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魔道士学校の授業 お茶会とダンス

 翌日はいつもより早く起きた。ラウルとお爺さんにお弁当を作るのだ。お菓子で慣れたのか料理人達も「仕方有りませんね」と厨房への出入りを許してくれた。

 山猫の形に折ったメッセージカードに、“学校では12時から13時がお昼だから一緒に食べよう”と書いておく。

 貴族になったことで肉が自由に食べられるようになり、ようやく作る機会を得たハンバーグ。目玉焼きを乗せたので喜んでくれるはずだ。

 お爺さんも優しいので冷えた料理などと言わずに食べてくれるだろう。

 フォークも用意して大判のハンカチーフに包んである。

 ラウルのメイドに頼むと、笑って渡す役目を引き受けてくれた。



「ソルレイ様。お時間でございます」

「ありがとう。少し待って。……よし、返却する絵本も本も入っているな」

 忘れ物がないことを確認して出発しようとして、ラウルが夜着のまま慌てて来たので、階段を落ちないように駆け上って抱きしめた。

「起きて来てくれたのか。ありがとう」

「うん。いってらっしゃい」

「行ってきます」

 もう抱っこできないかなと思いながら抱き上げ、途中でやっぱり無理だなとすぐに下ろす。

「えー? お兄ちゃん?」

「アハハ、ごめん。無理だった」

 抱きしめてから、階段を2段飛ばして下りて、振り返って手を振って走った。

 ロクスがスニプル馬車を玄関につけてくれていた。

「ごめん。頼むよ」

「お任せください。まだ十分間に合います」

「苦労を掛けるけど、ラウルに嫌がられるまではかわいがりたいんだ」

「存じております」

 そう言っていつもより早く走らせてくれ、昨日と同じ時間に着いた。

 着きました、と微笑まれ、ありがとう、と礼を言い行ってきますと声をかけ教室に向かった。


 教室に行くまでのトイレで乱れた髪を手早く整え、教室に入ると、朝の挨拶をそこかしこからされ一括で「みんなおはよう」と言い終らせる。

 ノエルが伯爵家の女子に隣に座られて、これ以上ないほど近づいて話しかけられていた。視線で助けを求めるので、笑いながらノエルの後ろに座ろうと決める。

「ノエル様、おはようございます」

 声をかけ通り過ぎて後ろに行こうとすると、違うことで声をかけられた。

「……昨日、借りた本で少し見解を聞きたい。隣に座れ」

 余程嫌なようだ。

「既に先約がおありなのでは……」

 ちらりと女子を見ると、満更でもなさそうで退かない。

 侯爵家のノエルに言われたからすぐに退かないといけないのだが……。

 “悪いね、退いてもらってもいいかな?” という意味で言ったのだが、通じなかったようだ。

 ノエルの目が冷たくなっていくので、早く退いてもらった方がいいな。

「ケイト嬢。勉学の為に席を譲って貰えるかな?」

「まぁ!ソルレイ様。席は自由ですのよ? あちらの席はいかがかしら?」

 うーん。嫌がっているノエルを見捨てるわけにもいかないけど、女子に恨まれたくもない。

「確かにそうだね。ノエル様、私は向こうの席に参ります。宜しければご一緒にどうでしょうか?」

「そうしよう。静かな方がいい」

 さすがに、気づいたようで、慌てているが、もうどうしようもない。

 伯爵家より辺境伯家の方が上に位置するため周りは苦笑いだ。

 ノエルに対しても俺に対しても非礼になる。

 特にノエルは侯爵家なので、わざわざ席を移動させたのはまずい。非礼をされた俺が助け船を出すことはないし、初日に厄介ごとを抱えたくないため皆が目を逸らす。


 この辺は皆、貴族の対応だな。


 俺達は移動し、ノエルを窓側に、俺が通路側に座った。

 小さな声で、席を移動させたことを謝ると、気にしなくていい、助かったと返された。



 1科目目は世界史で、集中力がある内に覚えさせる気だなとノートの左側が狭くなる二つ折りにし、左側に年号、右に出来事と分けて書く。


 こうしておくと、試験勉強が楽だ。


 先生が大事だと言った箇所は見返した時に分かるように年号の横にチェックマークを入れる。

 ノエルに見られているが、授業中なので聞かれるまで何も言わないでおこうと思ったが、休み時間になっても聞かれず、ノートを見せてくれと言われ見せると頷いて返された。


 マナーと作法は、座学で試験は実技と少し厳しい。

 茶会の作法は、学校で浮かないように、家でダニエル達と練習をし、もし良ければと音楽の家庭教師のミッシェル先生を誘い協力してもらった。

 楽師を用意するお茶会もあるのですよ、と教えてもらい、俺とラウルにとっては楽しいお茶会だった。

 家でお爺さんをラウルと用意したお茶会に手紙を出して招くサプライズもしたが、優しいお爺さんは喜んで抱きしめてくれるのでダメ出しが一切なく、却って不安になりアインテール国の貴族達の家でお茶会の練習をさせてもらった。大丈夫なはず。


