人類はAI化しました
デューイは深刻な表情で『ノア11』内の不穏な事件の原因を語っていく。
「暴走を起こしたAFを鎮圧した後に機体を調査した結果、それには共通してある装置が組み込まれていました」
「ある装置……?」
「コックピットに取り付ける事でOSが格段に向上するという装置です。我々が調べたところ、ある種のハッキングシステムが内蔵されていました。しかもそれは『ノア3』側の技術で作られた物でした」
普段は好々爺であるノーマンの表情は既に真剣なものになっており、それだけこの件がただ事ではないと言うことを物語っていた。
「……なるほどのう、百年ぶりに『ノア3』が本格的に干渉してきたという事か。それで合点がいったわい。つまり連中はその装置を『ノア11』領内に広めてAFの暴走による破壊活動を起こしている訳か。二週間前『アハジ』で暴走した<ガルム>もまたその装置を積んでいた可能性が高いのう。じゃが、あの機体には『ノア3』のパイロットが乗り込んでいたはずじゃが……」
「それは恐らくAI化した『ノア3』の人間が装置を介してAFを乗っ取っていたからでしょう」
「なん……じゃと……?」
デューイの言葉にノーマンは凍り付いた。その意味を理解しようとすればするほど『ノア3』が既に自分たちとはかけ離れた存在になってしまったと考えられるからである。
「まさか既に『ノア3』は……」
「そうです。『ノア3』領内には現在生身の人間は一人もいません。全てのインフラは機械による完全自動化になっていてAFを始めとする兵器生産工場も同様です。『ノア3』を手中に収めたクロノスはこの百年の間に民衆全員のAI化を完了させました。AI化された人類はクロノスが創り上げた電脳仮想空間で生活をしているようです。それがどのような世界かは不明ですが恐らく人類にとって居心地の良い環境だと考えられます」
ノーマンは椅子の背もたれにもたれかかりハーブティーを飲むと天を仰ぐ。
「――例の装置はAI化された人間がAFをハッキングする為のものという事か。それによってAF自体が彼らの肉体になるという事じゃな」
デューイは頷き話を続ける。
「その装置を『ノア11』領内にばら撒いたのはゼノア・サンドというサルベージャー管理局の人間です。以前あなた方に海中に沈んでいた輸送機の回収を斡旋した男で、AF<レッドキャップ>で襲ってきた人間でもあります」
「ああ、あの男か。大変真面目でやり手だと思ったが、まさか裏でそのような恐ろしいことをしていたとはのう」
「あの男はあなた方……正確にはカナタ・クラウディスに対して強い復讐心を抱いています。私は仲間と一緒に半年前からサルベージャーに登録しAF暴走の件を探っていたのですが、奴は私たちにコンタクトを取り白いAFの奪取とそのパイロットの抹殺を依頼してきました」
「なるほど。それで目標のサルベージャーを調べたところわしがいたのでコンタクトを取ってきたという事じゃな?」
「その通りです。ゼノアは用意周到で装置の横流しのルートなどは不明のままです。しかし、今回は相当余裕がないらしく派手に動いています。我々は今回ゼノアから受けた任務を利用して彼を追い込み装置の入手ルートを聞き出そうと考えています。元を絶たなければ装置はさらに『ノア11』領内に普及しAFの暴走と破壊活動を広げる結果になってしまいますから」
「AFの暴走による混乱に乗じて『ノア3』側が本格的に攻め込んでくるかもしれないという事じゃな。――確かにそのやり方なら疲弊した『ノア11』は簡単に落とされるかもしれんの」
デューイは用意されたハーブティーを飲み干しカップを置くとノーマンに詰め寄った。
「既に『ノア3』側は巨大移動要塞ギガフォートレスを幾つも国境付近に投入し、それを拠点として大多数のAF部隊を展開しています。今は何とか抑えていますがそれもいつまで持つか分からない状況です。この件を解決したら私も最前線に戻らなければなりません。出来ればその時、<タケミカヅチ>と<カグツチ>を回収したいと考えています。強力な戦力は喉から手が出るほど欲しい状況なのです」
「ふむ……」
デューイの切実な訴えを聞いたノーマンは自分たちの旅の目的を説明した。
お互いの情報を交換し状況を把握するとデューイは再び廃墟の中へと姿を消し、間もなくダークブルーの装甲に身を包むAF<スサノオ>が姿を現す。
<スサノオ>はノーマンに軽く会釈をすると荒野の中へと飛んでいった。その後ろ姿を見送ったノーマンは静かに決心を固めるのであった。
「もう一刻の猶予もないか。このサルベージャー生活も潮時のようじゃな。――お前はどの道を選択するのかのう、カナタよ……」




