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魔道士学校の授業 詩と音楽

 ダンスの後は詩の授業だったが、これは黙読なので楽だった。試験内容は、先生に宛てた手紙だそうだ。文才もないし頑張りようがない気がする。


 昼になったので、ノエルに持って来たお弁当の話をする。

 それなら寮の部屋で食べるかと気遣われた。食堂やカフェにお弁当を持参してもいい決まりだからノエルの好きで良いと返し、レストランに向かうことになった。

 食べたら図書館に行くことにし、借りた本とお弁当を持って行く。

 昨日とは違う初等科の校舎に近い食堂に行くと、アジフライがあり、単品でそれだけ頼むことにした。

 女子が来るのが嫌なノエルの為、奥の二人席に行く。

「ソルレイは魚好きか」

「ばれたか。魚派なんだ。でも、肉派が多いよね。ラウルも肉派だよ」

「俺も肉派だ」

「魚派に会ったことがないよ。美味しいのに……」

「旨いが、肉の方がもっと旨い」

「もう。わざわざ言わなくていいよ」

「ふっ」

 お弁当の蓋を開け、ハンバーグをじっと見られる。

「肉? だな、見たことがない」

「ハンバーグだよ。俺が作ったんだ。ラウルが寂しがっていたって昨日聞いたから、朝から作って来たんだ。ラウルの分はメイドに預けてある」

「……そうか」

 じっと見られる。

「冷めていてもいいの? 食べる?」

「それはいいが……」

 人の物をとるのもいかがなものか、とでも考えているのだろう。

「中にチーズを入れると、融けて中から出て来て美味しいよ」

「一度食べてみたい」

「うん。休みの日ならいいよ。家に来てよ。そのほうが熱くて美味しいから皆で食べよう」

「では、手紙を出しておく」

「いらないよ。俺からお爺様にノエルが遊びに来るって言っておくから」

「いいのか?」

「うん。お爺様は優しいからそれで大丈夫だよ」

 手紙は必要ないからね、ともう一度言い食事を再開させた。



 昼休みの間に図書館で本を返却し、絵本を2冊と、今日はお茶会についての本を借りた。

 司書の人に、授業中にメモをした言葉を見せ、これが分かるお茶会の本を紹介して下さいと頼むと、笑ってお薦めの本を出してくれたのだ。

 次はノエルが借りたいと、貸し出し予約の手続きをとってもらっていた。

 午後一は音楽で、移動教室だ。

 音楽室は一年生の教室からは一番遠いので、図書館からそのまま向かう。

 太鼓以外の選択者は楽器を持参するのだが、初日は手ぶらでいいとなっていた。

 教員棟の更に奥にあるのだが、見た目は教会のようだ。

 背の高い観音扉を開けて中に入ると左右の石の壁が飛び出て中央に迫っている。

 音を反響させるためだろうか。

 随分と複雑な壁の構造になっているようだ。

 正面にも背後にもパイプオルガンはないが、あったらまんま礼拝堂だな。

 2階もあるのか。

 見回して、同級生が前の席にいるのを見て、そちらに向かう。

 机も前の席の背もたれについており開閉式だ。

 先生が奥からやって来た。

 壁と同系色の扉でいきなり現れたように見えたが、向こうにも部屋があるようだ。

「はーい。可愛い新入生のみんな。今日は、楽器についてお話しするわね。これから楽器を決めて、今度からそれぞれ選んだ楽器ごとに分かれて練習をするわよ。だから音楽の先生は二人いるのね。私は、ユナ・ワートンよ。こちらが、バール・ゼアス先生ね」

「うむ、バールだ。宜しく頼む」

 ここから楽器の歴史という昼食後には眠くなる話が始まり、うとうとしそうな頃、選択した楽器は何か尋ねられる。

 聞かれた子は6弦楽器か太鼓のどちらかだった。

 隣のノエルが、6弦楽器を告げ、俺が横笛にしますと言うと先生達が目を丸くする。

 同級生も嘘だろうという反応だ。

「うむ。ソルレイは横笛がいいのだな?しかし、私は太鼓を指導し、ユナ先生は6弦楽器だ。なにせ横笛を選択する者はここ30年で皆無であった」

「知っています」

「うむ。本当に知っているのか言ってみなさい」

「言えれば横笛の選択を認めてください。そうでなければ話す意味がありません」

「当然だな。いいだろう。ユナ先生よいですかな?」

「え? ええ。かまいませんよ。私が指導致します」

 俺は偏見の元になったお爺様から聞いた姫と男性の恋物語を話し、王侯貴族の女性達の間で侮蔑される一方で美しい音色のため音楽家には愛好者も多く、劇では用いられることを話した。

「とても綺麗な音を出すので気に入りました。汚いと言いますが、毎回分解して洗えるのでむしろ他の楽器よりよほど清潔です。吐息ではなく肺に溜めた空気を送り込んで振動で鳴らす楽器です。他の楽器と変わりません。気に入っているのに、偏見で選択しないなど馬鹿のすることです。私は横笛の音色が好きなのです。選択することを認めてください」

 これは他の生徒に、選択した俺を馬鹿にしないようにという言い回しだ。

 俺の音色が好きなのだというところが良かったようで、先生達は笑顔だ。

「いいわ!私が指導するわね。劇では当たり前に使われている楽器の1つなのよ。音楽を愛する者としていい加減うんざりしていたの」

「ハハ。ユナ先生もこう言っている。認めよう!」

「ありがとうございます」

 楽をしたいなどという本音は言ってはいけないのだ。

 胸にしまうことで、4年間、労をする必要が無くなった。

「ふふ」

 喜んで席に座る。

 指導はユナ先生がするので、6弦楽器と同じ後ろの席でいいらしい。

 ノエルからの視線を感じて横を見ると、良かったなと言わんばかりに微笑まれていたので俺も微笑み返した。



 最後の授業は魔道士学の授業だ。

 1年目は、授業数は少ないが3年目からはかなり増えると聞いている。

 お爺様に、最近の学校では何を教えているか知りたいから良く聞いておいて欲しいと言われているのでノートもきっちり取り、話も集中して聞いた。


 急いで帰ると、ラウルが笑顔で抱きついてきた。

「お弁当ありがとう、お爺ちゃんと食べた。お兄ちゃんの料理は美味しいよ、大好き!」と言ってきた。

 まだまだ可愛いな。

 今朝できなかった抱っこをしたくなり、ベンに抱き上げてもらってから抱っこをするとちゃんとできた。

 ラウルより俺の方が喜んでいた気がする。

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