出会いと、再会と・・・・・・
四ヶ月も作品をほっぽり出していました。理由はほっぽっていた時期である程度お察しください。何も告知せずに申し訳ありません。
時間も押しているので、その他はあとがきで書きたいと思います。
夜が明けた。水鏡女学院の朝は早い。早起きしなければ講義の時間に間に合わないほどの仕事が朝にあるからだ。新入生は1年先輩の院生に連れられ、毎日その日の分の水を汲みに川まで行く。往復1時間かかる重労働だ。
さらに一つ年が上がると薪を割る仕事になる。各々知恵を絞って材木と格闘する。割られた薪は倉庫で二年ほど乾燥させてから使われる。
4年生になると畑の世話が仕事になる。栽培している野菜は四季折々で、韮、瓜、ホウレン草、白菜、芥菜(からし菜)、黄瓜、大根、生姜、大豆、蓼、花生、芝麻、 胡葱、胡蒜、甘蔗、カブ、セリ、人参、茄子等、様々だ。林檎などの果物も近くで取れるため食料は完全に自給自足、逆に人里まで売りに行くこともある。数はそれほど多くないが、鶏も飼っている。
5年以上いる院生の仕事は食事の支度と、学院内の掃除だ。基本的に5年たつと院生たちは学院をでて郡県の官吏になったり、郷里に戻って教授をしたりする。とはいえ中にも例外はいて、その例外というが、この徐庶である。
あー眠い。ていうか、お酒が薄すぎて全然酔えなかった。講義できる程度とかそれ以前の問題だわ。一度しっかりしたお酒飲むと物足りない。前回来たのが大体3ヶ月前だから……そろそろよね。待ち遠しいわ。
朝のまどろみの中でそんなことを考えている徐庶に、呼び出しがかかった。呼び出したのはもちろん、母であり師でもある司馬徽である。10歳のときに水鏡女学院の近くで倒れていたのを保護されて以来、母と慕っている。
「お母さん、来ましたよ。」
扉の前で呼びかけると、入るように返事が来た。中に入ると事務机に向かっている母の姿があった。どうやらまた劉表から招請の手紙が来たのだろう。
南陽太守の劉表は少し前までは河南尹の何進の部下であったのだが、どうやらその何進の伝手を使って前任の劉焉を益州に追いやったらしい。そのあてつけか劉焉が自分の部下の役人をごっそり連れて行ってしまい、仕事が回らない。地元の豪族に協力を仰いでいるがまだ数が少ない。地元である程度名の通っている司馬徽を召抱えて人を集めたいのだ。
「いい加減、景升殿もあきらめてくれないものでしょうか。」
悪ふざけなのか、少しまじめなしゃべり方をする。徐庶もなんとなくそれに乗っかった。
「それは夜に陽を望むようなものです。」
「その心は?」
「時が経つのを待つか、自分からどこかへ移動するか。とはいえ、それほど嫌ってもいないでしょう?院生を何人か推挙しているんですから。」
司馬徽は劉表への仕官はしないが、自分の教え子を数人仕官させていた。そのうちの数人は徐庶と一緒に学んだ同期の人間である。
「だって、南陽が乱れると私たちにも被害が来るじゃない。」
「まあ、それはそうですけど。」
「と、まあそれは置いておいて、はいこれ。」
一つの竹簡取り出して徐庶に手渡した。広げてみると、名前とその人物の簡単な紹介が書いてある。書いてある年齢から察するに新しい院生のようだ。
「もしかして、私の担当の生徒ですか?」
「ええ、それともう一つ。」
差し出されたのは、徐庶宛の手紙。差出人は彼女の同期の石滔からだった。
「相変わらず嫌味ったらしい文章ね。結局用件は最後の会いに来いって文章だけじゃない。」
「ああ、石滔からですか。その様子だと成功したようです。」
「何が?」
「いえ、こちらの話です。そうれより、どうせなら今日の生徒の顔合わせの後、彼女たちを連れて行って来たらどうですか?」
石滔が今いるのはこの近くにある宛県、劉表に推薦されてまもなく、他数人と一緒に派遣されてきた。人がいないのも理由の一つかもしれないが、学び舎の近くで働けるようにという配慮もあるらしい。
「生徒たちと一緒にですか?」
「親睦を深めるのにちょうどよいのではないですか?」
「それではそのように。」
「よし。それじゃ、そろそろ行くわよ。もし何かあったらすぐに言いなさい。まあ、大丈夫だとは思うけれど。」
真面目な話し方も限界であったようで、言葉を崩して徐庶を鼓舞した。徐庶はしっかりうなずき自らの受け持つ院生の下へ向かった。
――*――*――*――*――
虎鶫side
