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グルバーグ家の魔法陣

 2年生の授業が始まるが、問題はない。

 冬休みのおかげか、予習が十分にできる前期は基本の内容も多く、比較的楽でこの間に後期の予習や応用をどれだけできるかで成績が大きく変わる。と個人的には思っている。

 お爺様にはあれから遠慮せずに魔法陣のことを聞くようになった。

 ここは、グルバーク家の敷地内にある魔法陣の研究棟だ。魔法の本もたくさんあるが、魔法陣の実験記録も多く見る人にとっては宝の山だ。ここに出入りを許されているのは家族以外ではカルムスと執事長のアドリューだけだった。

 今はお爺様に難しい魔法陣の組み立て方についても教えてもらっている。

 正反対の属性魔法は2つだけだと相性が悪く、間に違う属性魔法をおくとうまくいくと図書館で借りた本にあるのだが、グルバーグ家の魔法陣は正反対の魔法も2つだけ当たり前のように描きこまれているのでそれで発動するのかを尋ねた。

「出力差と時間の違いじゃな。どちらをメインの魔法にするかを考えるとよいぞ。火であろうが水であろうが関係ないのだ。そして僅かに時間をずらすといい。誤差が1/1000以上あると真逆の属性でも同じ魔法の出力でうまくいく。試してみるとよいぞ」

「ありがとう。お爺様」

 ラウルと二人で一緒に聞くので、楽しいお絵かきの時間になるのだが、描いていると分かることもあるのでいいのだ。

「時間の誤差設定で組み合わせの悪い魔法も発動できるんだな」

 独り言を言いながら、魔法陣を描いていく。

 火と水は特にやってはならないとされる組み合わせの魔法陣で、複合魔法陣の本にはまず載っていないやり方だった。

「魔道士学校で確率の授業があるじゃろ?」

「うん」

「高等学府に行くとどんどん魔法陣が難しくなるのでな。確率はどうしても必要なのじゃ」

「そっか。失敗して発動できないと困るもんね。どれくらいの確率なら成立するの?」

「8割以上で“成功する魔法陣”という定義ではあるが、グルバーグ家では9割9分9厘を目指す」

「うわー! 凄いね!」

 “新しく作った限りは絶対に発動させる”という強い意思を感じる。

「高等学府に行ったら私の書斎で勉強するとよいぞ。代々秘匿にしている魔法陣もあるのでな」

 そういうのはワクワクするな。

「ラウルはねーもう見せてもらったの!1/3は描けるよ!」

「ええ!? ラウルは凄いな!」

 とんでもないことを聞いたように思う。

 褒めてーと来るラウルを受け止めきれずに尻餅をついた。

 そのまま抱き留める。

「ハッハッハ。ラウルツは描くのが上手だからのう。正確に描くので驚いておるのだ」

 俺が学校に行っている間カルムスとお爺様に教わっているのは知っていたのだが、なんともまあ差をつけられてしまったようだ。

「才能があるんだな」

「ソルレイにはソルレイの才があるぞ。さっきの質問も良い質問だ。論理的に魔法陣を読み取る力があるのだ。思考型と実践型の違いじゃな」

「ありがとうお爺様。違う才能で良かったよ。お互いを補えると思う」

「僕も!お兄ちゃんを助けられる方が嬉しい!」

「よしよし。二人とも良い子じゃな」

「おじいちゃん、この影魔法ってなに?」

ラウルが気になったと持ってきた研究資料は、もう表紙がぼろぼろになっていた。

「ああ、それはのう。光魔法と闇魔法と土魔法で作る新しい魔法じゃ。まだ公表しておらんがする予定もないの」

 最初に闇魔法で覆い、土魔法で物体を作り、光魔法で物体を照らしそこに生まれる影を利用して使うのが影魔法らしい。闇魔法が貴族の間で禁忌とされているため研究が進んでいないと教えてもらった。外では言ってはいけないんだな。一時(いっとき)、魔法陣を影魔法で隠し、相手が使う照度の高い魔法や魔法陣を使った時に現れると不意をつけるのではないかと研究していた先祖がいたようだ。

 それなら補助魔法陣で、“ここを通ったら”発動するという設定を組み込む方が楽だという結論になり、それ以後研究はされていない。ただ、この記録があることで設置型魔法陣の研究を多くの子孫がしているので研究の意義はあるのだ。

 これは? といくつか気になるものを尋ねてお爺様の話に耳を傾けた。


 休みの“時の日”と“太陽の日”はお爺様とラウルと山で魔法陣の勉強を。普段は音楽とダンスの練習以外はラウルと遊んで過ごす。

 遠出することもあったが、それでも国内なので安全だ。


 ラウルは、まだ絵本の読み聞かせも喜んでくれるので、学校に通うようになったらもうできなくなるかもしれないと、今という時間を大事にするのだった。

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