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狂気の鋏  作者: 平遥
10/23

敗者の殺意と勝者の殺意、加えて追跡者の決断

王城襲撃から一夜明け、フローレンスは第3地区まで逃げていた。

「フローレンス王。」

「……どうした?」

答えるフローレンスの顔は憔悴しきっていた。

「先ほど向かわせた密偵からの報告です。」

「あぁ。教えてくれ。」

「侵入者は既に王城を抜け出していたそうです。」

「……そうか。」

城門の施錠は完璧だったはずだが、大方噂の鋏で何処かを切り開いたのだろう。

「リリィとアニーはどうだった?」

「……。」

「どんな結果であれ構わん。報告してくれないか?」

「……現在、遺体の修復に努めています。」

「……遺体、か。」

覚悟はしていた。だが、想像以上に辛かった。

「それと、襲撃者の目的が生き残った兵の報告で分かりました。」

「……それは興味深いな。教えてくれないか?」

「はっ!曰く『楽しんで殺しているようにしか見えなかった。』と。」

「何?」

噂には聞いていた。快楽のみで殺している、と。だが、それだけで王族を殺すとは思えなかったのだ。

そして、後悔すると同時に腹が立った。

いくら冷静沈着を求められる王とは言っても、快楽で娘を殺され(、 、 、 、 、)て腹が立たない訳(、 、 、 、 、 )がない(、 、 、)


「今すぐ……今すぐ、ここに警察を集めろ!」

「はい?」

「部署も部隊も所属も経歴も年齢も勤続年数も関係ない!一人残らず集めろ!」

「ですが、それは……。」

「早くしろ。これは命令だ。」

「……分かりました。」

追いつめられた鼠は猫を噛むという。ならば、追いつめられた人間が人間に負けるわけがない。フローレンスはそんなことを考えながら王としての仮面を外し、殺された娘二人の為にそっと涙を流した。

・・・・・・


王城が襲われたことは、瞬く間に貂国全土に伝わった。その情報を、ある者は性質たちの悪い冗談だと笑い飛ばし、ある者は王の不幸を憐れみ、ある者は国賊討つべし、と義憤に駆られている。

そんな世情を喫茶店カフェで見ていたアレックとエミリアは「面白いな。」と思った。

何故なら「たちの悪い冗談」も「王の不幸」も「国賊討つべし」も自分が殺されるとは思っていない。ここに至ってもまだ何処か他人事のように振る舞っているのだ。

だから、少し現実を見せてやろう、とアレックは思った。城を襲ったんだから顔が割れるのは時間の問題だ。だったら白昼堂々襲ってやろう。

「ねぇ、エミリア。今ここで切ったらどうなると思う?」

「そうね。とっても面白いんじゃないかしら?もっとも、警察がぞろぞろと来なければ、だけど。」

「それは、大丈夫じゃないかな?」

確証はないけどね、とアレックは全てを見透かしたように言う。

「へぇ、何故そう思うのかしら?」

「なに、大した理由じゃないよ。ただ娘を殺された人間が冷静でいられるものかと思ってね。」

「あら、相手は王よ?感情に委せて行動すると思う?」

「ふ、どうだろうね。」

口ではこう言いつつもアレックには確信があった。きっと、フローレンスは感情に委せて行動すると、恐らくどこか一ヶ所に警察を集めるなんて無茶をすると、そんな確信があった。

「さぁ、この喫茶店カフェの人を切り尽くそうか。」

アレックはそう言いながら鋏を開いて給仕ウェイトレス を呼び出した。

結局、この日この喫茶店に警察がくることはなかった。

・・・・・・

バーナード警部に緊急召集がかかったのはあまりにも突然だった。

全ての警察関係者が第三地区に集められたのだ。

「まったく、こんな時に警官を一ヶ所に集めるなんてどうかしている!」

「あぁ、全く同感だ。フローレンス王は何を考えておられるのだ?」

「こうしている間にも被害者が出ているかも知れないな。」

どうやら周りの同僚も今回の召集は快く思っていないらしい。

「皆の者、よく来てくれた!」

不意に聞こえた叫び声はフローレンス王のものだ。

「今回の召集の理由は他でもない。先日、第1地区の王城が襲撃された。」

当然この事は知っていた。しかし周りの警察の中には知らなかった者もいたようで一部から自分を責める声が聞こえる。気のせいだと思いたい。

「そして残念ながら我が娘、リリィとアニーが命を落とした!……皆にはこれまで以上に命を賭して捜査に当たってもらいたい。以上。」

・・・・・・

解散がかかり、帰ろうとしたバーナード警部のもとに1つの連絡が入った。

連絡を聞いたバーナードは文句を言わずにいられなかった。

「何てことだ!王の勝手な召集で警備が手薄になっているときに喫茶店カフェにいた客が惨殺されるなんて!」

バーナードは悔いた。こんな下らない命令、無視すれば良かったのに、と。それと同時に公務員じぶんの限界を感じたのだった。

・・・・・・

次の日のバーナードの胸には、警部の位を示す階級章が着いていなかった。

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