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クトVSコタロー

「いいねぇ、友達って。僕とも友達になってよ。」

 えぇ、絶対に嫌だ。見た目で人を判断するわけではないけれど、目つきもいやらしいし、しゃべり方も気持ち悪い。友達にはなりたくない。

「君の使う魔法は幻術?」

「答えてくれないのは、断られたってことかな?僕、まだ友達いないんだよね。寂しいなぁ。」

『まだ』友達いないということは、ロザと同じで生まれてきてまだそんなに時間が経っていないのか?

「僕の属性、気になる?いいよ、教えてあげるよ。」

 黙っていると、ペラペラと話し始めた。奴の属性が幻だとすると、さっきは強制的に眠らされてしまったが、いつどのような幻を見せられるのかわからない。常に警戒しておかないと。

「君の言う通り、僕は幻術の魔法を使う。どんな幻術が使えるのか詳しくは教えないけど、今回は、人の記憶を材料にして、近くにいる人との共通の思い出の中の世界を見せてあげていたんだよ。どうだい?ロマンチックだろう?」

「…僕らは眠らされていたみたいだけど。」

「君らは面倒そうだったから、幻覚見ながら暴れられても困るし、意識の中に閉じ込めておいたんだ。思ったより早く目覚めたけどね。君たちが眠っている間に結構楽しませてもらったよ。」

 僕らが面倒そう?こいつは、僕らがどんな属性の持ち主なのかがわかるのか?


「考えてるねぇ。目の前に僕がいるのに、そんなに考え込んでいて大丈夫?」

「!」

 背後から声がした。振り返るとそこには金髪の青年。いつの間に?これが紗奈さんが言っていた瞬間的な幻術か。僕は急いで奴と距離を取る。


「驚いたかな?どれが現実でどれが幻覚か。人間は脆いよね。醜いよね。ふふふ。」

「!」

 距離を取ったのに、背後から声をかけられる。これでは、奴の思う壺だ。僕は再び距離を取り、魔法を唱えた。

「シロ!ストップ!」

 目の前の奴がいない。すでに背後にいるのか?いや、背後にもいない。もしかして、今までのすべてが幻覚なのか?目の前のこいつを叩いても幻術は解けない。というか倒せないはずだ。大元を探さなくては。

 僕はいったん部屋を出て、先ほどまでいた屋上に戻ると、ストップを説いた。

 すべてが幻覚だとするならば、奴はすぐここにも現れるはず。

「コタロー!左斜め後ろ!」

 クロに言われ振り向くと、巨大な火の玉が飛んできた。僕は急いで水の魔法で火の玉を打ち消す。攻撃してきた。つまり、僕がここに移動したことを把握している。幻術使いは火の魔法も使えるのか?いや、これも幻覚?僕は次から次へと飛んでくる火の玉を打ち消しながら、旅館近くの砂浜まで移動した。


「避けてばかりだねぇ。君が攻撃しているところも見てみたいのだけど…?」

 ここまで移動しても奴は現れた。ストップをかけて屋上に移動したときも、すぐに攻撃を仕掛けてきた。大元はどこかで見ていて、僕らが戦っているこの幻覚を操っていると考えていたが、見える範囲が広すぎる。建物の中でも場所は把握できていたようだから、上空にいるわけでもなさそうだ。


(ユキ!)

 ユキは、幻覚を見ながら出て行ってしまったフクさんとラクさんを止めに行っているはずだ。

(コタロー、どうした?大丈夫か?ピンチか?)

 あぁ、心配してくれているんだな。

(大丈夫だよ。だけど、幻術の仕組みがわからない。大元がどこにいるのかわからないんだ。そっちはどうなっている?)

(フクとラクは戦いながらずいぶん遠くまで来ていて、今は二人とも意識を失っている。)

(意識を?)

(ある程度旅館から離れたら、幻術が解けたようで、攻撃を止めたと思ったら二人とも倒れた。今から運んでいくよ。)

 ある程度離れたら…?幻術に範囲がある…?人に幻術をかけているわけではなくて、エリア内の人に幻術をかけているのか…?

(ユキ、戻ってこないほうがいい。今たぶん幻術がかかるエリアの外側にいるんだ。だから、旅館から一定の距離を保ちながら、この幻術エリアを作っている大元を探してほしい。)

(!わかった!)