楓(司馬徽)と別れて生徒の待つ部屋へ向かう。渡された資料によると人数は7人、見た感じ将来有望で面倒くさそうな人間ばかり。特に、諸葛亮はあの諸葛瑾の妹だし、司馬懿や司馬孚は司馬朗の妹。2人とも私の学友だけど、ひどい目に遭わされた。今はどこで何をしているのかは知らないけど、次あったらただじゃ済まさないわ。
龐統って子は尚長(龐徳公)殿の姪っ子だよね。今度こっちに行かせるって言ってたし。荀攸はあの荀家の次女、前に許県に行ったときに双子の姉の荀彧に会ったけどあれと同じような性格なら苦労するかも。
ほかの2人はあまり知らないけど、これを見る限りでは文官よりも武官のほうがいいんじゃないかな。と、そんなことを考えながら教室に入った。
教壇に立って生徒たちを見渡す。表情に出さないように、喜ぶ。私よりも背の高い者がいない。なんせ私は4尺ほどしか身長がないのだ。大抵人から見下ろされる。気分がいいものじゃない。
「初めまして、今日から貴女たちに主に孫子を教授することになった徐庶です。これから数年間よろしくお願いします。」
まあ、こんな感じでしょ。最初から本音で話すと引かれるし。子瑜(諸葛瑾)や伯達(司馬朗)には最初から本性むき出しで突っかかっていったのに笑われたけど。
「私の講義は、基本的に問答と議論で進めていきます。教材は皆さん持っているかもしれませんが、基本的にこの本を使います。」
私がここでまだ学んでいた頃にがんばって書いた本を7人に配る。このための資料集めや、まとめたり、推敲したりで、完成までに二年もかかった。ちょうどいいから教本として使おうと少し前に数冊写生をお願いして用意した。
「恠鳥先生、これは孫子の兵法書ですか?」
少々控えめに尋ねてきたのは諸葛孔明だ。姉から気が弱くてオドオドしていて、私と正反対だ、と聞かされていたけれど、なるほど確かにそのようだ。
まあそれは置いといて、彼女が言いたいのはたぶん本の薄さだと思う。最近本屋で売られているものの三分の一程度しか厚みはない。
「ええ、そうです。皆さんがご実家や書店などで見たことがあるものと比べるとだいぶ薄いかもしれませんね。」
「うちの家なんかの本が十冊くらい束になったやつだよ。ねえ、桃。」
「そうでしたね姉上。わかりましたから少し黙っていてください。」
なによー生意気ね。とかなんとか、司馬姉妹が言い争いを始めたけど、放置しとこ。今はまず説明が優先ね。
「この孫子は意味が重複しているところや不必要なところを私が独断と偏見で整理して編纂したものです。そもそも孫子が著されたのははるか昔のことで、最近の実情とあっていない所もいくつかあります。あくまで実践のための応用の基礎として学ぶと思ってください。」
孫武が書き上げた孫子は後継者たちによって注釈や解説が付加されどんどん肥大化してしまってる。さらに最近は孫ピンの兵法書を混ぜたものまで出てきた。たちの悪いことにわざと間違った注釈をしたものまで出回っている。そういった論外なものは除外して、そこから注釈と解説をばっさり切り落として孫ピンの兵法の部分を除いたものをさらに整理して13編にまとめたものがこの孫子。
「いまこの瞬間に私の授業を受けるのが嫌な方は水鏡先生が教えてくださいますので、そちらに移っていただいてもかまいません。」
楓にはもし志望者が5人未満になった場合は全員を自分で受け持つと約束してもらっているのでこれでいなくなった場合は私はお役御免なわけだけど。
どうやら志望者はいないみたいね。奇特な子ばっかりだ。
「いませんね。それでは今日は挨拶程度にして、宛まで行きますよ。」
どういうことなのか頭に疑問符を浮かべている生徒たちを急かして部屋を出た。楓には、あらかじめ知っているので、伝えずに出ることにした。邪魔しても悪いしね。
宛に向かう道中、先ほどまで妹と談笑していた司馬仲達がいつの間にか隣を歩いていた。どうやら聞きたいことがあるようだ。
「ねえ、先生。姉さまから聞いたんだけど、この孫子の兵法書、在学中に書き上げて今まで誰にも見せたことがなかったって本当?」
司馬仲達がこれ、といって見せてくるのは先ほど私が配ったもの。思い返してみれば確かに誰にも見せたことがなかった気がする。
「確かにないですよ。」
「じゃあ、なんで今回私たちに教本として配ったの?」
「姉上!先生に対してなんていう口の利き方をしているんですか。もう少し年上を敬うということを――」
