第四一話:「自覚はあったんですか」
「んだよ、また来たのかよ」
あからさまに不機嫌そうな表情を浮かべる男の子。
こっちだって好きで来てる訳じゃない。
「まぁそう言わないで下さいよ」
「好きにしろ。ただし俺に関わるなよ」
そう言って、彼は自分の作業に戻った。
子供に彼って使うのは変かな?などとどうでもいい事を考える。
そう言えば、昨日も思ったけれどこの子は何をしているのだろう。
分厚い本を読んでいたり、机に向かって何かしていたり。
似たような事をしているように見えて、実は全然違う事をやっている。
一体何をしているのか、僕の中の純粋な好奇心が顔を覗かせる。
……まぁ聞かないけど。
ただ、このままでは一向に話が進まないのもまた事実。
いつまでも拒絶され続ける訳にもいかないしね。
ならば僕がすべき事は一つ。(だけじゃないだろうけど)
『人を知りたくば人間を知れ』という言葉がある。
要するに、人と付き合いたければまず性格やら人間性やらを知ろうという意味だ。
そういう意味で、人間観察というのはとても大事なのである。
まぁ丸一日一緒の空間にいれば、僕でなくとも多少の人となりは分かってくるという物だけど。
「なぁお前」
「僕ですか?」
「お前しかいないだろうが」
「確かにそうですね。それで、何かご用ですか?」
「何でお前、俺の相手なんかするんだよ」
そっちから聞いてきたか。なんか出鼻を挫かれた気分。
まぁ内容はともかく、話せるようになったというのは大きな進歩だ。
「何で、とは?」
「だから、こんな面倒臭くて鬱陶しいガキの相手をなんでわざわざするんだって聞いてんだ」
「自覚はあったんですか」
「あ? 何か言ったか?」
「いえ、何でも。そうですね、強いて言うなら報酬が良いからだと思いますよ」
「ハッ、報酬ねえ」
彼は鼻で笑う。
随分俗っぽい動機だなとは自分でも思ってるから。
と思ったけれど、どうやら笑った理由はそうではないらしかった。
「お前の前にも、報酬につられてのこのこやって来た冒険者どもは大勢いたよ。そしてその全員が、三回とこの館の土を踏む事はなかった」
こちらに挑戦的な眼を向けて、声変わり前の少年特有の高い声で言う。
「お前はいつまで保つだろうな?」
……これは、僕に喧嘩を売っていると捉えていいんだよね?
よし買った。
意地でもこの子の心を開かせて、ついでに報酬をかっさらっていってやる。
何なら神様からもらった能力『魅了』で、骨抜きの廃人にでもしてみよう。
……いや、冗談ですよ?
それにしても、最近僕のキャラ振れが激しいな。
まぁ、そんなことはおいておくとして。
「残念ですが、僕の一存で辞めるどうこうは出来ませんよ」
「は?」
一気に怪訝そうな顔になる。
まぁこの子の立場からすれば当然の反応だ。
けれどそれは、僕の立場からしても至極当然の発言である。
「だって、人に頼まれた以上、最後までやりきらなきゃみっともないでしょう」
彼の顔が、呆れを通り越して最早理解不能と言っている。
まぁよくある反応なので気にしない。
日本人の気質(というよりは僕個人の性格かな?)として、頼み事というのは中々断りづらい物がある。
年上や目上からとなれば、それは一層増す訳で。
それに、僕は人並には気も長い方だし、ちょっとやそっとの事で放り出すような真似はしない。
あとはそうだな……、純粋な義務感とか?
このいかにも社会不適合者に育ちそうな少年を、なるべくならまともな形で世の中に送り出してやりたいという気持ちだ。
でもやっぱりその辺りは日本人だから云々じゃなくて、ただの僕自身の性格なんだろう。
「……ハッ、付き合ってらんねー。勝手にしとけよ」
ぶっきらぼうに言って再び机に向かう。
その背中に、僕は声をかける。
「僕からも一つ、聞いていいですか?」
「あ? 何だよ?」
大分投げやりな返事。
迷惑がっているのを重々承知で、僕はあえてスルーする。
「どうして君は、人を遠ざけようとするんですか?」
僕の質問に、彼は一瞬ポカンとした表情を浮かべると、
「……ブッ、ハハハハハハハハッ!」
盛大に笑い出した。
「ハハハッ、ハハッ。……あー笑った。お前、面白いとこに気付く奴だな」
「僕も似たような物ですし。尤も、僕とは理由が随分違いそうですけど」
「あーいや、別に俺は遠ざけてるつもりはねぇんだよ」
お腹を抱えながらも、体勢を立て直して彼は続ける。
「遠ざけるっつーよりは近づけないって言った方が正しいかな。ほら、他人なんてどいつもこいつも低能の集まりじゃん? そんな奴らと変に関わって、この俺の崇高で高尚な頭脳が汚されちまったら困るだろうが」
何でもない事のように彼は言った。
言い切った。
他人を見下すのに、何の躊躇も疑問も抱いていないといった調子で。
お腹を抱えて笑い転げる彼に対し、僕は内心で頭を抱える。
これは、前途多難どころじゃ済まないかも……。




