チャプター1 監禁船の四月は君の虜 (非)日常編二日目①
《ピンポン、パンポーン! 朝8時を迎えました。みーんな、朝だよ~!
オマエラ、今日も一日元気にコロシアイましょう! ぐふふ……!》
ユキワリ・キョウヘイ「んっ、んんっ……」
ベッドから起き上がり、寝ぼけ眼のまま頭を手でかく。
昨日の食堂での話し合いの後、ぼく達は寄宿舎と呼ばれる眠るための施設へと戻って行った。眠るため、考えるため、コロシあうため……など、それぞれ思い思いの理由はあっただろうがみんな、なにも言わなかった。ぼくはただこの現状を消化できずにいて、個室に入った。
寄宿舎は船の丁度真ん中にあって、それぞれ16人の個室がある場所だ。真ん中を挟んで右側に男子、左側に女子の部屋が並んでおり、ドアには倉中さんがゲシュパットに描いてくれたような絵が描かれていた。
ぼくは自分の絵が描かれている部屋に入ると、そこにあったのは勉強机とベッド。シャワールームの他にクローゼットも付いており、そこにはぼくが今着ている服が、細部に至るまで全く同じ色と形をした服が何十着もかけられていた。なんで同じ服が何着もあるのかびっくりしたが、それ以上に気になったのは机の上に置いてあるノートだった。
そのノートには【雪割杏平について】という題名が書かれており、パラパラとめくっていくとそこには情報が書かれていた。
『〇雪割杏平
〇家族構成;父と母、兄は元【超逸材の名探偵】雪割花江
〇称号;【超逸材のスケット】
〇一人称;ぼく
〇前向き・なんでも卒なくこなす・感傷的』
ユキワリ・キョウヘイ「……これ、ぼくの情報なのかな?」
けれども、なんでぼくの情報が書かれたノートが机の上に置いてあるのか。その答えは分からず、ぼくはベッドに横になって眠りについた。
――――で、先程のアナウンスで目を覚ましたわけなのだが……。
ユキワリ・キョウヘイ「うぅ……まだ眠い……」
ゆっくりとベッドから立ち上がると、「とんとん!」と扉を叩く音が聞こえる。
ユキワリ・キョウヘイ「あぁ、はいはい」
そう言って扉を開けると、「やっほ~!」と朝早くなのにも関わらず元気溌剌な常盤木十香さんの姿があった。
トキワギ・トオカ「おは、おっは~! 今起きた所かな、キョウヘイッチ?」
ユキワリ・キョウヘイ「あ、あぁ……うん。今起きたところだよ。こんな朝早くにどうしたの?」
トキワギ・トオカ「……えっ? 今、朝8時でしょ? もう普通に朝じゃない? むしろ昼と言っても良いくらいの時間じゃない? あたしがサッカー部の朝練が会った頃は4時には起きてたし、今日だって5時には目が覚めてたよ?」
ユキワリ・キョウヘイ「マジか……」
朝5時って、どんなに朝早くから起きているんですか……。まだ日も昇っているかどうか怪しい時間帯だろう? そんなに朝早くから起きて、やる事なんてあるのだろうか?
トキワギ・トオカ「いや、そんな事が言いたいんじゃなくて……。今重要なのは、朝食なんだよ!」
ユキワリ・キョウヘイ「朝食……?」
トキワギ・トオカ「うん! ヒイロッチが皆で朝食を取るべきだって言い出してね! だから、あたしが皆を呼んでるんだ~! ショコラッチとサユリッチ、それにノゾミッチが3人で朝食を作ってるんだぁ」
今、食堂に居るのは、ショコラッシュ・バニラさんと中吉田さゆりさん、平和島望海さんの朝食作成係。それ以外にも白神山たけるさんと相川祐樹さん、倉中りぼんさん、戦場ヶ原桂馬さん、大和歩さんの計8人。いや、常盤木さんとぼくも合わせれば、10人か。
他の人達はそれ以外に用事があったりして忙しいらしい。
小鳥遊灯里さんと橋渡恋歌さんの2人は部屋に行って見たが居なくて、久能環さんはそもそもどこに居るのか分からないみたい。鈴木シーサーさんは無言で大丈夫と止められたらしく、春日春日さんはちょっとメイクに時間がかかるみたいだとか。
トキワギ・トオカ「で、あたしはキョウヘイッチも呼びに来たんだけど……朝5時に起こしに行ったんだけど、起きてなかったの?」
ユキワリ・キョウヘイ「そんな時間から皆で起きてるの……?」
どうしてそんなに朝早くから起きてるんだか……。
トキワギ・トオカ「で、キョウヘイッチはどうする? 食堂に行くのかい?」
ユキワリ・キョウヘイ「行くよ、断る理由もないしね」
