ルーン再臨
とにかく戦いが終わったことで緊張が解けるパイロット達。そしてフィオナは決心を固めるとデューイと相対する。
「デューイさん……でしたよね」
『ああ、そうだ。君は確か……』
「私はフィオナ・トワイライトといいます。百年前の大罪戦役時にはアマツ部隊に所属していました」
『何だと……?』
「カナタ達は私の依頼で『ヨモツヒラサカ』を目指していたんです。軍に話を通さずにこのような行動を取っていたのも私がそのように頼んだからです」
『何故そのような無茶を? あの辺りは一般には単なる火山地帯とされているが、アマツ部隊に所属していたのなら非常に危険なエリアだと知っているはずだ』
デューイの言葉を聞いてフィオナは思い詰めた顔をする。だがすぐに凜々しい表情になり<スサノオ>を見上げる。
「その件について詳しくは後でお話します。今は機体もパイロットも疲弊している状況です。これからあなた方に合流し機体の修理と皆の休息をお願いしたいと考えています。それでは駄目でしょうか?」
『――了解した。近くに我々が移動に使用している輸送機がある。そこならAFの簡易的な修理が可能だ』
「ありがとうございます。――カナタ、それでいいでしょうか?」
『フィオナがそれでいいのなら僕は構わないけど……』
カナタはフィオナの今まで見たことのない決意ある佇まいを目の当たりにして声を詰まらせる。
軍と関わろうとするフィオナが何故そこまで思い詰めるのか、その理由をカナタが知るのはもう少し先の話である。
◇
デューイさんとの戦いの中で僕が聞いたのはかつての自分と誰かの会話だった。それが脳内で再生されたと言うことか。
途切れ途切れに聞こえた相手の声は女性のものだった。その声を思い出そうとする度に胸が激しく締め付けられ強い後悔に支配されそうな感覚に陥る。
かつての僕はこんな後悔を抱いたまま死んだのだろうか。だから再生された今もその想いは残り当時の人格が出てきたのかもしれない。
今までかつての自分の事をどうこう考えた事は無かった。けれどこうなってくると知りたいという気持ちが強くなっていく。
――知りたい、かつての自分を。そしてあの女性はどんな人で僕とどういう関わりがあったのか知りたくて仕方が無い。
『何か勝手に大団円みたいな雰囲気になってますけどぉ、敵の団体さんが近づいてますよー』
どこからともなく女性の声が聞こえた。でもそれは僕が知りたかった人物のものではなく、おどけた感じの最近どこかで聞いたことのあるものだった。
何処で聞いたんだっけ? 思い出そうとしているとデューイさんがその声に答える。
『ルーンか。敵は何機だ?』
『十機はいますねぇ。その中には武装モリモリの<レッドキャップ>もいますよぅ。こっちの予想通りに漁夫の利を狙ってきましたねぇ。――で、どうするんですか中尉?』
『作戦通りに迎え撃つ。お前も戦闘準備をしろ』
『ええ~、アタシも戦うんですかぁ!? <ツクヨミ>は偵察用の機体なんですけど~。戦闘はデューイ中尉の役目でしょ? もうちょっと頑張って欲しいんですけどねぇ』
ルーンと呼ばれた女性は戦うのは心底面倒くさいといった様子だ。彼女のやる気の無い態度にデューイさんは大きくため息を吐く。
『<ツクヨミ>は威力偵察と電子戦用の機体――つまり戦闘を念頭に入れた設計がされている。つべこべ言わずに黙って戦え!』
『うわっ! そうやってすぐに上から圧力をかけるぅ~。そういうパワハラって良くないと思うんですけど。……ま、アタシ以外は皆ボロボロみたいですしぃ、一肌脱ぎますかね』
なんやかんやでルーンという女性はやる気が出たのか戦ってくれることになった。一方のデューイさんは疲れた様子で目頭をマッサージしている。
『あいつは毎回毎回……なんでこう……』
小声でデューイさんの苛立ちが聞こえてきた。
――ああ、きっといつもこんな調子で振り回されてるんだな、この人。
今のやり取りで緊張感が和らいでいるとすぐ近くにAFの反応が出てアラートが鳴る。その位置はここから百メートルも離れていない距離だった。
モニターで確認すると廃ビルの屋上に突然黒いAFが姿を現した。
『おい! 何だあの黒いAF、いきなり現れやがったぞ。それにこれだけ近くにいたってのにレーダーにも反応が無かった。もしかしてさっきの戦いで故障しちまったのか!?』
バルトがコックピットの計器類を叩いている。そんな事したら余計壊れるだろうし、そもそも故障じゃない。
「バルト、計器類の故障じゃないよ。こっちも同じ反応だったからね。さっきデューイさんが言ってただろ。あの黒いAFは威力偵察や電子戦用の機体なんだ。急に現れたように見えたのは光学迷彩を解除したからだろうし、レーダーに突然映ったのはステルス機能を解いたから……つまりあの機体はずっとあそこにいたんだよ」
『……マジかよ。それじゃあ、あいつが参戦してたらオレ達は……』
「まともな戦いになんてならずに負けていたと思う。――あの機体は万が一の場合に備えて待機していたって事ですよね?」
デューイさんに訊ねると彼は心なしか嬉しそうな表情を見せていた。きっと普段ルーンて人に振り回されているから、こういうやり取りに飢えているのかもしれない。
デューイさんが口を開こうとするとそれを押しのけるようにして小麦肌の女性のアップがモニターに映った。
その女性に見覚えがあった僕たちは思わぬ場所での再会に驚いてしまう。
『は~い、皆さんさっきはどうも~。アタシはアマツ部隊所属<ツクヨミ>のパイロット、ルーン・ミッドナイトでぇ~す! これからお仲間になるみたいですし、よろしくお願いしまぁ~す』
「あー! あなたは『イヨ』で絡んできた痴女さん!!」
『えー? まさか少しばかり胸とか太腿とか当てた位で痴女扱いですかぁ? もしかしてあなたって童貞……だったりしますぅ?』
ルーンさんはクスクス笑いながらモニター越しに絡んでくる。確かにこれを毎日やられたらデューイさんがそうだったように疲れるだろう。
『ちょっとぉ、図星だからって無視しないでくれますぅ? 女性と話をしている時に反応を示さない男性はモテませんよぉ。ちゃんと頷いたりしてくれないと』
「え! そうなんですか!? 勉強になるなぁ」
『もし良かったら、後でマンツーマンで女性との上手な付き合い方を教えてあげますよぉ。――特別サービスで』
ルーンさんは舌先をペロッと出してウィンクしてくる。何か妙にエロいなこの人……。
童貞の自分には刺激が強い。でもそんな事実は言えない。だって言ったら絶対にネタにされる。