 さて、ユキが大元を探している間、僕は「探していること」を気取られないようにこいつを相手にしなくてはいけない。


「で、何が目的でこんなことをしているんだ?」

「ちょっと遊んでいるだけだよぉ。本当はね、生まれたばかりのロザを回収しに来たのだけど、面白そうな人たちがいたから、遊んでいるだけ。ロザ、埋められちゃったし。埋めたの君でしょ?」

 正確には僕ではないが、見た目は僕だからな。

「と言うことは、お前もザクスの臣下なのか。」

「そうだよ。ザクス様の臣下の一人、クトだよ。覚えておいてね。」

 軽いな。臣下ってもっときちんとしているというか、執事みたいな、騎士みたいなのをイメージしていた。こいつは何なんだ。でも四人の臣下のうちの一人なのだからそれなりに強いのだろうな。

「ロザは生まれたばかり?確かに海底からすごい勢いで出てきたな。君はどうなんだ?ずいぶんと口が達者だな。」

「知りたがりだね。僕はちょっと先輩なだけだよ。」

「他には?ほかの臣下も人型になっているのか?」

「…」

 さすがに聞きすぎたか。クトは静かにこちらを見ている。


(コタロー!)

(ユキ!見つけたか?)

(よくわからないんだけど、このあたりに怪しい気配がする。でも姿が見えないんだ。人影がないんだよ。見つからない。)

 …人影がない…?ストップをかけた時に姿が見えなくなったのは、それが幻術によるものだったからだとすると、紗奈さんを救出しに来た時のストップでは、ドロドロした人型は確かに見えていた。つまり、あれは本物だ。ストップ解除の後でドロドロは姿も服も元通りに戻った。僕はあの時すでに幻覚を見ていたのかもしれない。ドロドロの再生の途中から幻覚だったとすると、こいつが「人型」で存在していると考えてはいけないのかもしれない。

(ユキ!幻術の主は、人の形をしていないかもしれない。僕が初めて見たときは、ドロドロした姿だった。)

(ドロドロ…?わかった。探してみる。)


 さてと。さすがに色々聞きすぎたか。今の間も怪しかっただろうか。こいつが幻覚だとすると迂闊に攻撃できないよな。周りに被害が出るだけだ。さっきの火の球は、水の魔法で相殺したが、実際に被害が出るのだろうか。

「ねぇ、何かやってる?あやしいなぁ」

 気が付くと、クトは僕の背後に立っている。僕は急いでクトと距離を取る。こうやって背後から話しかけて来るけど、攻撃はしてこない。幻は攻撃ができないのか?

「そうやって距離取って、様子見ているのかな?」

 またも後ろを取られるが、攻撃はしてこない。紗奈さんが戦っていたのは本体だから、本体に刺されたことになる。やはり幻は幻。物理的な攻撃はできないのか。また距離を取るが、やはりすぐに背後に立たれてしまう。これではまるですぐに捕まる鬼ごっこだ。

「!」

 何回か鬼ごっこを繰り返していたが、これまでとは違う気配に僕は転ぶような形で急いで身を躱した。

(シロ!ストップ!)

 あたり一帯がストップする。あいつは、いない。やはり幻術で作り出されたものなんだ。

 今のは、敵意…いや、敵意ならずっと感じている。あれは、明らかな「殺意」だ。避けなければ殺されていたかもしれない。

「コタロー、大丈夫?」

 ファーが心配そうに尋ねてきたが、僕の手は小刻みに震え、額には冷や汗が出てきていた。そうだ。今まで戦ってきた相手は、単なる「暴走」。属性の暴走でアンノウン化した者も、海から出てきたばかりのロザも、単に暴れているだけだった。敵意を感じたことはあったが、今のようなむき出しの「殺意」を感じたのは初めてだ。僕は「恐怖」を感じている。やられる、殺される、死ぬかもしれない「恐怖」だ。

「…ああ、ファー。落ち着いてきた。」

 心配するファーの頭をなでながら言ったものの、再びあの「殺意」を向けられたら、僕は「恐怖」を感じてしまうかもしれない。まともに戦えるのか?いや、戦えようが戦えまいがストップを解除しなければならない。どうする。どうすれば勝てる?考えろ、考えろ。

「コタロー。」

「どうしたシロ?」

「大丈夫だよ。私がいる。まずいときは私がストップするよ。」

「そうだ、コタロー。俺もいる。怪我をしたらすぐに治す。だから恐れるな。」

「…わかった。シロ、クロ。ファーも心配かけた。あれは本体じゃない。本体はユキが何とかしてくれる。僕たちは時間稼ぎができればいい。幻術相手に攻撃魔法を使えば、町に被害が出てしまうだけかもしれない。だから、悟られないように避けながら様子を見よう。」

