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購買の情報

 鞄にしまい席を立つと、先生が入って来た。


 鞄を持って明らかに帰ろうとしている俺達に問いかける。

「ソルレイ様。質問は出たかしら?」

「特に出ませんでした」

「あらあら。誰か質問はありますかー?」


 ーーーーシーン。


「まぁ、本当にないのかしら?」

「他のクラスでは、どのような質問が出ましたか?」

「そうねえ。食堂は食べ放題か? とかね」

 どうでもいいやつだ。クラスの雰囲気作りに投げた小ネタではあるが、わざわざ質問するようなものではない。

「ソルレイが説明したので不要だ」

「ランチを選ぶ形式ですよね? でも奥のレストランは14時からは銀貨1枚で30分食べ放題になるので、学園祭の期間や、今日みたいな早終わりの日は楽しみです」

「あら? どうして知ってるの?」

「学生は12時から13時、先生達は好きな時間で15時までに昼食を摂るのでしょう? 教員棟に一番近いレストランなので、何か秘密があるのではないかと昨日探しました」

「まあ!アハハハハ!」

 先生は貴族とは思えないような豪快さで笑い、「購買の情報は知っているかしら? 」と言うので、知らない俺は席に座った。

 それを見てノエルも座る。

「素直なのねえ。いいわ。購買はね。学園内に常在してないのよ。でも、毎週月の日の朝7時から16時まではやっているわ」

 なぜでしょうか? と笑顔で言われるが、簡単な謎だ。

「移動販売?」

「そう!売られている物が魅力的なのよ。場所は自分で探しなさい」

 その言い方は見つけにくい場所にあるということだろう。

 ヒントだけでも貰いたい。

「教員棟の近く?」

 無反応だ。

 そうか、万が一のことがあるといけないから奥までは入れないのか?

「正門……ロータリー……」

 ダメか。

「正門前」

 ノエルがそう言うと、悔しそうに『正解よ!』と言った。

「校則の13ー1項、いかなる者も許可なく出入りさせずとある」

「え? まさか、無許可?」

 驚いて思わず敬語を忘れた。

 学園内に常在せず、って先生に誘導されていたのか。

 てっきり週に一度の移動販売だからだと。

「……購入して罰せられることはないのか?」

 ノエルも無許可販売に、引っ掛かりを覚えたらしい。

「ありません。外だもの。校則は効かないわ」

「なるほど。クライン先生、行ってみます。ありがとうございます」

「授業に遅れたらーー」

「3回で欠席扱い。説明してある」

「はぁ。優秀ね、本当に楽ができそうだわ。今日はこれでお終いね。」

 ちょうど12時で終わり、他のクラスの学生たちはレストランに行くが、このクラスの生徒は情報を持っている為に迷っている。

 今日は新入生の入学式で、上の学年の生徒は登校していないため俺とノエルは食べ放題に行くことにした。

 あと2時間はあるので、書庫を利用するためのカードを作る。

 このカードは魔道具で返却が遅れると、次に借りられる本の長さが遅れた日数分減る。

 つまり最大で10日貸出しの本の返却を2日遅れると、次に借りる時に8日しか貸し出してもらえない。

 10日間遅れると、買い直すらしい。

 返却を迫り、本国へ伝達すると言うと、慌てて返すという。

 返却された本や破った本は、修繕してアインテール国の図書館に寄贈され、国民が読めるようになっている。

 損傷は全額弁済だが、初等科はやってしまうことが多いらしい。

 この世界では活版技術がないため本は高いのに、王都に大きな図書館があり、国民が自由に読めるのはそう言う訳だったようだ。

 俺もノエルも2冊ずつ借りる。

 1冊はラウルに絵本だ。

 2階と3階は自習室で、カードが別だというので、また作って貰った。

 同じ場所に穴が開いているので、クリの木で作った葉っぱのキーホルダーでもつけておこう。

 移動教室の場所を一緒に確認したりすると、2時間はあっという間だ。

「ノエル、少し早いけど、向かっている間に14時になるから食べに行こう」

「確認も全て終わった。そうしよう」

 一番遠いレストランに行くと、思った通り、ガラガラに空いている。

 まばらにいる生徒は寮にいる他学年の生徒だな。

 手の空いていた料理人の一人に話しかける。

「こんにちは。今日入学した、ソルレイです。食べ放題を楽しみたいです。お忙しいところ申し訳ないのですが、レストランの使い方を教えて頂けませんか?」

 笑顔で使い方を教えてくれる。

「よろしいですよ。あそこに学生証を翳して隣の箱にお金を入れてください。カードに入れた金額分のお金が入金されます。そうしたら、そこのカード読み取り機に“食べ放題”と言いながらカードを翳して下さい。それで大丈夫ですよ」

