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魔道士学の教師 マットン·ディルガス

 なんだかんだいっても俺はまだ10歳なので、やはり慣れないことに相当疲れていたらしい。


 しかも、お爺様の部屋で寝ていたために部屋に入るのを躊躇った使用人達により、俺は翌日の学校を遅刻した。


 1限目は、魔道士学の授業で、先生はグルバーグ家だからって調子に乗るなよとばかりにチクチクと言う。

「ソルレイ様。遅刻ですね。授業は、あと10分で終わります。言い訳を聞きましょうか」

「眠たかったので、家で寝ていました。授業中に寝てしまって先生を不快にするよりは、いいかと思いました」

 正直に言い、さっさと扉から1番入口に近い席に座る。

「ふむ。思っていた言い訳ではありませんね」

 寝坊だと素直に言ったのが意外だったようだ。

 なぜか、少し残念そうにされる。

 何を期待されていたのだろう? 先生を相手に食って掛かったりなどしないのに。

「……私が思う、それは遅刻しても仕方がないと許せるものは、“上級生に絡まれていた”か、“天変地異”です。先生はいかがでしょうか? 今まで聞いたそれは仕方がないなと思う遅刻の言い訳があれば教えてください」

 お爺様に、マットン先生に授業を教わっていると話すと、ディルガス家は代々魔道に明るいだけではなく教えることにも長けているので、教員になる優秀な者が多いと聞きました、親戚の誰かに聞いた話でも良いので、と、言い添えると、少し照れた表情を見せる。

 下級貴族は上級貴族を褒めることはあっても、褒められることは皆無なので、こういうのに弱いのだ。

 ダニエルが処世術の授業でそう言っていた。

 先生の家は、元々男爵家で、教員を排出し続けることで階級を上げたそうだ。

 今は、準子爵家だとカルムスから聞いた。

「そうですねえ、許せるかどうかは別として、“恋文を考えていたら朝になっていました”や“実は、先生をお茶会に誘う準備をしておりまして”と言われた時は言い訳と分かっていても怒ることができなくなりましたね」


 なるほど。


「センスを感じます」

「そうです」

「先生、時を戻してやり直したいです」

「それはもう無理ですが、一応聞きましょう。なぜ、遅刻したのですか?」

「名門グルバーグ家の名に恥じぬよう、昨夜から裏山にこもって修行をしておりました」

 胸に手を当て貴族らしくびしっと言う。

「初回でその回答であったなら、怒らなかったでしょう」

 2回目なので15点が精々ですね、と言いつつ、入って来た時とは明らかに纏う雰囲気が変わっている。

「申し訳ありませんでした。以後気をつけます」

「そうしなさい」

 教科書とノートを出したのを見て、ページ数を言われたため本を開く。

「ソルレイ様、遅刻した罰です。この魔法陣について、分かることを答えなさい」

 おお!分かる!

 お爺様、ラウル、ありがとう!

「はい。この魔法陣は…先生が先週説明されていた魔法陣の付与効果を増大させるものです。炎の魔法を草原で発動させるもので、時間は360秒間……6分間で。その後、風魔法が発動します。風魔法は微弱ですが、範囲場所を炎の外側に設定することで、より大きな炎になるように作られています」

 読み落としがないか確認していると、マットン先生に『その通りです』と言われ席に座った。

「授業中の話はちゃんと聞いているようですね。皆さん、魔法陣は、自分の思い描いていた通りの魔法が使えないと意味がありません。魔法士が放つ魔法は一過性で、連続して行使する魔法陣の魔法とは異なります。予め作成しておけば、その時に魔力を失わずに済むのです。試験には魔法陣がどれだけ読み解けるのかという問題も出ますからね。来週の試験は勉強を怠らず頑張って下さい。今日の授業はこれまで」

 先生が教室から出て行ったので、席を立つ。


 次は移動教室だ。

「ソルレイ」

 名前を呼ばれて、振り返るとノエルが、机の隣を指でトントンと叩く。

 笑って頷き、隣に移動をする。

 皆に「おはようございます」と言われるので、「寝坊したからもう言わないで。先生だけで十分だよ」と笑って返した。

「ノエル様。寝坊しましたが、隣に座っても宜しいですか?」

「なにをしていたんだ?」

「山で修業を」

「……」

 顔を寄せ小声で話をする。

「本当だよ。裏山でお爺様が稽古をつけてくれたんだ。疲れて寝過ごしちゃって」

「使用人達がいるだろう」

「お爺様の部屋で一緒に寝てたから、入るのに躊躇っている内に時間が経っちゃったみたい。気づいた弟子のカルムお兄ちゃんが入って来て起こしてくれたんだ」

「そうか」

 聞き耳を立てている女子達はなんなのだろうか。

 ああ、次の授業はダンスだからか?

 憂鬱になる。

 ノエルが席を立つので、俺も移動するべく席を立つ。ダンス教室へ移動をしているとノエルがふと口を開いた。

「茶会は合格だ」

「よかった」

「根掘り葉掘り訳の分からないことを聞かれた」

「ん? 趣味とか?」

「……説明するのが難しい。気にしないことにした」

 俺はよく分からなくて首を傾げる。

「大丈夫だ。俺もよく分かっていないが、茶会は合格で、来年まで試験も無い」

「うん」


 ノエルが気にしないのなら気にしないで大丈夫なのだろう。

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