーマーの修復はギリギリで間に合った。
追加兵装として二門のレールキャノンと連結したバックパックが装着されて火力が増している。レールキャノンは電磁力で加速させた実体弾を撃ち出すウェポンモジュールだ。
これでかなり遠距離の敵機を攻撃出来るようになったので後方支援機としてより完成した性能になった。
<ツクヨミ>は左腕のウェポンモジュールを変更しニードルバレットというニードル状のビーム弾を発射する装備を取り付けている。
これは敵機のDフィールドに干渉または貫通破壊するのに特化した武器だ。ニードルバレットで牽制しながら敵に近づいてスラッシュサイズで斬り裂く戦法は効果的だろう。
<スサノオ>は海近辺の戦闘ということで水中戦を想定したウェポンモジュールで身を固めている。
バックパックには水陸両用のもので二基の大型バインダー状のハイドロジェットユニットが取り付けられていて取り込んだ水を噴射して推力を得ることが出来る。
さらにこの大型ハイドロジェットユニットは武器にもなる。
水中戦装備として肩と脚部にもハイドロジェットユニットを装備しているので水中での機動性は格段に向上している。
こうして戦闘準備を終えた各機は起動しハンガーの固定が外れると格納庫の後方に向かって歩き出す。
整備チームは安全エリアに避難し僕たちの出撃を見守っている。その中にフィオナの姿があり心配そうにこっちを見ていた。
<ヤタガラス>の後部ハッチが開き出撃準備が整うとデューイさんから通信が入る。
『現在『オキノミ』は襲撃を受けている。<ヤタガラス>からの情報では敵の主力は型式番号MT―009<グール>である事が判明した』
『――<グール>? 何だそりゃあ、聞いたことないぜ』
バルトが知らないのも無理はない。僕は大罪戦役で使用されたAFに関して色々な媒体から情報を収集していたから知っている。
――そう、知っているからこそ、これが異常事態だという事が分かる。
「バルト、<グール>は大罪戦役の中盤以降に『ノア3』で生産された量産機だ。そのほとんどは『ノア3』領内で運用されていたから戦後『ノア11』領内には残っていなかったんだよ」
僕が<グール>を知っていたのが意外だったのかモニターに映るデューイさんとルーンがちょっと驚いた様子だった。
『その通りだ。それ故ここに<グール>がいると言うことは『ノア3』から持ち込まれた意外に考えられない。国境には防衛網が敷かれているにも関わらず、その目をかいくぐってきたからには侵入ルートを明らかにする必要がある。だが、その前に街を蹂躙している連中を破壊する。――出るぞ!』
最初に<スサノオ>が後部ハッチから飛び降りると続けて<ツクヨミ>が出て行く。
こんな高度から出撃したことがないので僕とバルトは戸惑っていたが意を決して二人同時に<ヤタガラス>から飛び降りた。
遙か上空から目の当たりにした世界は広大で人間なんてちっぽけな存在だと思わされた。
それと同時に荒廃した大地が広がっているのも分かり、人間同士の戦争がどれだけこの惑星にダメージを与えたのか強く実感した。
「戦争はこんなにも『ネェルアース』にダメージを与えていたのか……」
下方からおびただしい量の黒煙がのぼっていく。四機のアマツシリーズはスラスターと姿勢制御バーニアで落下速度をコントロールしながら降下する。
順調にいっているとコックピットの警報が鳴り響いた。その直後、海中から無数のミサイルが姿を現しこっちに向かって飛んでくるのが見えた。
『対空ミサイルだと!? しかもこの数は……』
『この程度なら<カグツチ>の火力で落とせるぜ!』
バルトが前に出ようとすると<ツクヨミ>が手で制して前方に飛び出る。
『あの程度ならわざわざ撃ち落とさなくても対応可能ですよー。――トバリ最大出力、敵ミサイルへのジャミング開始』
ルーンが<ツクヨミ>のトバリを起動させると対空ミサイルが目標を見失ったようにメチャクチャな飛行を始める。
『全ミサイルのジャミング完了。このままだと邪魔なんでまとめてお掃除しまーす!』
対空ミサイルは一斉に上空に飛んでいき僕たちから離れていくと互いに衝突し連鎖爆発を起こして全て消失した。
「凄い……ジャマー機能だけであれだけのミサイルを無力化するなんて……」
『この程度<ツクヨミ>ならお茶の子さいさいですよー。それじゃバルト、着地エリアの確保お願いしますねぇ』
地面が近くなってくると僕たちに気が付いた十数機のAFが一斉にこっちを向く。
頭部の赤い正方形のメインカメラが街のあちこちで光っている。
<ゴブリン>よりもややマッシブな灰色の装甲に身を包んだ機体――<グール>がこっちに向かってライフルを発射し始めた。
その中にはバックパックと連結したキャノン砲やミサイルランチャーを装備している重火器仕様の機体もいる。
「<グール>は<ゴブリン>と<オーク>の長所を併せ持つ機体らしいけど、中々どうして装備のバリエーションが豊富だね。特に重装備タイプは厄介だ」
『それならやられる前にやってやるぜ!』
<カグツチ>の全ミサイルランチャーのカバーが開放され、ガトリング砲と共に一斉に発射された。
地上から攻撃していた<グール>の群れは<カグツチ>一機の攻撃で次々に破壊されていき対空攻撃が弱まっていく。
『敵の攻撃が弱まったな。このまま下りるぞ。降下後<カグツチ>は後方に位置して支援砲撃、残り三機はアローフォーメーションを組んで戦闘する』
アローフォーメーションは小隊規模の場合、三機でV字の陣形を作るものだ。一機が突出し、その左右にいる二機で援護する。
それ故、突出する機体がフォーメーションの中心になるのでチームのエースがその役目を担う。つまりこの場合はデューイさんがその立ち位置になる。
『了解で~す!』
「了解しました。それで僕は左右どちらに――』
『カナタ、お前が中心になれ。私とルーンで援護する』
「――はい!?」
予想外の返答が来たので甲高い変な声が出てしまった。デューイさんもこの反応は予想していたらしく、淡々と説明してくれた。
『アローフォーメーションは基本的にチームのエースを中心に据えて戦うが、敵に対し突出する分、接近戦になる場合も多い。そうなれば<タケミカヅチ>の性能がフルに活かせる。今後の戦いでも基本的に<タケミカヅチ>が主軸となったフォーメーションを組むことになるだろう。今回で慣れておけ』
「わ、分かりました!」
それってつまり僕がやられてしまえばフォーメーションは崩れるし、場合によっては部隊が窮地に陥る状況にもなりえるって事じゃないか。
まさかいきなりこんなプレッシャーを負う事になるなんて思わなかった。
――いや、でもなんだろう。何故かこの感覚を懐かしいとも思える。もしかして、以前の僕もこんなプレッシャーを抱きながら戦っていたのだろうか?
『気負いすぎるな。私とルーンが脇を固めているしバルトの援護もある。それに状況に応じてフォーメーションも組み直す』
「了解!」
着地すると僕たちはアローフォーメーションを組んで敵の集団に向かって行った。




