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フロウクラスと白服のクレバ・ハインツ

 後期は授業が応用に切り替わるが、夏休みに予習をしたこともあり、剣術以外は順調に進んでいる。

 ラウルも大丈夫だよと言っていた。


 俺とノエルとラウルの3人でレストランやカフェに行くと、二人が兄弟に見えるようだと気づいたのは、声をかけてくる女子生徒が増えたからだった。


「ごきげんよう。ノエル様の弟さんですか?」

 今日もまた勇気のある見知らぬ生徒に声をかけられる。ラウルは笑顔だ。

「僕の名前はラウルツ・グルバーグだよ」


 聞いた生徒は俺をチラ見する。

「君で13人目だよ。面識もないのに声をかけて、邪推し、礼を失したのだから弟が困った時は力になってやってね。それで許すよ」

「うっ、はい。申し訳ありませんでした」

「うん、いいよ。クラスと名前を聞いてもいいかな?」


 俺の黒髪を見て金髪のラウルを確認するのだ。

 変な勘繰りはご免なので、きっちり失礼だと言っておく。

 そしてお手伝いリストに書き加えるのだ。

 ラウルも味方が増えるねと笑っている。クラスと名前を告げた女子生徒に手を振って見送る。


「なぜこんなに声をかけてくる者がいる?」

 ノエルが嫌そうな声色で尋ねた。表情には出ていないが声には出ている。

「ラウルが話しかけやすそうなのかな」

「3人だからじゃない? 一人だと誰にも声をかけなさそう」

「なるほどな」


 笑ってその内収まるだろうと放っておく。

 3人での学生生活も中々に楽しく、後期試験の詩のために図書館でいくつか本を借りて魔道具や魔法の本も読んだ。


 これは来年の為だ。

 魔法陣は難易度の高いものでも理解できるので、最新の物と内緒で禁書庫の物を貸し出してもらった。


 試験は、どの試験も問題はない。恐れていた剣も小テストの合格を貰い剣舞も合格を貰えた。

 今回は成績が落ちるだろうが、致し方ない。

 なぜか加点が貰える謎の詩を頑張っておいたので、そこまで落ちないだろう。

 

 楽観的かな。


 学年末の試験をすべて終え、張り出された順位は2番でそれにも驚いたが、俺とノエルの間にもう一人名前がある。入学してから初めてのことだった。


 クレバ・ハインツ。

 二組、フロウクラスの白服の生徒だ。


 順位や加点が同じ場合、白服が先に名前を書かれるのでこうなったようだ。

 俺の苦手な剣や剣舞が得意らしい。加点の上限の30ずつがついている。

 剣術は試験は、先生のミスで小テストのみで評価をつけられている。


 俺は茶会、詩と文化的なものの加点だ。

 ちなみに茶会は菓子コンクールを頑張ったからか30が加点されている。

 詩も20で音楽が10だ。

「音楽って頑張っても加点は10なんだよな。もっと詩にシフトすべきだったか」


 図書館で本格的に詩の勉強を始めた。

 学んだ技法をちゃんと評価してくれて加点が大幅についている。


「ソルレイの横笛の評価が低いのは前から疑問に思っていた。ユナ先生はあれだけの反応を示す割に加点は10で俺と変わらない」

 ノエルは、音楽10、剣、剣舞が30ずつ、詩も10が加点されていた。


 ノエルの壁が厚いのは分かっていたし、剣術や剣舞の先生が頑張りを評価してくれたのは素直に嬉しい。

「前期の試験の時に、コンクールに出るように言われたけど断ったからかもしれない」


 ただ、来年の前期ってどうなるんだろう。前期の試験が免除で加点0ならやる気がなくなる。

 俺だけ来年の試験の難易度が跳ねあがっているのに、結果に反映されないのだ。


 普通に前期試験を受けた方が点数がいいなんて最悪の結果にならなければいいが。

 横笛は一人だけだからというので明らかに楽師がやるレベルを求められている。


 自分で言うのもなんだが、12才に求めるレベルではない。

 高等科では、6弦楽器にして横笛は家で楽しもう。

 俺は、この試験結果を見てそう決めた。


 学校は明日で終わり冬休みに入る。

 そのこともあり、図書館に行って本を借りておこうと向かったものの、借りたかった魔道具の本が一冊もないことに気づいた。


 書棚から本がごっそり消えている。

 こんなことは今までなかった。もしかしたら他の場所に移動しているか司書たちの手によって補修されているか何かだろうと考え書庫室に向かった。


 そこで魔道具の本がない理由を知ることになった。

「ソフィーさん、エルマさん。魔道具の本が一冊もないのですが買い替え中ですか?」

「いいえ、違います。私達も困惑しているところなの」

 てっきり肯定されると思っていた。


「というと?」

「フロークラスの子達が魔道具の本を借りていらっしゃるの。そのこと自体は悪いことではないわ。でも期間がちょっと長すぎるのね。どうするか対応を協議しているところですわ」

 借りて怒られるのはいくらなんでも気の毒だ。

「俺もよく借りるから気持ちは分かります。好きな本は、返却ギリギリまで手元に置いておきたいから」


 もう一回読み直そうとして返却を惜しむ。笑いながら言ったのだが、ソフィーもエルマも笑ってくれなかった。

 戸惑っていると頭を振った。


「ソルレイ様とは違うわ」

「これは意図的にやっていますのよ。クラス全体で魔道具の本を借り続けていますもの」

「深刻なのですか?」

「ええ、とっても」


 このままだと借りられるのは卒業間近だと言われてしまった。それは困った話だ。借りたかったのは、シリーズ物の3冊目だった。先に借りたい。


「では、割り込みを希望します。先に貸出して下さい」

 順番を入れ替える案を提案した。

「まあ! でもいい案だわ」

「そうですわね。そうしましょうか」


 それから3人で内緒の決め事をした。同じ本の二度目の予約は後回しだ。


 翌日、ラウルとノエルを図書館に誘い、二人が本を選んでいる間に図書カードを借りて魔道具の本の予約を行っておいた。


 4年生になった時、いや試験前かな。困るのはフロウクラスになるだろう。

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