第58節 柔らかい感触と回想、どうしたら
いきなりですが今、俺 (津雲 飛空)は大変困った状況に陥っております。
とりあえず簡潔に言いましょう。 俺は今右腕を掴まれてます。 誰かは分かっています。 目の前にいる鮎にです。 そしてその右腕の先の手にはですね。 鮎の胸があります。 ええ、揉んでる形になるんです。 服越しですがそれなりに柔らかい感触を感じられます。
そしてここで言わせてもらいましょう。 俺の故意で揉んでいるのではありません。 考え事をしていてなんか右腕が不思議な感覚になったと思って見てみたらこうなっていた訳です。
他のみんなもいますが、みんなこの状況を知っているような顔をしているのです。 つまりこの時点で俺は聞かなきゃいけないことがあります。
「なんでこんなことになっているのか、誰か説明してくれない?」
「・・・・・・じゃあ僕が説明しよう。」
そういって海呂が説明に入る。
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夏休みが近くなってきて、授業も昼近くに終わることが多くなったので早々に寮に戻れる時期になっていた。 僕は近くに少し用事があったので、先に戻っててと飛空に伝えて用事を済ませて、部屋に僕が入ってきた時には飛空は考え事をしていたんだ。 なにを考えいたのかって言うと
「あのミッションの難しいところは1人を守るように敵が配置されているところだ。 一対多だとこっちが不利になるから一対一に持ち込みたいところだけど、やっぱりそれはAIとは言え人工知能、なら一対一に持ち込むのは無理そうだ。 なら地形を活かすか?いやしかしあの地形は全体が見えるような開けた地形だからな。 拘束しようとすれば明らかに1人は対応することになる。 それは拘束したヤツを取り残すことになるからそこから集合させる可能性が高いからそれは避けたい所なんだよな、なら・・・・・」
飛空はさっき行ってきたであろうミッションのことで頭がいっぱいだったみたいで、僕が部屋に入ってきたことすら気づいてなかったみたい。
「帰ったでぇ、いやぁ今日の授業がこんなに伸びるとは・・・・ どういう状況や? これ。」
帰ってきた輝己と啓人に説明をした。 僕も帰ってきたらこうやって考えていたと。 さっき行ってきたミッションのことで模索しているのだと。
「熱心だねほんとに、交流会が終わったんだから少しくらい・・・・って飛空に言っても聞かないか。」
「常に強くなりたいと思うのは男の性やがなぁ。 根気詰めすぎとちゃうかねぇ。」
それは僕も同意見だ。 授業の方も軽くなってきて、夏休みも近いので色々と休む絶好の機会だというのに彼は休むということを知らないのかと言えるくらいなんというか熱心といえば響きはいいが、どうも彼には休み方を分かっていないようにも見える。
「それで、どうする? このまま放置も良くないやろ? 待ってたらいつ終わるか分からんで。」
「とりあえず僕らだけじゃ解決も難しそうだから他の人の意見も聞いてみよう。」
「そうだね。 とりあえず僕は白羽達を呼んでみるよ。 この状況に関して彼女達もこの件に関しては改善させてあげないとっていってたし。」
「ならわいは夭沙呼んでくるわ。 同じ生徒会やし、なにか対策を知っとるかもしれん。」
「じゃあその間は僕が見てるよ。 考え終わったらみんなが来るって伝えておく。」
そういって僕と輝己は部屋を出た。 それで、白羽と紅梨に事情を説明して、部屋に来て欲しいと言ったら
「飛空ったらまたそうやって考え事をしてるのね。 全く早く治してもらいたいものよ、そういうのは。」
「まあまあ、紅梨ちゃん。 それも飛空さんの、個性だから、そんな事言っちゃ、ダメだよ。」
ついてきてもらう事には変わりなかったのでとりあえず部屋に戻ってドアを開ける。 もう戻ってきた輝己に夭沙、それに鮎が一緒にいた。 どうやら夭沙が行くということで一緒に来たようだ。
「これだけ大人数が来てもまだ気づかないとは、逆に感心できるよ。」
「啓人、もしかしてずっとこんな感じなの? 飛空は。」
「正確には僕が戻ってきた辺りからだね。 もう5分近くは考えてるんじゃないかな?」
「ほんとによく気づかないものですね。 見るどころか聞く耳すら持ってない感じ。」
「飛空さん、考え込むと、周りが見えなく、なっちゃう、みたいで。」
「ここまで来ると天晴れの一言や。」
「ねぇ、逆になんだけどさ。」
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そこから「なにをしたら飛空は気づくのか」という競技に入り、大声ややかましい音楽、体を揺さぶる、脇腹をつつく、頬を抓るとやった辺りで鮎が俺の腕を掴んで、自分の胸に持ってきた辺りで今の現状に戻る。 ちなみに俺は未だに鮎の胸を揉んでいる状態で固まっている。
