第91節 改めて自己紹介と意見、昼休み。
「酷いよ・・・ いくら声をかけてくれなかったとか僕の影が薄いだとか言われても・・・せめて名前くらいは覚えててよ・・・。」
そう目の前で落胆する男子高校生。 多分自己紹介したり、色々と絡んでいたのかもしれないけれど、すまない。 覚えてなかった。
「僕は仲町 秋羅。 名前だけ目立ってもダメなんだろうなぁ・・・。」
「悪かったよ。 仲町。 そんなに卑屈にならないでくれよ。 」
正直罪悪感が生まれてしょうがないんだよな。
「まあ、君達はちゃんと聞いてくれそうだから、これ以上は言わないよ。」
「そうしてくれると助かる。 それで、さっき言った屋敷の構造についてなんだが、仲町はどう考えてるんだ?」
「そうだねぇ。 やっぱり屋敷と言うからには引き戸とか提灯とか使って、部屋の雰囲気を出したいよね。 後は驚かすだけじゃなくて、不気味な雰囲気を味わってもらうために、それ相応の音楽がいると思うんだ。 それと、小道具もすぐに用意出来て尚且つ驚かせれる物があるといいよね。 暗闇で行うから効果はあるよ絶対に。 それから・・・」
「ちょっと待て! 1回整理させてくれ!」
仲町のマシンガントークを制止させる。 言いたいことは分かるが落ち着いてくれ。
「・・・凄い熱を感じるよ仲町君。 そこまでを1人で考えてるなんて。」
「いやぁ、僕は考えるだけで実際に案は出したことがないからさ。」
主張する前に粗を探すタイプか。 しかしなんというか、もったいない才能してる気がする。
「その事先生には言ったの?」
「言ったんだよ。 だからあとの事はみんなで相談してやったくれって先生にも言われたんだけど、全然話題にも上がんなくて・・・」
それで疑問に思ってくれた俺達に助け舟を出して欲しくなったって訳か。 とは言っても俺は学級委員長では無いし、生徒会って言っても下っ端の下っ端だから役に立たないだろ。
「せめて、話を聞いて、貰うだけでも、いいんじゃない、でしょうか?」
白羽がそう意見してきた。 確かにやるにしても話を聞いて貰わければやる意味も無いしな。 そんな訳で俺達は男女で別れて学級委員長の所に直談判しに行った。
数分後、返ってきた答えが
「見た目に金賭けるよりも衣装で勝負でしょ。 お化け屋敷の本質ってそこじゃね?」 (男子学級委員長)
「そこまでガチになってやるもんじゃないし、見た目なんてどこも適当なんだから、うちらも適当で良くない?」 (女子学級委員長)
「学級委員長がそんなんでどうすんだよ・・・」
双方の話を聞いた俺達が思ったのは落胆だった。 このクラス危ういかもしれない。
「男子の方はお金をかけたくない。 女子の方は本気でやりたくないって話だったね。」
「文化祭って私達だけじゃなくて来てくれる人達も楽しめるように工夫するのが、普通じゃないの?」
「交流会の事、忘れちゃった、んですかね?」
夏休みがあったからそれでボケたのかもな。
「こうなったからにはこっちで勝手にやろう。 これでどうのこうの言ってきても相談しなかったみんなが悪いって事にしてさ。」
「そうするしかないかもね。 仲町、あんたある程度どんなのにするかだけでもなにかに描いてきてくれないかしら? 必要な物はこっちでも用意するから。」
「みんな、ありがとう! 明日には持ってくるよ!」
そう言ったのをきっかけに終わりのチャイムが鳴った。 みんなそれぞれに散っていく。
「どんなのが、来るのか、楽しみです、ね。」
「ああ、でも俺達はあいつの事もっと知っておかなきゃいけないかもしれない。」
「そうだね。 午後の授業は合同練習だから、その時にでも誘ってみようよ。」
そんな事を決めて、俺達も教室を後にする。 いつもなら部屋に行ってから昼食の為に食堂に行くのだが、今日は直接行くことにした。
「あら? 飛空達も食堂に行くの? 珍しいじゃない。 直接行くなんて。」
そう声を掛けてきたのは鮎だった。 後ろには夭沙とエレアもいる。
「お、今日はみんなお揃いかい?」
別の所から聞こえた声の主は雪定だった。
