登校
「じゃあ、……」
「いってらっしゃい。」
嬉しそうな顔で母は私を送り出した。
嬉しさのあまり、目に涙が浮かんでいるようにさえ見えた。
しかし、今はそんな事を気にする余裕などなかった。震える足を無理やり抑え一歩づつ目的地に向かう。
「明日、学校行くね。」
「え?」
昨晩、母親にそう言うと母親はその場で硬直して動かなくなった。
瞬き一つしないその姿に少し焦りを感じ始めたとき、母親は唇を震わせながらやっとの思いで喋り始めた。
「本当?飛鳥?」
「うん。」
「じゃあ、これからも……」
「”明日”学校行くから。」
母親に呼び止められた様な気がしたが、気にせずにすぐに自室に引きこもり布団にくるまった
学校に行くといっただけで緊張で手足が震えるのを感じる。
別に高校で特別悪い思い出がある訳ではない。だが、高校という名称すら聞きたくないほど牽制していた。
布団にくるまりながらも私は意思を固めていく。
ただ高校に行くのではない。明確な意思をもって私は高校に行くのだ。
「八巻さんに描いてもらわないと」
ほぼ一睡も出来ず、母親が丹精作った特製の朝食も食べれずに私は今登校している。
存外、身体は登校路を覚えているようで迷わずに向かっている。
時間もほぼ予定通りだ。HR開始10分前に着くために、15分前には高校周辺に到着するようにする。
「ふー。」
深呼吸をする。間もなく高校周辺に着く、そうすればだれか顔見知りの同級生に合うかもしれない。
声を掛けてくるほど仲のいいものはいないと思うがそれでも近況感が走る。
「お疲れ様。」
私に向けられた声に緊張が生まれる。
一瞬で顔が熱くなり、耳鳴りがする。怖くて後ろを向くことが出来ない。
「どうしたの、ごんちゃん。」
「み、みゆ」
聞き覚えのある声に後ろを振り向く。
そこにいたのは私と同じ高校の制服を着たみゆだった。
「な、なんでここに。」
「落ち着いてよ。」
「ど、どうしてここにいるの。」
「どうしてだと思う。」
みゆは悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
考えても、考えても答えが出なかった。
「分からないよ。」
「本当は一緒の高校で運命の再開をしようとしていたんだよ。」
「運命の再開?」
「そう。りーにお願いして無理やり編入したんだからさ。」
「でも、大学卒業……」
「そこはお金の力で……」
それ以上は、聞かない方がいいような気がして黙った。
「今日は一緒に高校に行くからね。」
「え?」
「当たり前でしょ。私も関係しているんだから。」
「うん。」
心強いような不安になる様な援軍の登場に気が付くと手足の震えが止まっていた。




