第59節 研究成果と他校訪問、課題
ある日の夜、他校交流用のグループチャットにこんな事が書かれていた。
『先輩達が受け継いできた研究の集大成がついに念願叶ったわ!』
その文の差出人は矢萩機械研究学院の柊からだった。 矢萩学院は電気工学について研究をモットーにしている学院で、柊は電脳世界に義手義足を入れれるようにした張本人である。
しかし念願の研究の集大成とはなんだろうか?
「先輩達が受け継いできた研究ってなんなんだい?」
率直な疑問を返す。 すると他のみんなも『聞きたい聞きたい』と通知が送られてきた。 通知音うるさっ。
『ふふふっ、聞いて驚かないでよ? なんとロボットを電脳世界に入れることが出来たの!』
・・・・ロボットを電脳世界に入れる? 確か電脳世界に入るには人間の脳波を感知して入れるようにしていると授業で習った。 ロボットということは人工的に作られたもの。 つまり人間の脳波を持っていない。 それを電脳世界に入れる事が出来たって。
「す、凄い事じゃないか! 大発明だよ!」
その後も『おめでとう!』『素晴らしい』と賞賛の声がかけられた。 マジで通知音どうにかしよ。
『みんなありがとう。 でもそれでもちょっと問題があって、私達のグループは電脳世界に入れれたことで浮かれているんだけど、私はちょっと満足してないのよね。 誰か放課後一緒に考えに矢萩学院に来てくれない? 手続きはこっちでするから。』
そう柊から意見が挙がった。 とは言え他のみんなも授業だったりで予定が作れないようだ。
それで参加を検討したのは午前授業の俺、単位は取れているので授業に積極的に参加しなくてもいい円商高校の横井、午後のトレーニングが無くなってやる事が無かった湾健高校の堂本、明日は特別休日の軟琉高校の青坂の4人が行くことになった。
翌日の午後、俺は矢萩学院行きのモノレールに乗っていた。 レールが下ではなく上にある辺り近未来チックかと一瞬思ったが元の世界でも取り入れられてる場所はあったからそこまで不思議では無かった。
モノレールに揺られながら20分ほど、俺は逆巻駅に降りた。 矢萩学院の最寄り駅らしいのだ。
そこから10分程歩いたところに、三角屋根の校舎がいくつも見える。 ここが矢萩機械研究学院の全体像なのだ。
さて招待は受けたもののこのままでは部外者扱いで、なにを言われるか分からん。 柊を呼ぼうと思った時、
「あ、良かった。 おーい! 飛空君!」
これから呼ぼうとしていた柊本人がこっちに来てくれた。
「もうみんな集まってるから入って入って!」
そう言われたので、校門を潜る。
矢萩機械研究学院、学舎がいくつかに分かれており、学科によって使う学舎が違うとのこと。 機械といっても一つでは無い、暮らしを支える家庭電化製品を見直す学科や、逆にそれを進化へと導いていく学科まで様々だ。 高校と言うよりは大学に近いかもしれない。 キャンパスのような感覚だ。
「そしてここが、私の通う「電脳科」よ。」
電脳科、バーチャル世界が出来た今の現在に身体への負担を最小限に抑える為に日々研究を繰り返す学科とのこと。
「でもそんな電脳科が、なんでロボットにこだわったんだ? それは別の学科の仕事じゃ?」
「正確には私が義手義足を電脳世界に入れたことで、もしかしたら成し遂げられなかった研究が出来るかもしれないって言って、先生達が先輩達のレポートを引っ張り出してきたのよ。 それを面白そうだったから、私がやった訳。 もちろんロボットを作ったのは私じゃないんだけどね。」
それでも十分なくらい凄いと思うがな。
校舎の中を入っていって、しばらく歩いたところで、「電脳科 研究室」とプレートの書かれた部屋に着く。 ドアを開けると先日まで一緒だったメンバーの顔があった。
「あら、飛空さんが最後なのですのね。」
「無事に着いて・・・良かった・・・です。」
「みてよ飛空! これが電脳世界に入るロボットだって!」
堂本が興奮気味に見せてくれたのは、ザ・ロボットと言わざるを得ない位に四角いロボットだった。 確かに完全に1人として認識出来るようなロボットの形をしていた。
「これ、動けるのか?」
「動けるようにちゃんとプログラミングはされてるよ。 難しい命令は都合上出来ないけどね。」
そう言ってきたのは、柊ではない別の矢萩学院の女生徒だった。 赤髪の天パで背が高いが、どこか眠たそうな顔をしていた。
「このロボットはあたしが作ったんだ。 試作品ではあったけど、電脳世界に入る方法の模索として使われた第一号さ。 あっと、あたしの紹介がまだだったね。 あたしは木崎 紗弥奈、あたしも1年生だから気軽に呼んでね。」
