第閑話:「お断りしたはずですが」
彼女が去ったその場で、私は一人溜息を吐く。
確かに彼女の言う通り、この展開は私の期待通りではある。
ではあるが、しかしそれ故に、期待通りに物事が上手く運ぶ事によって生じる懸念というのも、世の中には少なからずある。
無論、予想通りに事が運ばなかった場合の方が不安ではあるが。
予想外と言うなら、彼女の反応の方が意外と言えば意外か。
閑話休題。
言うまでもなく私が一介の使用人である以上、心配するべきは自らが仕える当主只一つである。
最悪、我が身を犠牲にする事も厭わないつもりではあるが、それは追々考えていけばいい。
とりあえずの現状の問題としては、彼女が殺した魔人の失敗作———合成獣の後始末だ。
この世に回復魔法というのはあっても、蘇生魔法というのは存在しない。
その為、私が行うのは否が応にも埋葬という事になる。
私に『嫌』という感情があればの話だが。
———また話が逸れた。
他の国がどうなっているかは知らないが、少なくともこの地域では土葬が通例となっている。
普段ならばそれに則ってこの死体———死骸を埋葬するのだが、生憎この空間に土は無い。
位置的には地下なのだから、周囲を掘れば当たり前に出ては来るが、そうなる前に私自身が生き埋めになる可能性が高い。
なので私が取るのは自然もう一つの方法、火葬だ。
これならば特別な手間も要らず、火魔法を使って死骸が燃え尽きるまで燃やし尽くせばいい。
私は特に迷う事なく、手近にあった合成獣の死骸に火を放った。
事が終わるまでに多少の時間は要したが、何事も無く処理は完了した。
最後の一体が焼失したのを見届けると、私は出口へと向かって歩き出す。
恐らくもう二度と訪れる事の無いであろうこの場所に、何の思いも馳せる事無く。
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降りて来た階段を登りきり、扉の前に立つ。
この扉は外から開けるにも内から開けるにも、基本的には同じ構造である。
入った時と同じように壁に手を添えれば、あっさりと扉は開かれた。
そうして特に気を張る事も無く無警戒に外に出た私は、すぐ真横から声を掛けられた。
「よぉ」
「……何でしょう、皇太子様」
壁にもたれかかるようにして腕を組んで立っている青年。
その人物は誰であろう、王位継承権第二位にして現在最も次代の王の座が有力視されている、王国第二王子その人であった。
「んだよ型っ苦しいな。俺とアンタの仲じゃねーか」
「私と貴方様との間に、そのような親密な関係は無かったかと存じ上げます」
「かーっ、相変わらず連れねーなー。まぁいいや」
そう言って彼はこちらを向く。
相変わらず身体は壁に寄りかかったままだ。
「今日はアンタに話があって来たんだよ」
「婚姻のお話でしたらお断りしたはずですが」
「ハッ、早とちりすんなって。確かにそれも無え訳じゃねーが、今回はまた別件だよ」
邪悪な笑みを浮かべながら、彼は続ける。
「っつっても別に難しい事じゃねぇ。近々ちょっとばかし、あの馬鹿王に反旗を翻そうってだけだ」
「クーデター……、という事ですか?」
「言い方が悪いな。革命だよ革命。圧政に苦しむ善良な市民達を、俺達の手で救ってやろうって話だよ」
「貴方様はそのような事をなさる性格ではなかったはずでは? それにわざわざそんな事をせずとも、次の王は貴方様だと市井でも専らの評判ですが」
「分かってねーなー。いや、あるいは分かってて言ってんのか? まぁどっちでも構いやしねぇけどよ。良いか? 民衆がどれだけ声を張り上げようが、現実問題あのクソ兄貴がいる限り、俺は王にゃなれねーんだよ。無能の癖に、威厳だけは一丁前に持ってやがる。んなトコだけ受け継いだってしゃーねーのによ。ったく、笑えねえ話だぜ」
口ではそう言うものの、その顔から笑みが消える事は無い。
「まぁそういう訳だから、俺ぁ使える手駒を探してんだよ。一応四大貴族の協力は取り付けたし、切り札や隠し玉も用意してある。他にも幾つか手を打っちゃあいるが、万が一って事があっちゃ困るからな。策は万全を期して初めて策となり得る、っつー事だよ」
「では、私を選ばれた理由は?」
「そうだな。大まかに言うと三つ」
指を三本立てる。
そして、一本目を折りながら言う。
「一つ、王宮内の地理に詳しく、また戦闘能力に長けた者である事。アンタの魔法は有用だ。拠点制圧にゃ、それなりに向いてんだろ」
二本目を折る。
「二つ、地位や名誉、財に興味関心の薄い者。これは言うまでもなく、成功した際の俺の取り分を増やす為だ。勿論協力者にはそれなりに見返りは用意するつもりだが、あんまり請求されても困るしよ。だから、極力協力者は少人数に抑えるつもりだ。まぁ、少数精鋭ってヤツだな」
「……そこまでなら、私の他にも該当者はいると思われますが」
「あぁ、その通りだな。だから、次だ」
最後の一本を折る。
「三つ、俺が弱みを握っている奴。その方がより忠実に、より従順に働いてくれるからな」
「……ッ!」
背筋に悪寒が走った。
急速に全身が冷えていくのが分かる。
彼は身体を起こし、無遠慮に私に近付いてくる。
「何だかんだ言ってあの馬鹿王は身内に甘いんだよな。使えもしねぇ飾り物を、何の処罰もせずにあのまま放置してるってんだからよ。けど俺は違う。知ってるよな? 俺は無駄な物は持たねえ主義だってよ。俺が王になった時の、真っ先のリストラ候補は———」
続きは言わないでほしかった。
言われずとも、そんな事は分かっていたから。
けれど私に、彼を止められる権利は無い。
彼は私の真横に立ち、耳元で囁くように言う。
「———第一王女。つまり、アンタのご主人様だ」
無情にも、言葉は紡がれた。
私にとっては、ある意味死刑宣告にも等しいその言葉を。
「けどまぁ、俺も別に鬼って訳じゃねぇ。アンタがそれ相応の働きをしてくれたら、少なくともそっちに付いては便宜を図ってやるよ」
そう言って彼は、一段と邪悪な笑顔を張りつける。
「じゃあ俺は行くぜ。あと何人か、声を掛けときたい奴もいるしな。決心がついたら、何時でも俺んトコに来てくれや。……第三王女辺りは同じ餌で釣れるか? でもアイツ、意外と堅物だしなぁ」
彼はブツブツと独り言を呟きながら立ち去っていく。
私はその姿が完全に見えなくなるまで、ただ呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。
祝 五〇話達成!!
連載を始めた時に一応目標にはして来ましたが、無事達成できたとなるとまた感慨深い物ですね。という訳で記念に何かします。やってほしい事があればどんどん言って下さい。出来る限りやります。←
今の所考えてるのは、某週刊少年雑誌風の煽りをつける事とかですかね。
勿論普通の感想も待ってます。




