断れない申し出
ナイチンゲールの鳴き声が遠くに響いていた。リヴァイは目を細め、陽光が目に刺さるのを感じながら意識を取り戻した。
うぐっ、と声が漏れた。ナイチンゲールの声の次に気づいたのは、全身の痛みだった。まるで誰かに散々殴られたような。
「おはよう、寝坊助」
皮肉めいた声が聞こえた。
リヴァイの目が即座に見開かれ、横になっていた場所から跳ね起きた。素早く周囲を見渡すと、三人掛けのソファに寝ていたことがわかった。暖炉に向かって。
しかし部屋は、山の小さな家でもなく、どこかの居間でもなかった。
広大で豪奢な部屋だった。休憩のための空間も、書斎も、そして背後には大きなベッドまであった。一つの部屋に人が暮らせるほどの。侯爵の息子としての生活から逃げ出して以来、これほどの場所には一度も足を踏み入れたことがなかった。
「決して目が覚めないと思っていましたよ、サンダーストーン氏」
「あ、あなた……!」
すぐには状況を飲み込めず、言葉に詰まった。
かつてボロボロで、腹に木の破片が刺さっていた若い男が、今はソファの足元に、巨大な白木の窓枠の前に、堂々と力強く立っていた。
陽光がその頭を照らし、髪の紫がかった色合いを際立たせていた。その色は外套と揃いで、事故の時よりもさらに豪奢だった。
重厚な布の長い外套に、くすんだ金の刺繍。それに合わせた控えめなエポーレット。大きな黄金の太陽型のブローチで留められ、薔薇の意匠を施した金の鎖が端から端へと渡っていた。ベストもまた同じ赤紫で、外套と同じ刺繍が施されていた。
その衣装は、皮肉に満ちた目とは対照的に、彼の威圧的な存在感をいっそう際立たせていた。
「ただの本屋にしては、ずいぶん騒ぎを起こしてくれたね、レオ」
自分の名前を呼ばれ、リヴァイは露わにされたような気がした。前の対峙の記憶が瞬時に戻ってきたが、本名であれ偽名であれ、自分の名前を告げた記憶はなかった。
「なぜ俺の名前を?」
貴族の男は眉をひそめ、目を素早く部屋中に走らせた――どうやら自分の部屋らしかった。
「男爵は一度も屋敷に招待しなかったのか?あの娘とは親しいと聞いていたが」と彼は静かに笑った。「アメリア・ソーンフィールド嬢が、君のことをずいぶん心配していたからね」
「ソ、ソーンフィールド嬢が?」
ウェストハムで七年暮らして、豪邸に足を踏み入れたことは一度もなかった。まして領主の邸宅など。それなのに目の前の男は即座に安宿を確保し、男爵よりも、ほとんど王そのもののような豪奢な衣装を纏い、自分を救った者を中に入れることまでやってのけていた。
明らかに尋問しながら。
「彼女は本屋のレオについて知っていることをすべて話してくれた。一頭の馬が逃げ出し、男爵の衛士が見つけ、兵士たちが現場に駆けつけて我々を救出した。しかし空をほぼ引き裂いた若者についてわかったことといえば、それだけだ。本屋で、名前はレオ、と」
リヴァイが立ち上がろうとする間もなく、貴族の男は決然と腰を下ろし、足を組んだ。
言葉を締めくくると、少年を見つめ、顔から笑みが消えた。
その瞬間、リヴァイは自分が深刻な立場にあると悟った。
あの男は、稲妻のすべてを目の当たりにしていた。見逃すはずがない。
リヴァイは、異端者であるために殺された王の話を思い出した。深く息を吸い、レオについての嘘をつく準備をした。本当の素性を、この男には絶対に知られるわけにはいかない。
死ぬなら、一人で死ぬ。ナイチンゲール家に何かあってはならない。
「正直に言うと、面白いと思ったよ。聞いた話を、一言も信じていないから」
胸が締め付けられた。
まずい。
「陛下、俺の名前はレオで……」
言い終わる前に、男が身を乗り出した。眉の下からリヴァイを見据える。冷たく鋭い視線が突き刺さった。
「七年前にここへ来た。奇しくも、リヴァイ・ナイチンゲールが姿を消したのと同じ頃に」
自分の名前が発音されるのを聞き、息の仕方を忘れた。心臓が締まり、止まった。
「本当に、その名前は存じ上げません。おっしゃることの意味が」
