ダンスのお相手探し
今日もテイナー先生のテンションの高いダンスの授業にどっと精神的な疲労を覚えながらステップを踏み、もう授業が終わるなという頃、エリットが先生に近づき質問をした。
「テイナー先生、ダンスは合同で試験だと言っていたが、いつ女子を誘えばいいんだ? 自分のクラスはともかく他のクラスの生徒の名など知らないぞ」
そうだよな。
全員と顔を合わせる機会が試験前にあるのかな。
なんとなく皆がステップをやめ先生の発言に注目していた。
「ミスターエリット、踊りたい女性の情報は男性側が自力で調べるものです」
「なに!?」
「社交界に執事を伴えますか?」
「それは……」
そう言われればそんな気もしないでもないけど……厳しいな。自分で相手を決めて申し込むのか。
眉を寄せて決められた場に戻るのを見ながら、そろそろ誘わないとまずいのかもしれないと気持ちが急くような感覚を覚えた。
授業を終えてから、ノエルに相手を尋ねてみた。もう決まっているかもしれない。誘い文句の一つでも聞けたら参考にしようと思ったのだ。
「誰を誘うか決めた?」
「まだ決めてない。エリットの発言で、まずいと思った者は動くだろうな」
「ふぅ。俺も誰か誘わないとって焦ったよ」
「ソルレイは、声をかければOKをもらえるだろう」
「それノエルだよ」
「?」
無自覚なのか。
毎朝クラスの女の子たちが気合の入れた髪型をして挨拶をしに来ているのは、王子より王子っぽいノエルに選んで欲しいからだと思う。
「主席の相手は誰も断らないから、声をかけるといいよ」
「そうか」
「俺は……アインテール国の貴族の誰かに声をかけようかな」
「あの分だと急いだ方がいいかもしれないな」
断わられるかもしれないのに言わないといけないだなんて……。
「あぁ。憂鬱だ」
「……俺もだ」
二人で溜息を吐き、昼休みにガーネルとアモンに行こうかと話した。
音楽の授業に出席すると、後期試験を受けて合格した者は、教室で自習でも音楽室で演奏の練習でもいいと言うので、二人で顔を見合わせた。
「試験勉強でもいいのか。どうする?」
「どちらでもいいですよ? 教室で本を読むのもいいのだろうし、図書館で本を借りるのもいいかと思います」
「楽器を持って来たから、今日は弾くか」
「そうですね、そうしましょうか。ノエル様、良ければ一緒に合わせませんか?」
「そうだな」
先生に隅で演奏していますと伝え、合格をもらっている課題曲を演奏しあい楽しんだ。次からは教室で試験勉強をすることになった。
ノエルと勉強をしたら成績が上がりそうだ。
昼食を摂った後は、クラスを回るのだが、緊張する。
「「はぁ」」
二人で午前中と同じく顔を見合わせる。
「ノエル、こういうのは? 教室に入って最初に、俺と組んでもいい子いるかな? って聞くんだ」
「それでは、ハードルが高すぎて誰も手なんか挙げない」
「やっぱり指名するの?」
「……それしかない」
クラスの女子の場合、万が一断られると気まずくなる。
4年間同じクラスだからしんどくなるなと話して、他クラスの女子にしようと学食を食べながら決めたのだが、相手の性格が分からないだけに困る。
誰か知っている子だと安心できるんだけど、入学前は男子の家ばかり行っていたからな。
「あ。初日に話したガーネルクラスの女子2人は?」
どちらも優しそうな女の子たちだった。断られるにしても傷は浅くしたい。
「よし、行くか」
ノエルが、そうしようと顔を上げたのでさっさと向かうことにした。
ガーネルのクラスを覗くと、目当ての二人がいた。
リューナと確かエリーゼだったと思う。
俺とノエルが教室に入ると、昼を終えて戻って来ている生徒たちが一斉に見てくる。
「ごきげんよう。ソルレイ・グルバーグです。リューナ嬢とエリーゼ嬢。急ですが、少しお話をしたいのですが宜しいですか?」
「まあ、ソルレイ様。初日にお会いしておりますのにご丁寧にありがとう存じます。勿論宜しいですわ」
リューナにそう言われ微笑んで、エリーゼ嬢を見るとこちらも笑って「お気になさらないで下さいませ」と言ってくれる。
「ノエル様。あの時は、主席としての仕事がおありだったので、急いでいらしたでしょう。こちらは、セルドルド家のリューナ嬢、私とクラスを入れ替わって下さったアインテール国のご令嬢です」
「ノエル様、改めましてご紹介に預かりました。リューナでございます」
「ああ、知っている。あの時にも丁寧に挨拶を受けた」
「覚えていてくださって光栄ですわ」
微笑んで受け答えをするリューナ嬢にほっとする。
「そして、こちらが、バルセル国からいらしたエリーゼ・フォング嬢です」
確か準伯爵家だったはず。
これで紹介の順番は間違っていない。
「ノエル様、エリーゼと申します」
ノエルが頷く。
