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X線人間標本(仮)——人間観察掌編集  作者: 冬木香
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Hey!アルプス一万尺

——アルプス一万尺

  小槍の上で

  アルペン踊りを

  さあ

  踊りましょ

  ランラララ

  ララララ

  ランラララ

  ラララ

  ランラララ

  ララララ

  ラララララ——


 見渡す限りの人が老若男女入り乱れてアルプス一万尺を踊っている。

 入れ替わり立ち替わり、同じことを繰り返していた。


 曲が終わり人が入れ替わる。

 次の相手は老婆だった。


「そろそろ同じことばかりで飽きてきませんか? 何か他の曲で踊ってみるのはどうでしょう」


 僕がそう言うと老婆は目を釣り上げて怒り出した。


「何を言っているんだい、わたしゃ86年もアルプス一万尺を踊り続けているんだよ。若いもんが簡単に別の曲に変えるなんて許しゃしないよ!」


 その老婆の言葉に反応して周囲の視線が僕に突き刺さる。

 仕方なく謝ると、曲が流れ始めたので同じ踊りを繰り返した。


 僕は疲れ果てているのに、なぜかみんな楽しそうだ。

 同じ歌を歌い、同じ踊りを繰り返す。


 一体何が楽しいのだろうか。


 曲が終わってまた人が入れ替わる。

 今度は少し年上の男性だった。


「きみ、アルプス一万尺に飽きたのかい? 気持ちはわかるけど、繰り返しているとだんだんと慣れてくるものだよ」


 そう言って男性は笑ったが、少し疲れているように見えた。

 どうしてみんな同じことを繰り返すのだろう。


 また曲が流れ出す。

 僕は同じ踊りを繰り返す。


 男性はやはり疲れているように見えて、彼を楽しませてあげたくなった。

 どうすればこの踊りが楽しくなるだろうか。


——ランラララ

  ララララ

  ランラララ

  ラララ——


 パチパチと繰り返し手をあわせる。

 そこで僕は思いついた。


——ランラララ

  ララララ

  ラララララ——


「Hey!」


 僕は大きな声で叫んで、男性にハイタッチを求めた。

 男性も「Hey!」と言って僕の手を叩いた。


 少しだけ楽しそうに見えた。


 周囲の視線が僕たちに突き刺さる。

 また怒られるのだろうか。


「なんだよそれ! 楽しそうじゃないか!」


「いいわね、次からそれを入れてみましょう!」


 怒る人はいなかった。


 さっき僕を怒った老婆も、笑顔を浮かべていた。

 これでこの退屈な踊りも少しはマシになるのだろうか。


 再び曲が流れ始める。

 僕は同じ踊りを繰り返す。


 今までよりも少しだけ楽しい気持ちになれた。

 曲が終わりに近づく。


——ランラララ

  ララララ

  ラララララ——


「「「Hey!」」」


 今まででいちばんの盛り上がりだった。

 みんなが僕を褒め称える。


 僕も嬉しい気持ちになった。


 人が入れ替わってまた曲が流れ始める。

 僕は同じ踊りを繰り返す。


 みんなで「Hey!」と言って最後に手を叩きあう。


 人が入れ替わる。

 同じ踊りを繰り返す。


 一体何が楽しいのだろう。


 もう、どれだけ繰り返したかわからない。


 曲が終わってまた人が入れ替わる。

 今度は若い女性だった。


 女性は少し疲れているように見えた。

 また曲が流れ始める。


 お互いに手を叩き合っていると、ふと女性と目が合った。

 その視線は、僕に何かを期待しているみたいだった。

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