木崎がそういうのでそうさせてもらう。 しかし見れば見るほど典型的なロボットと言わざるを得ない。 関節部をただ繋げたような感じだし、なにより普通に動かすのが難しそうだ。
「一応この子が電脳世界に入れる所を見てもらいたいんだけど、1人ずつしか見れないのよね。」
「どうしてだい?」
堂本が質問をする。
「この子放ってる電磁波が強すぎて、電脳世界への反応が大きいの。 次からはこの電磁波の調整から入るんだけど、直接見てもらうなら1人ずつって事になるんだ。」
「でもモニターで見れるのなら、あまり関係はないんじゃないかしら? 入るのは1人でも、見るのは出来るし。」
「そういうこと。 だから誰か1人が代表で入ってもらう程度でいいのよ。 実際はね。」
それぐらいならと、俺を含めた他校組4人でジャンケンをして入る代表は青坂と決まった。
「そんな・・・重大な事・・・私に出来るでしょうか・・・?」
「大丈夫よ瑛奈ちゃん。 実験は成功済みだから気楽にしてて。」
そういって奥の簡易的なミーティングルームに入っていく。
「そう言えば問題があるって昨日のチャットでは言ってたけど、なにが問題なんだ?」
今思った疑問を柊に聞く。ここまで聞くと成功したから見に来てよという誘いにしかなってない。 問題点はそこではない。
「さっきも紗弥奈が言ってたけど、今のあの子じゃ電脳世界に入るのが精一杯だし、なにより人間のような動きを覚えさせられないのよ。」
「それはプログラミングの限界ってことか?」
「そうじゃないの。 動かそうとしても動かせないって言うのが正しいかな。」
その疑問には木崎が答えてくれた。
「例えば、屈伸させようにも足と胴体部分に曲げる関節をつけてないから屈伸運動ができない。 ボールを投げてと言っても、投げることは出来てもピッチングマシーンのように直線的になってしまう。 だから今は出来ないの。」
なるほど、関節部が出来上がってないから人間の言うところの「曲げる」運動が出来ないって訳だ。
他のみんながモニターに釘付けになってる中俺はロボットを見てある疑問が出てくる。
「関節部だけでも、新しくパーツを入れることは出来ないのか?」
「あれ以上パーツを増やすと、今度は誰も一緒に入れなくなっちゃうのよね。 人を入れれてなおかつ一緒にいられる電磁波はあのパーツの量が限界なの。」
うーん、駆動させるだけでも量が多くなって出来ないのか。 難しい課題なのは今ので十分なくらいに分かった。
「・・・というか人に近づけるならもうちょっと丸みを帯びてもいいような・・・」
その独り言に柊と木崎が目を丸くしてこちらを見ていた。 え?なんか変な事言った?
「丸み・・・・そうよ。 丸みを付ければ、本来の人の動きに近づけれるかも知れない・・・・電磁波ももっと小さく出来るかも・・・」
「関節部には球体状のパーツを組み込めば上下左右どこを動かしても滑らかに出来るわ。」
「応用していけたら、もしかしたらもしかするかも!」
どうやらあの一言でなにか掴めたのかもしれない。その辺りは管轄外なので、なにも口にはしない。
「次の課題は決まったわ! 新学期までに完成に近づけるわよ!」
「え? これから制作するのか?」
「もちろんあたしだけじゃないわ。 同級生や先輩達も協力をしてもらって制作を進めるわ。 夏休みでもここは使えるから夏休みでもバリバリ精を出すわよ!」
こりゃ大掛かりなプロジェクトになりそうだ。
「ありがとう飛空君。 これは今世紀最大の大研究になる予感がするわ。 これがもし実現出来たならもう大発明ものよ。」
「言ったでしょ?紗弥奈。 彼ならもしかしたらいいアイデアをくれるかもって。」
そんなこと話してたのかよ。 何も考えなしだったらどうするつもりだったんだ。
「せっかくだから今日なにか奢るわ。 リクエストはある?」
「リクエストって言われても、この辺の食い物はあまり知らないんだよな。」
「ならあそこにしましょ? 最近出来たあの店に。」
「そうね。 興味はあったから、いい機会ね。 早速出掛ける準備をしましょう!」
そういってそそくさと電脳科研究室を出る木崎。
「紗弥奈なんだけど、浮かれるとちょーっと面倒な絡み方してくるから、気を付けてね。」
柊が注意をされた。 え?着いてこないの?
その後柊を抜いた5人で食事をしたのだが、アルコールなんか飲んでないはずなのに木崎がなんか、絡み酒のように絡んできて確かに面倒だった。 柊はこの状況を多分知ってるから逃げたな? 今度あったら愚痴ってやる。