「聞きなさい、サンダーストーン氏。私は妹と二人、あくまで内々の用件で旅をしていた。あの忌々しい追い剥ぎどもと君の爆発のせいで、今や男爵の家に厄介になり、居場所を知られている。こちらが身分を明かさざるを得なくなったなら、君も来てもらう」
リヴァイは眉をひそめ、固唾を飲んだ。再び、男の外套の太陽の意匠に目を向けた。
確かに、前日とは明らかに異なる装いだった。そしてその紋章が、記憶の何かを呼び起こした。
王家の城で行われた太陽の祝祭に、まれに招待されたあの頃、太陽の意匠はあらゆる場所に描かれていた。
エインズワース家の紋章だった。中央の鮮やかなアメジストが、一族の瞳と髪に宿る紫と調和していた。
突然、すべてが繋がった。
「あなたは……国王陛下?!」
気づかないまま、ほとんど叫んでいた。
「その通り」
王はわずかに微笑んだ。
リヴァイは立ち上がり、その場に跪いた。
侯爵の息子とはいえ、これほど王に近づいたのは初めてだった。幼い頃に謁見したのはヘンリー三世陛下だった。一年前にその陛下が崩御されたなら、今や四世ということになる。
「いかなる無礼も、お許しください、陛下」
「あれほどの教育を受けておきながら、まだただの本屋のふりをするつもりか?」
「ですから、俺は本当にレオで――」
「嘘をつくのをやめなさい!」
なぜか、ブローチのアメジストが輝いた。ヘンリーの言葉の直後、リヴァイは自分の意志を失ったような気がした。何の抵抗もできないまま。
「俺はリヴァイ・ナイチンゲールです」
王は満足そうに微笑んだ。これほど穏やかに自然に語られた真実も、彼には驚きではなかったようだ。
しかしリヴァイには、どうやってその言葉を口にしたのかすら、わからなかった。
まるで陛下の意志が、命令として表れたかのようだった。
「その方がずっと楽だろう?」
目を離さないまま、肘掛け椅子に背を預けた。
「想像してみよう。偶然にも両親の家を爆発させ、今日まで憑きまとう罪悪感に苛まれて、逃げ出したというわけだ」
「なぜ、両親の家で起きたことを?」
「一年間、君を探し続けた。二度、私の亡き父に内々の謁見を願い出て、捜索の助けを求めてきた。そして最終的に、私が君の葬儀に出席した」
リヴァイは頭を垂れた。驚きはなかった、どこか。
いつかは消されることはわかっていた。そうしたかった。しかし、それを言葉にされると、突然姿を消した息子のための葬儀を想像すると、内側から何かが壊れていくようだった。
「いい式だった。棺は空だったから短かったが。しかし我が頑固な妹が、すべてが爆発した場所に行くと言い張ってね」
リヴァイは素早く顔を上げた。困惑して。
「そんな顔をするな。彼女が決めたことだ」
「なぜですか」
「見せよう」
陛下の顔が突然、薄紫の霧に包まれた。静寂の虚空のような、かすかな高い音が耳を打った。
どうしてそうなったのか、理由もわからないまま、周囲の部屋が消えた。陛下の目が容赦なく見据える中、気づけば二人はベアトリスの書斎に立っていた。
「これは一体何ですか!」
「私が見せているのだよ」
当然のことのように言った。
リヴァイは立ち上がり、周囲を見渡した。七年ぶりに、あれほど慰めをもたらし、しかし自分が破壊したあの場所を目にして、胸が激しく打った。
しかし、何かが違った。
かつてリヴァイが稲妻を呼び出した場所に、一人の少女が立っていた。赤みがかった茶色の髪を結ぶリボンと揃いの、優雅な黒のドレスをまとって。
「殿下?」
「彼女は答えない。私の記憶を見せているだけだ」
リヴァイは陛下を見つめた。頭の上に、巨大な疑問符が浮かんでいるようだった。
「……そんなことが」
「少年の手から稲妻が出ることも、そうではないはずだが」
リヴァイが言葉で反応する前に、傍らの姫の幻影が口を開いた。
「稲妻はリヴァイから来た」
地面に手を置き、まるでそこから何かを読み取るようにして、彼女は言い切った。
「地面に触れただけで、わかったというのですか?!」