「まあそんなところだ。 席あるかな?」
「まだ食堂が開いたばかりだ。 そんなに困ることはないと思うがの。」
そのエレアの言う通り、食堂には何人かいるくらいで、他はそれなりにガランとしていた。
「ま、占領しない程度に席を取ろう。」
そう言って食券を発行して、机をくっつけて席を確保してから白ご飯をよそいにいき、席へと戻る。 そこでふと思った、男女比が3:5じゃ変な感じにならないか? と思ったが、意外にもあっさりと決まったので杞憂になった。 ちなみに席順としては左側は入口側から鮎、夭沙、海呂、白羽。 右側は入口側からエレア、俺 (飛空)、雪定、紅梨となった。
「ところで午後の合同練習ってどことやるのかしら?」
「僕らのクラスみたいだよ。」
紅梨の疑問に雪定が答えてくれる。 今回はエレア達とは違うクラスか。 あ、輝己達とは同じなのか。
「そっちのクラスで強い人って誰なんだ?」
「こっちは学級委員長を決めるので一度闘いあってるから1番強いなら学級委員長だよ。 ただ・・・」
「ただ?」
「特化してるのが純粋な「強さ」なんだよね。 正直副委員長の方が僕は良かったんだけど。」
ああ、火力馬鹿の突貫野郎か。 なら多分問題ないな。 副委員長の方が警戒しなきゃいけない部類だろうな。
「飛空の考えてることが分かるよ。 副委員長は敵に回したくない相手になるだろうから、気をつけてね。」
ご忠告どうも。 まあ火力馬鹿よりは試合らしい試合は出来そうだな。
お昼も済ませて、午後の授業のために電脳室へと向かう。 少し早く来てしまったかと思ったが、俺よりも先に来てた人物が1人。
「お前も早く来る派か」
「その声は津雲かい? 部屋にいてもしょうがないからさ。」
今朝話し合ったばかりの仲町が準備運動をしていた。 多分急に動いてもいいように体を温めてるのだろう。
「でもちょうどいいや。 なあ仲町。」
「ん? なんだい?」
「お前が良かったらでいいんだけど、今日俺とチームを組まないか?」
その提案にストレッチをしていた仲町がストレッチをやめてこっちに声をかけてきた。
「僕でいいのかい? 君ならもっと強い人と組めるだろ?」
「強いだけが全てじゃないし、それにお前の事も色々と知りたいんだよ。」
朝みたいな事が起こらないようにっていうのもあるけど。
「それじゃあ、よろしく頼むよ。」
「サポートはしっかりしてやるよ。」
そうして迎えた午後の合同練習。 仲町の他に海呂と文香を連れて相手のチームと戦う事にした。
「お前だなぁ? 1番強いのは?」
そう言って声を掛けてきた男子生徒。 練習相手のクラスから来たので、多分こいつが学級委員長だろう。 赤い芝生頭が特徴的だ。 そしてやたらと威圧をかけてくる。ツリ目だから余計に威圧感を放っている。
「はん! お前みたいなのが最強なら、お前を倒すことが出来れば俺が最強だ! 最強は2人も要らないからなぁ! 精々足掻いてみろよ?」
そう言って去っていく。 確かにあれが学級委員長ではクラス崩壊もしかねないか。 そう思った後に今度は女生徒がこちらに向かってきた。 太ももまでかかったレモン色のロングヘアで、こちらはタレ目で穏やかそうな風貌をしていた。
「ごめんなさいね。 うちの学級委員長が迷惑をかけたようで。」
そう言って会って早々に謝ってきた。 こっちが副委員長だろうか?
「ああ、まあ、かなり驚いたけど、そこまでって感じじゃなかったから。」
「私は彼とチームを組んであなた達と戦うと思うから、その時はよろしくね?」
うーん。 礼儀正しい人だ。 どこかのお嬢様だろうか?
「それじゃあ、また試合でね。」
そう言って手を振りながらクラスの中に戻っていく。
「なんか向こうも向こうで大変そうだね。」
「今は気にしてる場合でも無いだろ。 まあ強いかどうかは、戦ってみれば分かるだろ。」
海呂と会話を済ませて、順番になったのでブリーフィングルームへと入る。
新武装への調整もある程度は出来ている。 後は相手の出方次第と言ったところだ。 クラス一位と二位の実力。 見せてもらおうじゃないの。




