第二四話:「僕もそう見えますよ」
「それで、何から聞きますか?」
「とりあえず、何であんなに重い性格になったのかから聞きましょうか」
と言うか、それがほぼ全てなのだが。
「う〜ん、何と言うかあれはですね、まぁ一族の血が強く出たと言いますか」
「血、ですか?」
僕はそう問い返す。
「えぇ。知っての通り、ウチの一族は力に依存する事がありましてね。最近の世代はそうでもないんですが、たまに妹みたいなタイプの奴が生まれるんスよ」
「『力に依存する』。つまり、強者に惹かれるという認識で良いですか?」
「それでオッケーです。ルーツは話すと長くなりますけど、聞きますか?」
「僕は聞きたいですけど、あなたはどうします?」
そう言って僕は、隣に座る彼女を見る。
彼女は興味無さそうに、
「好きにすれば良いんじゃない? 私は大体の事は知ってるし」
と、答える。
「へぇ、さすが王族。そういう事情もご存知って訳か」
「いいえ。私が個人的に調べただけよ」
「何のために?」
「何でもいいでしょ」
何故かこの二人から険悪な空気が感じられる。
「二人とも落ち着いて下さい。話が先に進みません」
僕がそう止めると、彼女は、フン、と鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。
何をそんなに拗ねているんだろうか。
一方の彼は、やれやれといった調子で肩をすくめる。
「じゃあ話しますけど、そもそも俺らの一族は、本当なら三〇〇年前に途絶えていたんです」
「え……」
いきなり重い話来たな。
「元は、どっかの城の城主が私設した、御庭番衆みたいな組織が発展して、今みたいな形になったそうです」
「へぇ……。じゃあ、血の繋がりは無いんですか?」
「いや、そんな事も無いっスよ。たまに外からの人も入って来ますけど、殆どは近親相姦で産まれた子供ですし」
さらっと近親相姦なんて言葉が出てくる時点で、相当異常なのは間違い無さそうだな。(いやまぁ、薄々は分かってたけど)
え? 何で僕が近親相姦なんて言葉を知ってるかって?
それはあれだ、うん、気にしないでくれ。
というか女の子にこんな事言わせるな。
「まぁそんな訳ですが、時代が経つにつれ、一族の力も大きくなっていったんです。そうすれば自然、敵も増えるでしょう。そうして恨みを買った俺たちの先祖は、三〇〇年くらい前に、とある国に嵌められましてね。信用を失った所を、ここぞとばかりに叩かれました」
そうして一気に追い詰められた彼らは、本当に血が途絶える寸前まで追い込まれたそうだ。
何と言うか本当に、醜い争いだ。
「一人、また一人と倒れながら、逃げ切って逃げ延びて、とうとう大陸の端まで追い詰められた先祖は、そこで命を絶つ決断をしたそうです」
自殺。
自分を殺す。
口で言う程簡単な事ではない。
そこに辿り着くまでに、一体どれだけの恐怖と苦悩があっただろうか。
「そんな時ですよ。救いの神が現れたのは」
その人物は、突然現れると瞬く間に追っ手を制圧してしまった。
そして彼らに、こう言ったと言う。
「『諦めるな』、と」
『何もしないで死ぬという事は、その不名誉を受け入れるという事だ。死に恥をさらして息絶えるのなら、生き恥をさらして名誉の挽回に努めろ。それが、義を尽くすという事だ』。
その言葉を聞いた当時の先祖達は、ギリギリで死ぬのを思いとどまった。
そうして彼らはゼロから、いや、マイナスから少しずつ、信頼を取り戻していった。
「そうして、今の俺らに繋がる訳ですが、まぁそれは置いといて。その当時彼らは、その方に忠誠を誓おうとしたんです」
「だけどその方は、それを断った、と」
「はい。その後も粘ったそうですけど、何だかんだで躱されてる内に、行方が分からなくなったそうです」
要は、その当時から依存体質は存在していて、それがはるばる世代を超えて、彼女に受け継がれたという訳だ。
「そういえば、あなたはそういうのは無いんですか?」
「俺は今ん所無いっスね。まぁ人にもよるんでしょう、アイツはそれが特別強く出たってだけで」
「そうですか」
そう返事をすると、僕は立ち上がる。
「貴重なお話をありがとうございました。では僕は、これで失礼します」
「もういいんですか? もっと聞いてくれてもいいのに」
「知りたい事は知れたので。ではまた明日」
「そっスか。んじゃ、俺は妹の所に戻りますよ」
「えぇ、妹さんを大切に」
そう言うと僕は、ギルドの扉を開けて外へ出た。
背後には既に、一人分の気配しか感じられなかった。
その気配の主が追ってくる。
「で、彼女をどうするかは決めたの?」
「考え中です」
僕は振り返って答える。
「下手をすれば、あなた以上に僕と四六時中一緒にいる事になりかねませんからね、彼女は」
「し、四六時中って、その……、お風呂とか、寝る時とかもって事?」
「僕の見た限りでは、そうなる可能性が高そうですね」
さすがに僕も、そこまでは遠慮したいが。
そうこうしているうちに、ようやく宿屋まで戻って来た。
辺りはすっかり暗くなっている。
「あなたは王宮に戻らなくていいんですか?」
「別にいいわよ。普段から王宮には戻ってないし」
「王女がそれでいいんですか……」
「それで成り立ってるんだから構わないわよ。一切帰ってくる事のない奴らもいるんだから、それに比べれば私はましな方よ」
本気でこの国の将来が心配だ……。
「それで、今日はどこに泊まるんですか?」
「? あなたと同じ所に決まってるでしょ?」
何をさも当然といった感じで言っているんだ。
「さ、早く案内してちょうだい」
「……ここですよ」
そう言って僕は、目の前の廃……もとい宿屋を指し示す。
「……廃墟にしか見えないんだけど」
「僕もそう見えますよ」
「ねぇ、もうちょっとましなの無いの?」
「そう言われても……。僕はここしか知りませんし」
「……まぁいいわ。今日はここで我慢しましょう」
あ、何か納得してくれたみたいだ。
「その代わり、中まで酷かったら燃やし尽くすわよ」
「……止めて下さい」
その後のやり取りは省こう。
恐らく想像通りだから。
そして、朝を迎える。




