第三一話:「どこかに行かれるんですか?」
観光とは言っても、特に何か名所がある訳でも無いし、そこらを歩き回るだけなのだが。
この街はそういう産業に力を入れている訳でも無さそうだし、そう大した物は売っていない。
ある物と言えば、武器か防具か怪しげな道具か、そうでなければジャンクフードぐらい。
目的はあくまで暇つぶしであるし、そこまで期待はしていなかったのでさほど落胆は無かったが、少しは残念な気持ちもある。
まぁ大人しくウィンドウショッピングでもしていようかと思っていると、
「…………」
「…………」
……何だろう、空気が重い。
「……どうして二人共、そんなお通夜みたいに静かなんですか」
「……何でも無いわ……」
「……我が主はお気になさらず……」
「……そうですか」
何かを察した僕は、それ以上追求するのを止めた。
その後も特に当てもなくフラフラと彷徨い歩き、日が暮れる頃に宿に戻った。
翌日。
日も高く昇って来た頃に、寝ぼけ眼をこすりながら起床する。
こんな生活を続けてたら、元の生活に戻った時に大変だろうな。
横を見れば相変わらず、王女は僕の隣で可愛い寝息を立てている。
もう一人の彼女はどうしたかなと辺りを見回すと、部屋の片隅の方で正座していた。
起きてはいるようだが目は瞑っている。瞑想でもしてるのかな。
昨日と同様に、半分眠った頭で王女を起こし(今日は起きてくれた)、階下に降りて一緒に朝食をとる。
彼女の方は、僕が何も言わずとも、黙って後ろに付いて来た。
朝食を食べ終えたら部屋に戻り、身支度を整える。
全員の支度が終わると、宿の外へ出てギルドに向かう。
そんなに早く行っても向こうも準備があるだろうし、結果的にはちょうど良かったんじゃないかと自分を納得させながらギルドに入ると、そこはあまりにもガランとしていた。
人がいないという訳ではない。
中央のテーブルに、見覚えのある顔が堂々と陣取っていた。
ただし、それ以外は誰もいない。
いつもの賑わいが嘘のように、そこには誰もいなかった。
そして、中央のテーブルにいた彼女は僕達を見て一言、
「待ち草臥れたぞ」
と言った。
「……何やってるんですか、あなた」
「人払いじゃよ。一度やってみたかった物でな」
「する必要は?」
「無い」
あっさりと言い切った。
えぇそりゃもう清々しいぐらいの自己中ですよ。
「まぁ自分で言うのも何じゃが、儂は余り表立って動くタイプでは無いからのう。人混みと云うのは、存外疲れるからの」
その為だけに、あれ程の人数を排除したのか。
傍若無人っぷりも甚だしい。
「……まぁ良いです。それより、場所の事はどうなりました?」
「然うじゃの……。後半刻もすれば迎えが来るじゃろうから、其れに付いて行けば良い」
どうやら仕事はちゃんとしてくれたらしい。
それさえしておいてくれれば、僕からは何も文句は無い。
「ありがとうございます」
「礼を言われる程の事はしとらん。儂に出来ぬ事は無いからの」
そこで謙遜するだけの謙虚さがあれば、もう少し僕も惹かれるのに。
「迎えが来る迄ゆっくりして行くと良い」
そう言いながら、彼女は席を立つ。
「? どこかに行かれるんですか?」
「特に何処と云う事は無いが……。何じゃ、儂に一緒に居て欲しいのか?」
彼女は悪戯っ子のような笑みを見せる。
不覚にも綺麗だと思ってしまったのは、表情には一片も出ていない。……はず。
「まぁ、用が有れば何時でも儂を訪ねるが良い。お主の頼みなら何でも請け負おうぞ」
そう言って彼女はカウンターの奥へと引っ込んで行った。
それにしても……。
人払いした意味、本当に無かったなぁ。
某死神漫画もびっくりの話の薄さ、物語の進まなさ。作者は共に自覚しております。