「ん、んん!」
紅梨の咳払いにハッと俺も鮎も我に返り、お互いに手を元の場所に戻す。
「す、すまん!」
「う、ううん。 私がやった事だし・・・」
鮎がやや赤くなってきしまった。 俺も俯き、自分の右手をなにか握るかのように指を動かしてしまった。
「・・・・・・飛空さん?」
呼ばれて顔を上げると目の笑っていない笑顔の夭沙がそこにはいた。 いや待ってよ! 確かに鮎の胸を揉んだのは事実だけどそれは鮎が直接やったことであって。
「まあ、なんや、戻ってきて良かったわ。 わいの抱腹絶倒のくすぐりを見せられへんかったのは残念やけどな。」
そんな事をしようとしてたのかお前。 やられなくて助かったのか? いやどっちみち今の現状から助かってないわ。
「でも我に返ってもらって良かったわ。 そのままだったらどうしようかと思ってたのよ。」
「でも、そのままだと、また同じ事の、繰り返し、です。」
確かに前の交流会の時でも同じ事をしているから癖としては治しておいたほうがいい案件だろう。
どうやったら長考しないかを考えなければいけない。
「ほなメモるのはどうや? 文字に起こせば同じ考えは無くなるやろ。」
「でも考えちゃうのは同じだよ。 それに文字におこすのもまた考えが纏まらない可能性だってある。」
「啓人の言う通りだよ。 それじゃ解決しないよ。」
「なにかで考えを妨げるとか? もしくは長考に入りそうになった時にベルを鳴らすとか。」
「でもそれも、飛空さんが、気づかなければ、意味無いよ。 紅梨ちゃん。」
なんかみんな思い思いに考えてるなぁ・・・ 自分でもどうにかしないといかんな。 紅梨の言うように音楽とかを取り入れる・・・いやダメだ。 聴覚が遮断されて余計に他の情報が入らない。 うーんなにか他に
「飛空さん。」
名前を呼ばれて我に返る。 そのそこには夭沙の顔がすぐ側にあった。
「もう、治そうとしてる本人がそんなのじゃダメじゃないですか。 飛空さんは少しなにも考えないで下さい。」
そうくぎを刺されてしまった。 そう言われても何もしないでボーッとしてるのもなぁ。
しばらくは色々と案がでてはいるもののなかなかそれらしいものも無く、夕方になってしまった。
「考えが纏まらない。 と言うよりどうしたら飛空が考えるのを止めてくれるかが分かんないわ。」
うーんとみんな悩んでくれてるが、このままだとまともに考えさせてもくれなさそうだ。
「というか根本的なことを聞いてもええか?」
そう輝己が聞いてくるので「どうぞ?」という手の形をして質問を促す。
「飛空はなんのミッション行って、そんな悩んどるん? 飛空が悩むようなミッションなんかそうそうないと思うんやけど。」
俺は何でもできるスーパーマンだと思ってるのかこいつは。 俺だって1人じゃ出来ないことの方が多いわい。
「あぁ、実はな。」
そういって先程行ったミッションについて話す。
「飛空、それを一人でやろうなんで流石に無謀じゃないかな?」
「そうかな? 行けると思ったから行ったまでなんだけどな。」
「あんた、今の自分の武器見直してから言いなさいよ。 あんたの武装とそのミッションは相性最悪よ?」
「一気に、押し寄せて、来ますから、1人じゃ、さばききれないです、よ。」
「飛空君が無茶するのは知ってたけどここまでとはね。」
「開いた口が塞がらないって感じだよね。」
「そういってやるなや啓人。 1人で出来んミッションならみんなで行けばいいだけの話や。 シンプルな答えやで。」
「そうですね。 飛空さんの悩みも解決できて、ミッションも消化できて一石二鳥ですよ。」
みんなでわいわいと食堂へと向かう。 そこで、ふと思う。
「ああ、誰かに相談すれば自分1人で考えなくてもいいじゃないか。 そんな単純な事になんで今気づいたんだろ?」
その俺の一言にみんな振り返る。
「そうだよね。 やっぱり1人で考えを巡らせても答えには辿り着かないもんね。」
「なんかまた悩みそうになったら私達を頼ってよね飛空君。」
「私達はどんな時でもあんたの味方よ。」
「これで、飛空の長考癖が無くなれば、万事解決かな?」
「そのためにもしっかり聞いてやらんとな。」
「頼りに、されるのは、嫌いじゃ、ないので。」
「頼りにしてるので、私たちにも期待してください。」
そんな風に言われて、俺ももっと頑張らなければと、もう一度強く願った。 こうして頼られる人間になったんだ。 みんなをガッカリさせないようにしないとな。そう思いながら食堂の戸を開けた。




