まさか、“罠”
再びの火柱。
それも前回とは違う、幾つもの火柱だ。
何かを争うような声が静かな村に響く。
不安が僕の中で膨れ上がる。
何か僕に出来る事はあるだろうか?
今持っているこの力で何かできないか?
でもこの力を示したら、僕の今の生活が崩れてしまうかもしれない。
それに、父と母も強かったし、マリンだって結構な魔法使いだ。
だから、大丈夫。
そう僕は自分の中で繰り返すのに、何故かひどく胸騒ぎがする。
大したことはない、そう思いながらここに来る途中たまたま手に入った、あの薬草が目に映る。
特定の呪いにしか効果のない薬を作る草。
石化の魔法は、そう言えばその昔、この国で生まれて猛威を振るった“邪教”が良く使ったものであるらしい。
抵抗する街を一夜にして石と化して、攻撃をしたらしい。
そのせいで、戦力を次々と奪われていたそうだ。
また、石化した状態での破壊活動も行われていたらしいと歴史の本には描かれている。
それ対策として、石化した人間を氷漬けや結晶に閉じ込めるのような状態にして保護を行ったといった記述もある。
先ほど“邪教”と聞いたからだろう、そういった話がふっと脳裏に浮かび、それを振り払う。
もしも過去と同じようなその“邪教”が現れたなら、大変なことになるだろうという予想は、容易にできた。
だから大丈夫、そう根拠のない言葉を僕は自分の中で繰り返した。
そこで再び火柱が上がる、そこで。
「やっぱり気になるわ。ふ、ふ、ふ、最近手に入れた遠距離映像魔法を試すべきね」
「遠距離映像魔法?」
「そうよ、一キロメートルくらい先の映像までも、ここで見るというか映し出せる魔法なの。……まだ慣れていないから場所がずれてしまうけれどね」
アリサが得意げに僕に語る。
それを聞きながら、その程度の情報ならなんとか行けるか、後はもう少し情報を落とすなら、使っても疑問に思われないだろうかと僕は計算しているとそこで、目の前に四角い映像が現れる。
そこで戦っているのは、父とマリンだった。
しかも、父の後ろには石になっている……。
「母さん!」
「タクヤ、落ち着いて! というか、何なの? この人」
そこで僕は気づく。
黒いマントを羽織り、シルクハットをかぶった身なりの良い人物。
薄く嗤うその人物の足元には水色の魔法陣が敷かれて、水色の光のようなものが次々と生まれ、けれどそれを父たちは必死に防いでいる。
と、そこで鳩のようなものが飛んできてその光に当たると、羽を大きく広げたまま石と化して地面に落ちる。
「何、これ」
アリサの呟きが聞こえたが、これ自体が僕もよく分からない。
一体何が起こっているのか?
しかも攻撃を与える隙が無い位に、次々と打ち出されている。
父もマリンも防御に徹しているようだ。
だがそれだけではないような……そう思って地面を見ると淡い赤い光が走るのを見る。
「これ、魔力や身体能力、それを低下させる魔法だ。しかもこんな大きくて父さんたちが動くのが大変になるような物は、事前に用意しないと……まさか、“罠”」
僕の呟きにアリサがはっとしたようだった。
そして僕自身も悩んでしまう。
僕が力を出し惜しみした結果なのだろうか?
僕が望んだのは平穏な生活であったはずだ。
けれどその望みをかなえるためには、力を使うべきだったのか?
くらくらする頭の中で、僕は迷う。
だが、悩んでいる暇はない。
「……行く」
出し惜しみするよりも、僕は、僕の大切な人達を守りたいから。