「やりぃ~!」と常盤木さんは笑っており、「じゃあ待ってるからね!」とそのまま食堂の方へと帰って行った。ぼくもシャワールームにて軽くシャワーを浴びて、クローゼットにあった新しい服(とは言っても、色と形は全部一緒だが)に着替えると、食堂へと向かったのであった。
食堂へと行くと、戦場ヶ原さんと大和さんの2人に出迎えられる。
センジョウガハラ・ケイマ「おぉっ、歩兵のように最後にどんっと現れしそなたは、雪割殿か」
ユキワリ・キョウヘイ「あっ、はい。おはようございます」
ミツルギ・ヒイロ「おぅ! おはようだぜぇい! イェぇぇぇぇイ!」
ヤマト・アユム「雪割さん、おはようございます。今日も元気かい? オレは元気だぜ……いや、厳密に言えば、オレはちょっとばかし眠いのだけど」
戦場ヶ原さんはいつもの和服姿で将棋を持ってポーズを取っており、大和さんはぼくのように寝ぼけ眼をこすりつつも、空元気っぷりを醸し出していた。御剣さんはびしっとした口調で、言葉を返していた。
ちなみに御剣さんは今日は朝4時に起きて、1時間くらいラジオ体操をして身体を温めていたみたいだ。本当に朝からアグレシッブである。
白神山さんはびくびくとびくつきながらも、ささっとテーブルに出来た商品を配膳していた。どうやら彼女は配膳係みたいであり、むしろ自分から進んでその役割に身を投じているみたいである。
ショコラティッシュ「あっ、雪割さん! おはよう! ショコラ、今中吉田さんと平和島さんの2人で美味しい料理、作ってるんだ! もうちょっと、待ってくれる?」
ユキワリ・キョウヘイ「別に良いんだけど、あれはなに?」
ぼくが指差した先には2人の料理人、いや重装備の主婦もどきが居た。中吉田さんと平和島さん、2人がショコラティッシュさんと同じく朝食を作ってはいたが、その格好がいつもとは違っていた。
中吉田さんは桃色のダッフルコートの上に真っ白で清潔な白衣を羽織っており、その手は青いゴム手袋を身に着けていた。完全防備である。平和島さんはと言うと、カエルをモチーフとしたフードを取り外しており、代わりに白い三角巾を被っていた。2人とも昨日見た時とは違う格好であった。
ショコラティッシュ「えっと、あれはね。料理を一緒に作るというから、ちょっとばかり身なりを整えて貰ったんだ。料理は清潔が命、だからね」
ユキワリ・キョウヘイ「へ、へぇ~」
ショコラティッシュ「ショコラはね、バカだけどパティシエとしてお菓子作りの大切さは大事なんだよ。だからショコラは、あんな恰好にしてもらってるんだ。2人とも、自分の部屋のクローゼットにあったんだって」
ユキワリ・キョウヘイ「へ、へぇ……」
ぼくの部屋にあったクローゼットには、自分の服だけだったんだけれども。
クラナカ・リボン「相川ちゃん、これどうぞなのです!」
アイカワ・ユウキ「これは、どうもですなぁ」
倉中さんはささっとイラストを描いて相川さんに手渡すと、次のイラストを描き始めていた。相川さんに渡したのは彼の自画像みたいなものであって、相川さんに見せて貰ったその紙には本物と見間違わんばかりの相川さんの顔が描かれていた。ものの数秒で描きあげた彼女は、次は戦場ヶ原さんと大和さん、それに御剣さんの3人のイラストを描いているみたいである。
アイカワ・ユウキ「雪割杏平くん、昨日はよく眠れたかい?」
ユキワリ・キョウヘイ「え、えぇ。まぁ、ゲシュタルトに言われたコロシアイの話は少し精神的に来たんですけれども、なんとか……」
まだ眠気は少し残っていたみたいで、欠伸をしてしまうが、そんな様子を見て相川さんは笑っていた。
アイカワ・ユウキ「まぁ、わたしは考えすぎて一睡も出来ていませんが、これくらいならば【超逸材のカウンセラー】として経験した事があるので大丈夫ですよ。人によっては、牢獄の前にて1週間くらい待ち続けた時もあるからね。これくらいならば、まぁ、普通だよ」
ユキワリ・キョウヘイ「あまり、無理はしないでくださいね」
ぼくがそう言うと、分かってると言いたげに相川さんはにこやかにほほ笑んだ。そして今まさに、ショコラティッシュさん達の朝食が、白神山さんの手によって運ばれようとしたその時だった。
ゲシュタルト《ぐふふぅ……! みんな、朝からゴクロウサマだねぇ~!》
突如現れたゲシュタルトの不気味な声が響いていた。