静かすぎる
風を切るような轟音。
前世で“自動車”という乗り物があったが、それと同じくらいの速度だ。
体を強化してメメル姉ちゃんが走って移動をしている。
その時荷台を引っ張っているのだがその速度は中々の速さだ。
経験したことがある僕とリリルは余裕だったけれど、アリサとマリンは耐えきれなかったらしい。
悲鳴を初めは上げていたが今は背を低くして脇の部分を掴みながら青い顔をしている。
こうしていくと早いんだよなと思いながら日の高さを見る。
すぐに行って戻って来れれば日が沈むころまでには戻れそうだ。
石化の薬がすぐにできて手に入る物であればだが。
クラリスさんがそれを作っていれば、というのもある。
後は値段的なものだけれど、一応父にそこそこお金は持たせてもらっている。
だからきっと大丈夫なはず。
あの謎の薬の分析も含まれるし……。
そう僕が思っているとメメル姉ちゃんが、
「遠くに町が見えてきたね。うん、やっぱり走ると結構楽でいいね、すぐにつくし。……でもこの辺は街に出入りする人もそこそこいた気がするけれど、見当たらないな。畑にも人はいないし、この時間だったら町で売るらしいものや食事に使うらしいものを幾らかとったり、いつもはしていたはずだけれど」
「……それは“静かすぎる”ということですか?」
そこで乗り物酔いよろしく、顔を真っ青にしているマリンがそう返すと、メメル姉ちゃんが、
「様子を見るために速度を少し落としましょうか。ここ周辺は見通しが良くて町に入っても私達の様子がよく見えそうだし。もっともこちらからもよく見えるけれど」
「……即座に魔法の防御が取れるようにしておきましょうか」
そうマリンが言ってマリンとアリサが防御系の呪文を唱え始める。
僕はというと、とりあえずは風系の攻撃魔法を唱えておく。
攻撃は最高の防御。
何かが撃ち込まれたらそれを全力で撃ち落としてやる……そう決めていた。
そこでメメル姉ちゃんが、
「どうしようかな。引っ張るんじゃなくて私は後ろから押す形にしていいですか?」
「そうですね、防御をするにしても戦闘をするにしても、その方がメメルさんが安全ですね」
といった話をしてから後ろから押すことに。
けれどそれは特に意味がなかった。
攻撃の一つや二つ来る様子がなかったから。
けれど町に近づくにつれて、更に異常さを僕達は感じ取る。
“静かすぎる”のだ。
そこそこ大きい町なので中には人が沢山いるのだ。
特に今は深夜といった人が寝静まった時間帯ではなく、人が活動している時間。
なのに人の喧騒が、少しも聞こえてこないのだ。
まるで街自体が一夜にして廃墟になってしまったかのように感じる。
現実にそんな事が起こりうるのだろうか? そう僕は考えてみるけれど……先ほどの怪人物達がここ一帯を、目標に定めたりしていないか?
例えば効果を見るための前哨戦的な何かの実験をするために。
嫌な想像が僕の頭に浮かんで、気のせいだ、気のせいだと僕は思いこもうとした。
他の人達も何か予感があったらしく全員静かにしている。
やがて町の入り口まで来てその予感が正しい事に僕達は気づいた。
「まるで生きているみたいな石像」
僕はそこにあった石の像、それを見てそう呟いたのだった。




