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私は彼女の眼になりたい  作者: 巳ノ星 壱果


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8話 その一言の向こう側

 「瑠夏が強く、逞しく生きる中で、

 見えていない世界とは、どんなものなんだろう?」


 そう考えるようになった。


 目が不自由だと、耳がよく聞こえる。


 そんなことを、友人に言われた。


 当時、わたしはコールセンターで働きはじめた。


 耳だけで得る情報とは、どんなものなのか。

 それを知りたかった。ただ、それだけだった。


 一日に、60人から80人と話す。


 せっかちな人。

 人生がうまくいかない苛立ちをぶつけてくる、クレームの常連。

 暇つぶしのように電話をかけてくる人もいた。


 ある日、固定電話に折り返しの連絡をした時のことだった。


「ご主人様、いらっしゃいますでしょうか」


 そう問いかけた瞬間、電話に出た奥様の声が、わずかに変わった。


 その変化を、わたしは聞き逃さなかった。


「あんた、電話だよ」


 その一言に、思わず息を呑んだ。


 わたしの家では、「あんた」と呼ぶことは、相手を軽んじる言葉だと教えられてきた。


 だからこそ、その響きに、夫婦の関係性がにじんでいるように感じた。


 その一言に、すべてが含まれていた。


 このクレーマーの男性は、家庭でもうまくいっていないのだと、直感的にわかった。


 そう思えた瞬間、少しだけ気持ちが楽になった。


 これは、仕事なんだと。


 そう割り切ることができた。



 一人ひとりの声を聴きながら、考えた。


 この人は、どんな人なのか。

 何を求めているのか。

 何に満たされていないのか。


 コールセンターは、声と声の対話だった。


 だからこそ、

 見えない世界を、想像してみたかった。


 そう考えたとき、ひとつのことに気づいてしまった。


 瑠夏が、対人関係をうまく築けない理由。


 トラブルを起こすことはない。

 けれど、積極的でもない。


 もしかしたら、耳から得る情報が多すぎて、疲れてしまうのではないか。


 だから、あえて人との距離を取っているのではないか。


 そう思った。


 コールセンターで働く中で、わたしは少しずつ理解していった。


 声だけでも、人の性格は見えてくるということを。


 そして、声のわずかな揺れや、わずかな間から。


 瑠夏と同じように、耳だけで世界を感じ取ろうとしていた。


 それは、わたしの日常を大きく変えていった。


 職場の人の声。

 知り合った人の声。


 その声だけで、その人の輪郭をなぞるように、性格を思い描くようになっていた。


 瑠夏に見えている世界。


 その一部でも、わたしは知りたかった。

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