魔道具の研究
パキンーーーー
この日、研究棟で本を見ながら難しい魔道具を作っていた俺は、魔石ではなく貴重な魔導石を弾けさせてしまった。
「あーやっちゃった。もつと思ったんだけどな。先に一週間でもMPポーションに浸けておけばよかった」
可哀想なことをしたとテーブルから落ちた欠片を拾う。
一級鉱石を3つ使う魔道具は成功したり失敗したりを繰り返していたが、作り直せば済む範囲の失敗だった。
今回は、石の寿命を見誤った。思っていたより石の魔力が落ちていて、他の石が出す魔力と釣り合いが取れずに力尽きてしまった。完成したらMPポーションに漬けようと思っていたが、駄目だった。
「勿体ないことをしちゃったな」
割れたのは紫色をしたペール石だ。主石の補助石として使われることの多いこの石は、石の負担がかかりやすく消耗が早い。
研究棟の魔石・魔導石の保管室に置いてある物は、新しい物と古い物が混ざっている。お爺様もカルムスもちゃんと石の魔力量を調べてから使うので雑多な置き方でも問題ないのだ。
調べなかった俺が悪い。
「確かこの石はアインテール国内でも採れるんだったな」
石の図鑑を捲って調べると、カルムスの実家のグレイシー領で採れることが分かった。
行っていいか聞いてみよう。
全然帰っていない気がするから、一緒に行ってもいいな。
早速同じ研究棟の2階に向かった。
「ああ、好きに行ってきていいぞ。森のどこにでも落ちているからな」
研究室で読んでいる本から視線を上げること無く答えた。好きに拾っていいらしい。その事自体は有難いけれど、いいのだろうか。
「ありがとう。でもいいの?」
「何がだ?」
「カルムお兄ちゃんって家に全然帰ってないよね? 一緒に行く?」
「ようやく研究三昧の日々なんだぞ。行くわけないだろう」
俺達とラルド国に戻って来るまでにも研究室への出入りは許されていたが、貴重な資料の閲覧は制限されていたらしい。
俺やラウルに魔法や魔法陣を教えることを条件に、屋敷に住むことも書庫室の出入りも、ようやく許されたことは前に聞いたことがある。
煩かった財務派閥もようやく静かになったので、今は研究に専念したいと言われてしまった。
「実家に帰るだけなのに」
「領は弟が継ぐからな。手紙を書くから渡しておいてくれ」
「うん、分かった。4年生になったら使うだろうから余分に貰えるように頼んでくれる?」
「好きなだけ採ればいい。どうこう言うようなやつじゃない」
家族仲がいいことは、財務派閥の会合で会ったため知っている。父親と一緒にカルムスが迷惑をかけていないか心配していた。
俺とラウルにとってはお兄ちゃんだと言うと、実弟のアイオスさんは笑っていた。奔放な兄に苦労しつつも、根底では尊敬している弟という感じだった。
「じゃあ、お言葉に甘えて、明日にでも行ってくるね」
「ああ。先触れはロクスに頼めばいい。何度か所用で行っているはずだ」
「うん、ありがとう」
ついでに4年生の時に楽をすべく魔道具を作るための材料を休みの間に揃えておこう。
ラウルも寒いのに一緒に出掛けてくれると言うので、カルムスのお父さんカイロスさんの領に行き採集をさせてもらった。
欲しかった鉱石のいくつかは、ここでしか手に入らないのだ。特にペール鉱石はここが国内の産出量1位で、森ではなく、わざわざ良質なものが採れる鉱山まで案内をしてくれた。
「ありがとうございます。良質な鉱石が手に入りました」
「ありがとうございます。僕もいっぱい採らせてもらいました」
二人で採った鉱石を見せた。
「ハハ。宜しいですよ。他国から来ている学生にはどの程度あるか知られるわけにはいきませんからね。学校側が用意するのですが、アインテールの生徒は自力です。それでも、自分で採りに来る方は珍しいですよ」
温和な微笑みは、カルムスと真逆の印象を与えた。
「欲しい大きさがあるので、自分の目で見たかったのです」
「大きな森も探検できて楽しかったです」
採集が終わると、体が冷えたでしょうとお茶に誘ってもらった。メイドが紅茶とお菓子をおいてくれたので、いただきますと口をつける。
「ご自身で採集とは、さすがはグルバーグ家ですね」
「お爺様のようにはいきません。努力しますが難しいです」
「まだ学生の身。それでよいのではありませんか」
皆そう言ってくれるんだよな。
「周りが優しいので、甘えてしまいます。厳しい言葉をお願いします!」
そう言うと笑い出す。笑われても嫌な感じがしない朗らかな笑い方だった。
「ハハハ。では、いつか、ラインツ様を超えられるような魔道士になってください」
「ラウルと二人で頑張って目指してみます」
「うん! 二人でならなんとかなるかもしれないね」
「うん」
芋菓子専門店のシエルがオープンしたことを教えてもらったり、カルムスの近況を伝えたりと楽しい話をした。最後に、またいい話があれば是非うちにと言われた。
この抜け目のなさは、さすが財務派閥だなあと笑った。
お礼を言って、ラウルと家に帰る為に馬車に乗り込む。
「お兄ちゃん、今日はちゃんと笑えてたよ。緊張してなかった」
「カルムお兄ちゃんのおかげだな。身内認定すると平気みたいだ」
例えば、ロクスやミーナの家族なら恐らく初対面でも焦らない。後は慣れもあるのだと思う。無理して貴族らしく振る舞わなくても大丈夫なのかな。
学校でもようやくクラスの子達とも打ち解けてきた。クラス替えがなくてよかったと心から思ったのだ。
「ラウル。約束のお菓子ができたよ」
「本当!? ずっと作ってくれてたのは知ってたんだよ。早くできないかなって待ってたの」
甘い匂いがするので、分かっていたようだ。
「ふふ。ずっと待っていてくれてありがとう」
「いいよ。どんなの!?」
「帰ったら作るよ。食べてからのお楽しみ!」
満点に加え加点も多く一番を取ったラウルのご褒美は中からチョコレートが溢れだすフォンダンショコラで、もう一度温めるとガトーショコラに変わる。
カカオを取り扱っている大店を見つけるところから始めたため時間がかかった。
ブーランジェシコ先生にロータリーにあるカフェのココアについて、仕入れ先を聞いたことがないかを尋ねたくらいだ。大店からの紹介で運良くチョコレートも手に入れられたので、何とか作れた。
栽培が軌道に乗ったベリオットも添えて出そうと思っている。
温かいスイーツだ。
家に帰ってから丁寧に作った。
「すぐに食べて欲しいんだ。待っていてね」
焼いて出すと、フォークで中身を割り期待を込めたキラキラな目で見られる。
一口食べて、美味しかったようで笑顔だ。
「お兄ちゃん大好き!」
「口にあってよかった。俺も大好きだよ」
可愛いラウルを見られて良かった。
ちなみに今日はラウルだけのご褒美だ。
ただ、お爺様が食べたいと言ったら、夜にこっそり作ろうとは思っている。
喜ぶ顔を満足気に見て、俺も一緒に懐かしさを感じながら味わうのだった。