 定食の時も“A定”と言うように食べるメニューを言えばいいらしい。

「分かりました。やってみます、ありがとうございます」

「ありがとう」

 メニューの値段を見て、月に使うのは小金貨2枚くらいだなと思いながらカフェに行くことも考え小金貨3枚を入れておく。

「それで足るのか?」

「食堂利用だけだと月に小金貨2枚だよ。でも、カフェとか、他でも使うかもしれないから念のため1.5倍にした」

「そうか。俺も同じにしておこう」

「うん。たぶん、ここだけじゃなくて色んな所に置いてあるはずだから、足りなければ入れればいいよ」

「そうだな」

 二人で“食べ放題”と翳し、食べ放題の人は2階席ですよ、と教えられお礼を言って2階に行き、ビュッフェ式の食べ放題に喜ぶ。

「ちゃんと料理人がいるのだな」

「本当だ。オムレツも目の前で作ってくれるんだ。自分でとれるのも多いから嬉しい」

 二人で笑い合って、シェフに肉を焼いてもらったり、魚のフリットを揚げてもらったりした。

 席に戻ると、皿から溢れそうだ。

 原因はパエリアだな。

 米じゃなくてライスパスタなのに気づかずに米だと思い込んで多目に取ってしまったのだ。

 ノエルは食べ放題なのに品よく取っている。

 今日は人目を気にしなくていいけど、今度からは気をつけよう。

 それでも、味も良いので、沢山食べ、食べ放題にミルクジェラートがあるのを見つけ、二人で顔を見合わせた。

「これは、今日しか食べられない気がする」

「女子か」

「食べ放題は破格の銀貨1枚だから、カフェで食べるのと変わらない」

「好きなだけ食べられる時点でこちらに軍配が上がるか」

「うん、女の子からしたらジェラートに食べ放題の料理がついているくらいの感覚だよ」

 オムレツを作っているシェフに、ジェラートはいつもあるのかを尋ねると、あるという。

 カフェにはミルクジェラート以外にも季節の果実を使った物があるらしくて、最初はここでも、カフェに行く生徒が多いという。

「「意外だ」」

「年頃になると男性の前で多い量は食べ辛くなるものです」

「「……」」

 諭すように優しく微笑まれ、女の子って大変なんだなとノエルと話しながらジェラートを2回お代わりした。


 今日は月の日だし、せっかくだからと最後に正門前の購買を覗き見する。移動販売車のような作りだ。近づくと全身黒一色のローブを被ったノッポな男性が現れた。

「ようこそ。私のヒミツ基地へ」

 フードも目深に被っており顔も見えない。怪しさ満点だった。

 どうすべきか迷っていると、中に入って商品を見ることもできると話しかけてきた。

「入る?」

「……一応見ておこう」

 思い切って中に入り商品を見せてもらうことにした。外から見た車の大きさと車内に入ってからの大きさが明らかに違う。バス並みの広さだ。通路の中央に浮いた苗木がある。


あの苗木がこの車の動力なのか?


この車には馬もスニプルもいなかった。

不審な点が多いのだが、先生からの紹介だ。危険なことはないのだろう。ノエルと売られている物を確認しようと目で頷きあう。

びっしりと商品が床から車の天井まで綺麗に整頓され並んでいる。棚に並べられている中に薄い本があり目についた。

「これは?」

「お目が高い。本ではありませんよ。ノートです」

「購買だもんね……え?」

「どうした?」

 捲ると中はびっしりと書かれていた。ノエルと顔を見合わせてから同時に店員を見るとククっと笑っていた。

 なんとノートを売っている生徒がいるらしく、取り扱っているノートは“授業ノート”のみだと聞き、何年前のノートか確認をとると全て去年の物らしい。全学年分……いや4年生のノートはない。

 聞くとすでに売れたという。早い者勝ちってことか。

「すごく綺麗な字で書いてある」

「これが、担任のクラインが言っていた“魅力的な品”か?」

 洩れなく写してあるというノートは1冊小金貨5枚で売られており、下級貴族の子が金策で売りに来るという。

 知らない世界を知ったとばかりに衝撃を受けているノエルに、下級貴族の中には商人の方が裕福な家もあると教える。

 太鼓が音楽の選択にあるのは、楽器を買わずに済むようにだと説明すると得心がいったように頷いていた。

「試験問題も売ってたりするの?」

 気になったので尋ねた。

 ノエルからの視線は痛いが、気になる。

「売りたいという子は来ますが、御断りしています」

「そっかあ」

 残念なような当たり前のような……。

 この怪しさなら置いてちゃいけないものを置いていて欲しいという感情が芽生えただけだ。そっと芽生えた気持ちに蓋をした。

 週に一度だけ現れる不思議な購買か。今日来られてよかったな。


 ここでいいと言われたが、遅いので心配しているはずだから一緒に行くと寮まで戻り、案の定心配していた執事とメイドにバイキングの時間の説明をした。

 図書館や自習室のカードを作ったことや、本の期限の話もざっとして、『またね!』と手を振って別れた。



 ロータリーに行くと既に待っていてくれたので、鞄を抱えて走った。

「ソルレイ様。走らずともよいのですよ」

「ごめんね。待ったでしょ?」

「いえ。待ったうちに入りませんので、お気になさらず」

「ありがとう、ロクス」

 優しい執事に礼を言い、ラウルに絵本を借りたのだと話した。

「お喜びになられますよ。寂しそうにされておりましたので」

「ふふ、そうか。寮じゃなくて通いにして正解だ。大変だろうけど送り迎えを頼むよ」

「ええ、喜んで」

 家に帰ると、ラウルが飛びついてくるので抱きしめた。

「お兄ちゃん、おかえり!」

「ただいま」

「2年したら一緒に通えるからな」

 屋敷は広いので寂しかっただろうと、抱きしめた。

 高等科も隣だからラウルが反抗期で嫌がらない限り卒業まで一緒に通える。

 ……もう寄らないでと言われたらショックだけれど、兄はそういうものかもしれないな。

「絵本を借りてきたから部屋で一緒に読もうか」

「うん!」

 部屋着に着替えて、ラウルの部屋で絵本を読んだ。


 寝る前に他の絵本も、と部屋に持って来たラウルの頭を撫でて本を読み、一緒に寝ることにした。

「「おやすみー」」

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