 試験は、茶会で先生を招くこと。

 

 期間は1カ月の間だという。初日は誰も狙わないだろうから初日にしようか。何日の何時にどこでとセッティングも自分でするのだ。やったことがあるとはいえ難易度が高い。

 座学なのだが板書はなく、先生が言う言葉で、頭に無かったものを切り取って素早くノートに書き留める。

 図書館に行くかダニエルに聞こう。


 次は、移動教室で、ダンスだ。

「ダンスか」

「そんな憂鬱そうな顔をしないで」

 渡り廊下で別棟に行く時に、表情を曇らせる。

「試験の内容はペアダンスだ」

「あ」

 ノエルは、相手を絞るのが大変そうだ。

 俺も相手を見つけるのが大変だと違う意味で憂鬱になる。

 渡り廊下を通ってダンスホールに行く。ダンスは男女別で教えられるため、広いダンスホールに入って右側が男子の教室で左側が女子の教室だ。

 レリエル、ガーネル、アモンの男子が集められ、3組で合同練習だ。

 白服の3人が揃うと目立つな。


 1組レリエルのノエル・アヴェリアフ

 3組ガーネルのエリット・カルクケル

 5組アモンのルモンド・ハープス


 亜麻色の髪をしたルモンドは侯爵家ではなく、他国の子爵家だったはずだ。

 今年の入学生は、侯爵家までで王族や公爵家がいないので平和だと教務課の人が言っていた。今の4年生に王族が3人いるそうで何かと大変らしい。

 確かにそれは怖いし、俺からすると王族でなくても最上級生に目をつけられたくない。とにかく平和に過ごしたい。


「はい。皆様方、ご注目。私が指導教官のテイナー・ラッセルです。先に気になっているでしょうから試験のことをいいますね。ええ、ずばりペアダンスです。申し込みから頑張ってみましょうね。ただ皆さまは、まだまだ、女性の扱いには不慣れでしょう。ですので、どうしても無理だった、断られてしまった、こういった場合はですね。私と踊りましょう」


 ええ!?

 白服組の無言の威圧により水を打ったように静かだった教室がざわめく。

 男同士で踊るとか……。

「先生、質問があるのだが、宜しいか」

「ええ、ミスターエリット、どうぞ」

「先生と踊ることになる生徒は毎年そんなに出るものなのか? 人数は同じなのではないのか?」

 確か男子の方が10人程多かったような。教務課の職員からもらった情報を記憶から手繰り寄せる。

「試験は3クラス合同なのです。何人にも誘われ何人とも踊る。これも勿論宜しいのですよ? 素晴らしい経験です。ダンスは、踊れば踊るほど上達します」

「ということは、1人に申し込みが集中するとあぶれるということですね」

 ルモンドがため息を吐いていた。

 皆がノエルの方を見ている気がする。

「ミスタールモンド。受けるも断るもその人次第ということですね。女性側もやはり担当教官が踊ることになるのです。誘われないという経験もまた次に進むために大事なのですよ」

 そうやって女性は美しくなっていくのです、と力説される。男女平等ですと言われると、色々疑問に感じる。

「誘う期間は今日から始まります。自分の差し出した手を受け取ってもらえるように女性には優しく、笑顔で、品行方正にしましょうね」


 なるほど!これは、強制的な生活指導だ。

 そして、生活態度の悪さは自分に反ってくる。

 貴族の御し方がうまい。

 プライドを刺激しつつ上手くやるということが大事なのだ。これは、貴族社会を生き抜くために必要な授業なのだと位置づける。


「そうそう、この試験は4年間毎年やります。これがダンス試験ですからね」


 うわぁ。


「おやおや、皆さま高等科でもやりますよ? そして、社交界でも。結婚してからも。貴族にはずっとついてまわるのですから是非好きになって下さい。では、今日は、レッスンワン! ワルツのステップから覚えましょう」

 先生は良い笑顔だが、俺達は地獄だ。

 ステップはできるが、果たして上手く誘えるだろうか。


 来る時の渡り廊下以上に憂鬱になりながら、ステップを踏むのだった。

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