「わざわざ挨拶をさせ直してすまない。此度の学年末にある社交ダンスの相手を探していて、二人を思い出した」
「「お誘いいただき光栄ですわ」」
二人とも満面の笑顔だ。
あ。
ノエルがやってしまったとばかりに俺を見た。
だが、よく考えると1人と踊るよりノエルの場合は、二人とも踊る方がいいかもしれない。
侯爵家で美少年だからな。
一人だけ踊ると他からの恨みが怖くなりそうだ。
俺は微笑んで頷く。
「では、お二人ともノエル様からの申し込みをお受け頂いたということで、確約で宜しいですね?」
「「はい!」」
ノエルに笑って頷くと、すまなさそうな顔をする。
分かり辛いけれど、俺には分かる。
「ソルレイ様は、どなたにお決めになられたのですか?」
エリーゼ嬢に水を向けられ、今日のダンス授業でエリット様の質問を聞いて、「そうか、執事はいないものな」と慌てているのだと笑いながら話した。
「「まあ!」」
楽しそうに笑う。
二人はもう決まったので高みの見物だ。
ノエルはダンスもうまいので心配もない。
さり気にそう言ったことも流しておいた。
女性側が下手でも恥をかく。
二人とも、ハッとした目で俺を見るので頷くと、しっかりと頷いた。
練習せねばまずいと思ったのだろう。
入学前日に教務課の人から侯爵家の情報は教えてもらったが、他の貴族家の階級はクラス以外分からない。
ノエルの家格に釣り合う同じ侯爵家の女性は6組のロゼリアクラスで、合同試験のクラスにはいないので申し込むことはできない。
一般的に言われる上級貴族なら、こういう時も場馴れもしていて話も早い。
話を終えたので、時間を見て10分前なので戻ろうか、と振り返ると教室の男子達から恨みがましい目を向けられる。
怖い。
「ノエル様。そろそろ戻りましょうか」
「そうだな。……リューナ、エリーゼ。ソルレイの相手で良き者がいたら紹介してやってくれ」
わぁ、ありがとう、ノエル! と俺はお礼の気持ちを乗せてノエルに笑う。
「まあ! ふふ。ソルレイ様の相手でしたら余計なお世話になりそうですわね」
え!?
「そうですわね。クスっ、お話はよく聞きますもの」
ええー!?
これはまずいと言葉を紡ぐ。
「リューナ嬢、エリーゼ嬢。私は、4年間同じ方と踊れればと思っています。お二人のように心根の優しい方で誰かおられましたらご紹介ください」
そう言うと二人は窺うように、俺ではなくノエルを見る。
「……」
ノエルも何を要求されているのか分からなくて困っていた。
眉を下げて俺を見るが、俺も分からない。
二人で困った顔をするしかなかった。
「探してみますが、わたくしたちには、難しそうですわね? エリーゼ」
「そうですわね、リューナ」
「……そうか」
ああ。
「無理を言ってしまったようで……。では、ノエル様、戻りましょうか」
「……ああ」
教室を出て、レリエルに戻る廊下を歩いていると、ふと、人が途切れた。
「ソルレイ、すまない」
「ううん。向うが食い気味に返事をしたから。まだノエルは話の途中だっただろう?」
小さく頷いた。
「返事が早かったから、女子も焦ってるのかも」
「かもしれないが、ガーネルのクラス中から凄い目で見られていた。激化しそうだ」
「……うん、男子の恨むような目が怖かった」
ダンスの相手を見つけることができないまま時は過ぎ、家ではダンスの練習をしていたため腕だけは上がるのだが、大変微妙な状況だと思う。
試験は後期の年に1回で、学校に通うようになってまだ4ヵ月目の折り返しだ。猶予はあると思いたい。
ただ、男子達は申し込んでは振られる者もおり、俺はそれを目の当たりにして心が折れそうだった。
振ったのではなくダンスの相手を断っただけだと、きっと女の子たちは言うと思う。それでも、何回踊ってもいいんだから、勇気を振り絞って誘ったのに断らないで欲しいと願ってしまう。
女子たちも本当にこの相手でいいのか、その手を取るのが悩ましいようだ。
ダンスがうまいかどうかも重要らしい。
一応試験だからな。
男女で別室に分けられているので、お互いに当日まで腕前が分からないのだ。
[‹間小話›]ー真顔できっぱり断られるー
「ご機嫌よう、ルーナ嬢。ペアダンスのことなんだけれど、良ければ一緒に踊ってもらえないかな?」
「ソルレイ様。申し訳ありませんが、わたくしでは荷が重いですわ」
「……そ、う? 分かった、ごめんね」
頭を丁寧に下げ去っていく背中を見つめる。
今の子で4人目だった。
声をかけた女の子に迷うことなく次々と断られ、どうしようかと本気で頭を悩ませる。
来週は前期の座学の試験だから。
ダンスの試験は後期だから。
時間はまだあるから。
うん、まだ大丈夫。
……。
とりあえず、試験が終わってからどこが駄目なのかダニエルに相談しよう。正式な申込みの仕方があるのかも……。
重い足取りでロクスの待つ迎えの車まで歩くのだった。