 僕は、今いる場所から少し離れてストップを解除する。

 殺意を向けられた場所には、小剣を持つクトが立っていた。今までは攻撃していなかっただけなのか。殺す気満々じゃないか。

「あれ?いない。」

 そうだ。僕にはストップがある。これで倒すことはできないが、お前のわからない位置に移動してやる。クトと目が合う。いつもならこのタイミングで背後に…。あそこにいると見せかけて背後に来ているパターン…。あれ、来ない。よく見ると、クトは何か考えている様子で手で口元を抑え、下向き加減で立っている。もう攻撃してこないのだろうか。


(コタロー!いた!こいつだ!黒いドロドロが動いている。)

(そいつ、捕まえられるか?ダメなら燃やしちゃってもいいけど!)

(やってみる!)


 ユキが本体を見つけたことに気付いただろうか。だから攻撃してこなくなった、というのが筋が通っているな。でもまだ幻のあいつはそこにいる。試しに叩いてみるか。僕は、ラクさんの風の剣を具現化し、クトに向かって飛んでいく。クトは悩んでいる体制のまま動かない。そのまま切りつけてみたが、手ごたえは全くない。3次元の映像に向かって剣を振っているようだ。あいつの攻撃は当たるかもしれないのに、こっちの攻撃は全く通じないのか。

「臭いんだよ。」

 ぼそっとクトが言葉をこぼした。さっき話していた時よりもトーンが低く、怒っているような感じだ。

「臭い?」

「そう。おまえもあいつも。すごく鼻につくにおい。お前からはネセロスの臭いがする。ザクス様を認めない臭い野郎。だけど、あいつのほうがもっと鼻につく臭いだ。あいつからは民の臭いがする。民はザクス様も認めずネセロスを慕ってばかり。僕のことも嫌ってたなぁ。だからみんなザクス様に食われてしまえば良かったんだ。この悪臭どもを見つけた時に、本当はすぐに殺したかった。」

 これが本音か。何が「友達になろう」だ。さっきの殺意の通り、僕らを殺したかったんじゃないか。

「でも君はお預け。もっと遊びたい奴がいる。臭う、臭う、臭い臭い。」

 そう言うと、クトは霧が消えるように姿を消した。


(ユキ!こっちから奴が消えた。おそらくユキに気付いている!僕も向かうから場所を教えてくれ。)

 頭の中に映像が流れてくる。こんな伝達方法もあるのか。便利だな。これは、原子力発電所から旅館に向かってきたときに通ってきた場所だ。場所はなんとなくわかった。

(シロ、クロ、ファー、行くよ。)

 僕らはユキが伝えてきた場所に向かった。


(コタロー君!)

 ユキのところへ向かう途中で頭の中に声が届く。

(シュウ君、どうした?)

(二人を連れて、旅館の裏の森に隠れているんだけど、紗奈さんの意識が戻らない上、なんだかとっても辛そうなんだ。)

 今は急いでユキのところへ向かいたいところだけど…。

(わかった。すぐに行く。)

 僕がシュウ君に言われた場所に到着すると、確かに紗奈さんはとても辛そうに荒く息をしている。ブレスレットを確認すると、意識不明になり体力も魔力も回復しそうなものだが、魔力は回復どころか徐々に減っている。怪我は治っているし、何に魔力を使っているんだ?紗奈さんの精霊たちも具現化されていない。彼女たちがいれば話を聞けたかもしれないのに。

「クロ、リバースで魔力は戻らないのか?」

「やってみないとわからないが、魔力を使う前の状態に戻せたら、可能かもしれない。」

「よし、やってみよう。」

「「リバース!」」

 体の傷を元に戻すのは僕も含め何度もやっているクロだが、魔力を使う前の状態に体を戻すのにはちょっと苦戦しているようだった。

 さて、ブレスレットを確認すると、魔力は無事に戻っていた。しかし、相変わらず少しずつ減り続けている。

「シュウ君、ひとまず僕はユキのところへ向かう。これだけ魔力があれば減り続けても多少時間は稼げるから、原因は後で考えよう。このままここに隠れていてほしい。」

(わかった。)

「銀次さん、大丈夫?」

「あ、あぁ、コタロー君…?あ、あぁぁ?」

 銀次さんはまだ混乱しているようだな。ここはシュウ君に任せておこう。しかし、二人担いで走ってここまで逃げて隠れているのだから、シュウ君グッジョブだな。

 僕は、急いでユキの元へ向かった。

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