「妹には、触れるだけで思考、記憶、感情を読む能力がある。私が彼女の馬鹿な行動に頭を抱えたくなる日には、特に不都合な能力だが……否定しようのないほど有用でもある」
陛下を振り返り、呆然と見つめた。
「では、ずっと俺の居場所を知っていたということですか?」
「いや、彼女は猟犬じゃない。ヘッドフォードからウェストハムまで、どれほどの距離があると思う?君が通り過ぎた場所のすべてを、誰が誰に触れたかもわからない状態で辿らなければならない。我々は全知ではない」
指を鳴らすと、幻影が消えた。
リヴァイの中の何かが、あの慰めの場所にあっという間に連れていかれ、そして同じくらい唐突に引き戻されたことを、寂しく感じた。
「早かれ遅かれ、君が弾けて見つかるとわかっていた。こんなに不都合な瞬間になるとは思っていなかったが」
リヴァイは後ろに崩れ、跪きを解いて座り込んだ。足元の地面を引き抜かれたような感覚だった。何もかもが意味をなさなかった。
家の秘密だと思っていたあの事故は、王家の兄妹に届いていた。匿名のつもりが、そうでもなかった。救ったと思っていた貴族は統治者だった。彼らはリヴァイを恐れていなかった。それどころか、同じ異端者だった。この一連の歪みの中で、一つの問いが最も際立っていた。
「なぜあなたは、この稀な力を持っているのですか。異端の王は、自らの兄弟に殺されたと聞いています」
陛下は微笑んだ。背筋に冷たい震えが走った。
「頭がいいと聞いていたがね」
再びヘンリーがリヴァイの顔に近づき、見据えた。
「今しがた、君の家に連れて行った。操る力を持つ王が、異端者は死んだと皆に告げたなら、信じると思わないか?」
「しかし顔が違います!」
王は視線を落とし、笑うだけだった。再び顔を上げて、答えた。
「……双子だったのだよ」
リヴァイは固まった。
双子。
評議会に名を連ねる家系の母でさえ、知らなかった。
それはつまり、実際には……
「すべてを操っていたのですか」
わずかに眉を上げた。素早く、示唆的な仕草で。
「生き残りのゲームというものだよ、君」
リヴァイは固く息を飲んだ。周囲を見渡し、平静を取り戻そうとした。
拳を握り、立ち上がろうとした。そうすることで、王と正面から目を合わせることができた。
「陛下、なぜこれをすべて俺に明かすのですか」
「ようやく聞いてくれたか」
ヘンリーはリヴァイの視線より一寸でも下に留まることを拒むように、立ち上がった。
「四世代にわたり、この世界で異端者は我々だけだった。神から直接正当な統治を授かっていたにもかかわらず、貴族たちは我々の力を恐れた。才を異端と呼んだ」
「人は理解できないものを恐れる」
「そして制御できないものも」
ヘンリーは身を傾け、秘密を打ち明けるように近づいた。
「我々にできることは、人の理の及ばぬところにある。物理的な防御は持たない。だがそこに、君が現れた。君と共に、激しい嵐も」
片手でリヴァイの左腕を掴み、持ち上げた。
「稲妻を自らに引き戻し、残るのは痣だけだ」
思わず自分の腕を見た。しかし今回は、痣に変化はなかった。目覚めるまで時間はかかったが、まだ生きていた。無傷で。
「我が家に必要な、強き盾だ」
ゆっくりと腕を下ろした。
「お断りします」
二人の間に沈黙が落ちた。
その言葉の冷たさに、ヘンリーの眉間に疑問の皺が寄った。
「できません。その人生は捨てました」とリヴァイは続けた。声は揺るがなかった。「七年前に」
王の唇に、かすかな微笑みが触れた。
「それでも、我々のために嵐を呼ぶことを躊躇わなかった。とりわけ彼女のために」
リヴァイの目が硬くなった。
「選択肢がなかっただけです」
ヘンリーはわずかに頭を傾けた。
「そうか?」
一歩近づいた。
「立ち去ることもできた。誰にも気づかれず、凡庸な生活を続けることもできたはずだ」
リヴァイは何も言わなかった。
「我々を見殺しにすることもできた」
「今は陛下が、生き残るために皆を操るとわかりました」
