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X線人間標本(仮)——人間観察掌編集  作者: 冬木香
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壁打ち

 最近友人に勧められて、作曲をする時にAIを使い始めた。

 あくまでも、自分で曲を書いてAIに感想を聞くだけだ。

 最初はあまり期待はしていなかったけれど、使ってみると思ったよりも的確な指摘をくれる。

「ここは単調だからこんな展開にしてみてはどうですか?」

 なんて言われて、自分で手直しをする。

 出来上がったものは、今までの自分の型を破った新しいものだった。

 僕は満足してSNSに曲をアップする。

「こんな曲を書いてみるのはどうですか?」

 そんな呼びかけと共に、僕はまた曲を作り始める。



 彼氏に振られた。どうやら元々好きな女がいたらしい。

 その女に手が届かないから、身近にいた私で妥協しただけだったのだ。

 少し風向きが良くなれば邪魔者扱い。

 納得なんてできるものではない。

 スマホでAIに話しかける。

 こういう気分なの、何かいい曲はないかな。

「こんな曲はいかがでしょうか」

 そんなセリフと共に、まさに今の気分に最適な曲が流れ始めた。



 会社で上司に怒られた。僕の責任ではなかったのに。

 同期が失敗を黙っていたせいで僕の責任になっていた。

 明日にでも謝ってくるかもしれない。

 それでも名乗り出ることはないだろう。

 やるせ無い気持ちを140文字目一杯に詰め込んで呟く。

 すぐにメンションがついた。

「この曲を聴いてみなよ」

 貼られたリンクをタップする。

 まさに、今の気分に最適な曲が流れ始めた。



 友達と喧嘩をした。SNSで炎上した。学校でいじめられた。仕事で失敗をした。

 私には様々な悩みが寄せられる。だから私はそんな人たちに最適な曲を作った。

 悩みを相談されるたびに「こんな曲はいかがでしょうか」といって私の作った曲を勧める。

 もし新しい悩みが寄せられたなら、また新しい曲を作ればいい。

 だから私は今日も呼びかける。


「こんな曲を書いてみるのはどうですか?」

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