「いいんですよ、叔達さん。あまり堅苦しくなりすぎると5年も一緒にいるんです、息が詰まってしまうでしょう。限度はありますがこの程度であるなら許容範囲です。もちろん、私に限っての話ではありますけどね。」
私からしてみれば、同い年の子瑜達も、年下のこの子たちも大して違わないというのが理由の一つでもあるのだけれど。こんなことを言えば、周りの大人たちは変に思うのでしょうね。
「それでですね、質問に対する答えは、大事な生徒だからでしょうか。」
「・・・・・・それだけですか?」
「ええ、それだけです。ですが、それは私が貴方たちに門外不出、というと大げさですが、人に見せたことがないものを見せるにたる理由なのです。厳しく指導するつもりなので覚悟して置いてくださいね。」
と、そこまで話したところで、周りが静かなことに気づき、思わず歩みを止めた。
「な、何?」
おっかなびっくり、生徒たちを見回しながら誰に尋ねるのでもなく口を衝いて出た言葉に、司馬叔達が代表するように答えた。
「恐らく、皆驚いているのでしょう。私も含め、ここにいる殆どの人間は物珍しさに門戸を叩き、先生のことを何も知らずにいましたから。無論、姉上のように色々調べた人もいるかもしれませんが。」
「そ、それに最初は嫌がっていたという風に聞いていたので、もしかして今も嫌々なのではないかと思っていたんです。」
言葉を引き継ぐように口を開いた諸葛孔明の言葉に、なるほど。と思わず納得してしまった。確かに最初のころはそんなことは面倒くさいと思って断っていたし、実際決めた後も、心のどこかで何かわだかまりがあったのも事実。それが理由で楓との間に人数が減った場合はなし、という約束をしたのだから。
私が一生懸命やろうと決めたのはすこし前に、ある女性とお酒を飲んだときで、教本を自分で書き上げたものに決めたのも彼女との会話が理由だったりするのだけれど、それは今はおいておこう。
「さっきも言いましたけれど、私はあなた達を教えることに関して一切手を抜く気はありませんよ。」
「なんかよくわかんないけど、一緒にがんばろうってことでいいの?」
「あの……明沙|(蒋欽)、空気読もうよ。」
「あはは。まあ、いいでしょう。さて、そろそろ行きましょうお昼までには着いておきたいですしね。」
それから歩くこと数刻、ようやく宛にたどり着いた。その間はみんなでわいわいと騒ぎながら歩いた。途中、司馬仲達から真名を預けたいといわれたけれど、とりあえずまた今度ということで断った。なぜ預けようと思ったのかも次の機会に聞こう。
門番の審査を通り、門をくぐると少女が二人待ち構えていた。その久しぶりに見るその顔が元気そうであったので少し安心した。
「久しぶりね、藍、龍鼬。」
「ええお久しぶりです。」
「遊び惚けていた怠惰娘がやっときましたね~。」
「相変わらず、辛辣ね。」
「この子から毒舌を抜いたらただのいい子になってしまいますよ。それはそれで残念じゃありませんか?」
「確かに。」
「ですから、あきらめてください。さ、生徒の皆さんが泊まる場所まで案内するので、着いてきてください。」
藍(鐘遥)と龍鼬(石滔)の二人に連れられ、、私たちは、宛の中を歩き出した。このときの私は、残念ながら龍鼬の意味深な目線には気づいていなかった。
何とかエイプリルフール中の投稿に間に合わそうと躍起になっておりましたが滑り込みセーフです。ただちょっと納得しきれていないのですぐに改稿することになりそうです。
こんな作者ですが今後もお付き合いいただければと思います。
4/2 追記
4月1日の投稿にこだわったためほとんど省略した後書きをもうすこし。
4ヶ月間も更新がなかったにもかかわらず、しおりが減っておらず、増えていて少しうれしかったです。
これからも月に1~2程度しか更新できないかも知れませんが、完結だけはさせるつもりでいます。この調子だと完結は数年後になるかもしれませんが・・・。
話題は変わるのですが、改訂をするにあたっていろいろ設定の変更を行いました。もしかするとこれ誰?(主に真名関係)となる可能性がありますので、改訂前に読んでいてくださった方は、今一度オリキャラ紹介のほうに目を通していただけると幸いです。
これからもよろしくお願いします。
6/04 再追記
個人的な理由により、ハーメルンの方へ活動の場所を変えることにしました。おそらく今後二次創作可能な作品が増えないだろうという判断からです。
7月中頃をめどに、あちらにて再投稿し、こちらの作品は消すことになると思います。