「だが当時は知らなかった。それでも君は彼女のために空を引き裂いた」
リヴァイは歯を食いしばった。
ヘンリーの目が光った。
「それでいて、この世界とは関わりたくないと信じろと?正直に言いなさい、ナイチンゲール氏。全身を駆け巡るあの感電の感覚が、好きではなかったか?誰かを救う力が?」
「殺しもした」
「この世界では、殺すか死ぬかだ」
重い沈黙が漂った。
「申し訳ありませんが、陛下ほど冷静には考えられません」
「自分の家族の家を捨てた男が言う言葉か」
「守るためでした!」
リヴァイはついに声を荒らげた。
気づけば主君に向かって叫んでいた。しかし抑えられなかった。
「だからこそ、今立ち上がって我々を救えと言っている!違うというだけで逃げ続けることに、飽き飽きしていないのか?」
目を逸らした。
「自分のために逃げているのではない。家族のために。だから家族のために、ご招待を丁重にお断りします。どうか他の方を」
リヴァイは背を向け、寝室の扉に向き直った。
ヘンリーは低く唸り、目を剥いて天を仰いだ。
「まったく……素直に従ってくれると思っていたのに」
呟いた直後、王の手がリヴァイの肩に伸び、置かれた。
再びヘンリーを見るよう促されると、アメジストが最後にもう一度輝くのを感じた。
「今この瞬間から、君はもはや本屋のレオではない。リヴァイ・ナイチンゲールだ」
リヴァイの息が止まりかけた。
「七年前、ヘッドフォードで落雷を受け、記憶を失った」
記憶がすべて戻ってくる中で、ヘンリーの意志が内側に刻み込まれていった。
「レイヴン家と同じ光魔法を持つとし、それが雷を放つほどのエネルギーを生む稀な変異とする。国王がウェストハムで君を見つけた。姫を救った褒賞として、王立ローゼン学院において姫の護衛を任される」
「俺は……」
顎を固め、抗おうとした。
しかし無駄だった。
「俺はリヴァイ・ナイチンゲール。光魔法を持っている。記憶を失い家族と離れ離れになっていたが、陛下が見つけてくださった」
短い沈黙の後、最後の言葉を口にした。
「……そして今、姫の護衛となる」
「あの男…… 安っぽい操り師め」
ウェストハム男爵の小さな邸宅の入口へと続く階段を下りながら、リヴァイは独り言を呟いた。小屋と呼んだ方が適切だと思ったが、そんな考えを抱くこと自体があまりに無礼で傲慢だと感じ、今この瞬間に王に対して覚えている怒りに集中するよう自分に言い聞かせた。
陽光を浴びて、二台の馬車が止まっていた。左の質素な方には、ソーンフィールド家の茨の紋章。右には、明らかにより華美な馬車。四頭立てで、金で飾られていた。
ヘンリーが前日の旅は秘密だと言っていたことを、リヴァイは思い出した。実際にどれほど格式を抑えていたか、想像もしていなかった。
「……レオ!」
甲高く、無邪気な声が叫んだ。
振り返ると、すぐにアメリア・ソーンフィールドの上気した顔のシルエットが目に入った。
ただし今回は、彼はカウンターの向こうにいるわけでも、彼女は上客でもなかった。
それどころか今回は、彼の前でいっそう赤くなっていた。
立場が逆転していた。
死亡宣告を受けていたとはいえ、彼の方が格上になっていた。
アメリアを見て、キースのことを思い出した。
できるだけ早く辞表を送らないと。そう心の中で思った。
「……つまり、ようやくその傷の話がわかったわけですね」
目を逸らした。今回は逃げられなかった。
「迷子のナイチンゲールだったんですね。では、改めてご挨拶を」
丁寧に、格子柄のスカートの裾を摘まんで、軽くお辞儀をした。
「アメリア・ソーンフィールドと申します。十七歳、ウェストハム男爵の娘です。趣味は読書で、ラビットというウサギを飼っています」
茶目っ気たっぷりに言った。
感情を押し殺したまま、状況全体が戸惑わしかった。それでも、強いられてであれそうでなくても、もはや隠れ続けることはできないと感じた。
「リヴァイ・ナイチンゲール、陛下のお側仕えです。お見知りおきを」
リヴァイは頭を上げ、彼女を見た。
