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狂気の鋏  作者: 平遥
19/23

迷い、彷徨い、遂には血迷う

先の王城襲撃に際し、バーナードは何らアクションを起こさなかった。勿論、市民軍の存在を知らなかった訳ではない。しかし、彼には参加するメリットがないのだ。


王家への怒り?――いや、足りない。確かに、王家は忌々しいが、崩壊させるまでじゃあない。


アレックがいるかもしれない?――いや、確証がない。むしろ、常識で考えると殺人鬼であるのだから、いない可能性の方が高かった。


正義感?――論外だ。いまや私は、正義感などという動機で捜査をしていない。


「正義感など……知ったことか。」


と、口をついて出た独白に対し、思う。

――ならば、私がアレック=バレットを追う理由とは……?警察を辞した理由は?


私の当初の予定は、あくまで「逮捕」。生かして捕まえる事であった。

しかし、はたしてそんな事に意味があるだろうか。そもそも、生かして捕まえる必要性とは?アレックの――殺人鬼の生を望む者など、この貂国中探した所で居るだろうか。むしろ、死を望む者が多数のハズだろう。であるならば、私の選択は間違いなのだろうか。……殺意に対しては殺意で返すのが本来あるべき姿なのだろうか。例えそうであったとしても、もはや一市民でしかない私がアレックに私刑的な死刑を執行することは赦されるのか。


バーナードの迷いは尽きない。

・・・・・・

貂国 第2地区


アレックとエミリアは王庭を後にした後、第2地区へ流れてきた。


「いやしかし、見事な崩壊だね。まぁ、烏合の衆にしては中々持ったんじゃないか、市民軍は。」

「あら、兄さん。王を殺す機会を三度逃したっていうのにずいぶんと機嫌がいいじゃない。」


しかも、今回は過去2度とは訳が違う。一度目は、王城襲撃に際しリリィとアニーを喪わせた。二度目には、王自身の指と護衛を喪わせた。だが、三度目である今回、王は何も失っていない。寧ろ、我々が王家を救った形になった。

そんな状況にあって、アレックは迷わない。


「いいんだよ。市民軍のような王の殺し方では許せないし、許さない。」

「人の死に方に許す許さないと口を出すなんて、まるで神にでもなったようね。」


エミリアのからかうような軽口に、アレックは軽くあしらうように返す。


「ふっ、傲慢かい?」

「あら、自覚があったのね。意外だわ。」

「やれやれ、手厳しいね。」


この手の勝負では敵わないな、と思った。だから、話題を替える。


「ところで、エミリア。……バーナードについてどう思う?」

「はぁ?何よ急に。訳が分からないわ。」

「簡単な事さ。何故、彼は市民軍なんてあからさまな変事に姿を見せなかったのかと思ってね。」

「知ったことじゃないわね。私、彼の事が嫌いだもの。」

「おや、そうかい?ま、確かに君に好かれる人間なんて稀有な存在だろうね。」

「あら、そんなことないわよ。私に気持ちよく殺されてくれる人間なら大好きよ。」

「……そうかい。なら、僕の事はどうだい?気に入ってくれてるのかね?」

「そうね、大好きよ。」

「……殺したいってんじゃないだろうね?」

「ふふ、どう思う?」


そう言ってエミリアは笑む。その微笑みには妖艶ささえ感じられた。危険な笑み――妖しげな笑み――狂気的な笑み。それら全てを内包したような顔は、箍が外れた故の美しさがあった。


「やれやれ、いつか寝首を掻かれるんじゃないかとヒヤヒヤするね。」

「ふふっ、冗談よ。あなたは、殺せなくとも大好きよ。」

「どうだかね。」


もっとも、「目の前の殺人鬼を殺したい」という欲求は持ち合わせている。恐らくは……互いに。しかし、決してそれを実行することはしない。実行しない単純明快な一つの理由。それは――時期ではないから。恐らく、彼女が(彼女からすれば自分が)殺せば殺す程、切れば斬る程、より悪どい殺人鬼になれば、それだけ殺したときの快楽が増す。互いにそう考えているのだろう。だから――


「さあ、次はどこで切ろうか?好きな場所を言うといいよ。」


殺し、殺させる。互いを、最後の被害者としてより上質に、熟成させるために。アレック・エミリアは彷徨し続ける。

・・・・・・

貂国 第2地区 某所


「あぁ、なんだ間違っていたのか。私はずぅっと間違っていたんだ。アレックもエミリアも生かす必要はないじゃないか。なぜ、生きての逮捕に拘泥していたのか不思議でたまらない。」


アレック・エミリアが彷徨しながら談笑していたのとほぼ同じ刻、この男は――元警部は、迷い迷った末に、遂に血迷った。

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