チャプター1 監禁船の四月は君の虜 クロ探し裁判編(10)
☆==Kuranaka Ribon Memory==☆
【倉中りぼん】。
親が居ない私のために、倉中創院長が付けてくれた仮の名前。私の12人の妹も、私と同じ境遇で、性別・年齢・生まれた場所・国籍・肌の色・髪の色なども違いましたけれども、それでも私達にとっては家族でした。
私が自分の生い立ち、自分が捨てられた孤児であるのを知ったのは5歳の時。まぁ、その前からここが孤児院で、外見もなにかも違う妹達を見てれば、薄々は感づいていましたが。
でもまぁ、漫画雑誌を毛布として使われたのを知ってからは、イラストや漫画の事も嫌いになっていました。だって自分を捨てた親が置いたものなんて……。
子供ながらの小さな反発心、みたいなものですが。
けれども、国籍も違う妹達の中には言葉が通じない子も居たの。院長は言葉が通じているみたいだったけど、私には分からなかった。
でも、孤児院はお互いに助け合う場所。言葉が通じない事が子供の面倒を見ない理由にならなかった。
いろいろ試したけど、言葉が通じない子に一番有効だったもの……それがイラスト。孤児院では絵本は高級品だったから買えなかったから、自作するしかなかったの。
最初の頃は本当に酷いイラストばっかりで、馬か、それとも犬なのかも分からないようなイラストとかを描いていましたよ。次第にイラスト単体では飽きられてしまうから、そこに物語を付けて漫画として描くようになりました。
そうやって描いたイラストや漫画の、子供達が飽きるくらい読んだ古本を、孤児院のバザールで売って、それが編集者の目に留まったのが私の【超逸材のイラストレーター】と呼ばれるようになったきっかけ……かな?
まっ、そうやって世間の注目が集まって行く事なんて、本当はどうでも良かったの。
世間的に見れば駄作だろうとも、子供達が喜んでくれるんだったらそれでも良かったし。仮に神のような名作と呼ばれようとも、子供達の反応が悪かったらそれはただの駄作だった。まぁ、お金を貰えて、そのお金が孤児院の助けになれたなら、嬉しかったけれども……。
まぁ、なにが言いたかったと言えば【超逸材のイラストレーター】の倉中りぼんにとって一番大事なのは、その孤児院の人達……12人の妹達と孤児院長って事。
その子供達の生死が分からず、なおかつ院長まで……。数年って何の事だか、私にはさっぱりだった。
丁度、相川ちゃんとの面談の時間だったから、私は自分の不安の事を話す事にしたんだ。
でも、最初に倉中共同院の名前を出した途端、相川ちゃんの表情が変わったんだ。
アイカワ・ユウキ【『倉中共同院』……? それって、確かあそこは暗殺者の共同院じゃなかったでしたっけ?】
クラナカ・リボン【あ、暗殺者の共同院?!】
アイカワ・ユウキ【そう、身寄りのない子供を誘拐して、知らず知らずのうちに暗殺者として育てる闇の孤児院。そこで育てられた者達は世界に暗黒を運ぶ闇の使者達として世界の権力者を知らず知らずのうちに葬って来た。
――――暗殺者集団、【暗い中の闇】。12人の少女からなるその集団は世界に破壊をもたらして来た。その中でも"ジャンプ"という女は特に酷い暗殺者で……】
クラナカ・リボン【じゃ、ジャンプ……?】
その名前は私の妹、倉中飛翔の事を指していると思った。思いましたが、相川さんの語る暗殺者育成孤児院としての『倉中共同院』と、私の知っている優しい院長と妹達で送る『倉中共同院』とはあまりにも違い過ぎてまして……。
私は何度も止めて欲しいと頼んだんです。その話よりも聞いて欲しい事があったから。
――――けれども、相川ちゃんは面談の際にさり気なく、でも確実に『倉中共同院』からは縁を切るように勧めて来たんです。
"あそこはやばい所"。
"まともな人間の居る場所じゃない"。
"暗殺者なんか、【超逸材のイラストレーター】の倉中りぼんさんが関わる者じゃない"。
まぁ、そんな事を根。
彼からして見れば、単純に私の身を案じての事だったと思うよ。私がもしも彼の立場だったら、暗殺者集団の事なんか忘れるべきだと思うもの。
……でもね、私にとっては相川さんのいう事は我慢の限界だったの。
たとえ、「【超逸材のカウンセラー】として相手の言葉を肯定するばかりでは無くて間違っている所は正さなければならない」とか、ご丁寧な主人公キャラに使えそうな信念を持っていたとしても、私にとっては生まれた場所の侮辱となるその言葉を、言い続けさせる訳にはいかなかったの。
……だからついカッとなって、部屋の中にあった矢をまとめて殴ったら、そのまま血を流しちゃって……。
もう後には引けなかったの。
それからはさっきの裁判で話していた通り、カウンセリングルームの小窓に絵を描いて、扉を施錠。相川ちゃんの死体を紙で隠して体育館まで持って行ったの。橋渡さんが『お菓子を食べよう会』を行ってくれていたから、トイレとか言って、出るうちに少し細工しただけで終わりましたが。みんな、トイレに行ったりしてたから、そこからはバレないと思っていたのに。
……まぁ、それが私の犯行、という所ですかね。
==☆Fin☆==
クラナカ・リボン「それが私の犯行……の全て、という奴です」
ヤマト・アユム「止める事は……出来なかったのか? 相川さんの発言を単なる1つの忠告くらいに捕らえて置けば、それで良かったんじゃないか?」
カスガ・ハルヒ「どうせ手を出した時点でイラストレーターさんは殺すしかなかったんでしょうけど……まっ、自業自得でしょうけどね」
ヘイワジマ・ノゾミ「オー! そのイーカタはつらすぎなのネー」
と、皆が言い合う中で、倉中さんは視線を下へと下げたままだった。ほとんどの人はそんな風に倉中さんの意見に同情できると見ていたが、それでもやはり相川さんを殺したクロだから完全には肯定出来ないみたいだった。彼女を違う視線で見ていたのは、3人。
まず橋渡恋歌さん。彼女は涙を流してはいるが、「あぁ、リボンちゃんが死ぬなんて☆ でも、私にはまだ恋人候補が居るから、それは喜ぶべき事ですね♪」と口にしているので別だろう。
次に御剣さん。彼は必死になって目を閉じて、相川さんに背を向けていた。
最後に小鳥遊さん。小鳥遊さんも御剣さんと同じように倉中さんを見てはいなかったが、その視線はどこか空を見ているようで、こんな状況では可笑しいかも知れないが、何故かその視線は前を向いて、希望に溢れていた。
と、そんな風に考えていると、ゲシュタルトがぼく達の前に現れる。その手には倉中さんを逃がさないためなのか、縄がついた枷を持っていた。
ゲシュタルト《……ぐふふぅ! さてさて、お別れは済んだかなぁ?
じゃあ、そろそろ"おしおき"をしましょうかねぇ~》
クラナカ・リボン「ちょ、ちょっと待って! 私の妹達、それに院長は!? 無事なの!?」
ゲシュタルト《今回は、【超逸材のイラストレーター】の倉中りぼんさんのためにスペシャルなお仕置きを用意しましたぁ!》
クラナカ・リボン「教えてよ! ねぇ、外の世界がどうなっているのかを教えてよってば!」
ゲシュタルト《さぁ、参りましょう! おしおきタ~イム!》
クラナカ・リボン「教えてってばああああああああああああ!」
次回、グロ注意の"おしおき"です。