「まあ、もう自己紹介の仕方を覚えたんですね。陛下とお会いになって、記憶が戻ってきているんですか?」
眉をひそめ、顔をしかめるのをこらえた。階段を下りてくるヘンリーを横目で見た。
「ええ、もちろん。陛下をお助けしましたが、救ってくださったのは陛下の方です」
あの男の、皮肉な満足の笑みが伝わってくるようだった。
「素晴らしい!」と彼女は声を弾ませた。「ローゼン王立学院、きっと気に入りますよ!光魔法にきっと役立つはずです」
「光魔法。そうですね」
これほど堂々と嘘をつき続けたのは、生まれて初めてだった。
ベルトの太陽の紋章を握りしめた。たいして仰々しくもなく、護衛の制服を手渡された。深い紺色の。
金のボタン、胸を斜めに渡る鎖、袖に施された印象的な星型の徽章。そして同じ色の刺繍が施されたスタンドカラーと揃いの、金の房飾りつきの構造的なエポーレット。
レオとして、普段着で何年も過ごしてきた後では、内側だけが居心地悪いわけではなかった。
アメリアが新たな敬意を持って彼を見るようになったのも、無理はなかった。
「……でも、あの狂った姫殿下との幸運を祈ります。きっと必要になりますから」
アメリアの明るさが翳り、恐れの色が滲んだ。
すぐに頭を下げ、引き下がった。
男爵が一家の馬車の前で待っていた。リヴァイに向かって頷いた。
本屋を貴族として扱うのが、誰にとっても容易ではなかった。
姫にまつわる「狂気」という概念を処理する間もなく、再び扉が開く音がした。朝の光が、天使のような顔を照らした。
この世のものとは思えないほどの美しさだった。あまりに完璧で、非現実的なほど。別の現実に連れ去られるようだった。
その顔立ちを眺めながら、リヴァイは太陽の祝祭とヘンリーの記憶の中に見た姿を思い出した。姫は成長していたが、その名の通り、スミレ色の瞳は何一つ変わっていなかった。
冷たく、読み取りがたい真剣さを帯びたまま。
「リヴァイ・ナイチンゲール卿」
その声はビロードのようで、聞く者の心に響き渡った。
「殿下」
階段の一番下の段で、彼と向かい合って立っていた。彼より頭一つ分低いが、顔は高く、優位に保たれていた。
「あなたのおかげで今もこうして生きているとのこと。どうやら愚かな兄だけでは無理だったようです」
兄の言葉にも、一瞬たりとも視線をリヴァイから外さなかった。まばたきひとつなく。
「真っ只中で気絶していたあなたから、解決策を聞いた記憶はないが」
「でも、おかしいですよね」
リヴァイは眉をひそめた。兄妹のあまりにも奇妙な似方に気づきながら。
「王には城に勲章だらけの将軍が護衛としているというのに、私に当てがわれたのは、小さな雷を出して突然目立ってしまった落ちこぼれの貴族だなんて」
「気絶していた時の方が恋しくなってきたよ」
ヘンリーは目を剥いた。
ヴィオレットが横目で彼を睨んだ。リヴァイは微動だにしなかった。
一体どこで、あの少女にレイカを見たというのだろう。
「ずっと探していたら、向こうから転がり込んできた」
奇妙なことに、彼女は皮肉めいた笑みを浮かべ、目が輝いた。
「面白い」
リヴァイはため息をつき、視線で彼女を観察した。
あの少女は王にそっくりだった。ただし、はるかに、ずっとひどかった。
「陛下から断れない申し出をいただきました、殿下。もっとも『断れない』という言葉は、選択肢があることを前提にしていますが」
それは俺にはなかった。
彼女は兄を見て、すぐに察した。
しかし、苛立つ代わりに、笑った。
「よろしく、リヴァイ・ナイチンゲール。これはとても……楽しいことになりそうですね」
背筋に寒気が走った。
自ら望んで内向きに生きてきた者が、その殻から出ることを強いられようとしていた。
影の中に留まろうとして費やしてきた年月のすべてが、台無しになった。
躊躇いを感じた。怒りを感じた。不安を感じた。
そして最悪なことに。
怖かった。
生涯で最も狂った人間に、たった今引き合わされたような気がしていたから。




