悪魔の日記
廃屋で見つかった一冊の日記。
そこには、いじめに苦しむ少年の記録と、途中から書き込まれる“返事”が残されていました。
静かな夜に怪談として楽しんでいただけたら嬉しいです。
令和3年8月18日
いま僕の手元には、一冊の分厚い日記帳がある。
廃屋の中で拾ったものだ。
長年放置されていた廃屋の小屋だが、ついに取り壊すことが決まり、僕は見積の為に訪れている。
あたりを見回したが、漫画やゲームが残されている。ここはどうやら秘密基地になっていたようだ。
子どもが好きそうなことだ。
実際に自分もそうしていたから、気持ちはよく解る。この日記帳は、そこに置き去りにされていたもののひとつだ。
一通り見積の為の下見を終え、中のモノを物色していた。
お菓子の袋の残骸、文房具、小銭等々。被っているホコリから察するに、10年程経過しているか。
机の引き出しを開けると、日記帳が入っていた。興味本位でその日記帳を開くと、日記の始まりは、持ち主が小学五年生の春からのものだった。
どうやら、この日記帳の持ち主はいじめられていたようだ。
”今日はKからバケツいっぱいに入った泥水をかけられた。その後、下痢便を大量に漏らしたと嘘を大声で叫ばれ、大騒ぎされた。”
”あの一件以来、ウンコマンというあだ名で呼ばれるようになった。最低だ。”
”女子の前で丸裸にされた。”
”先生に相談したら、お前が悪いとひたすら言われた。”
”クラス全員から無視されるようになった”
”どうして僕はいじめられるんだろう。先生すらいじめのグルだと思う。いや、もしかしたらいじめの主犯は先生なのではないだろうか”
”お母さんがまた学校にいって先生に話をしたけど、ダメだった。いじめが終わらない。”
読み進めているうちに、彼の壮絶な苦労が文面から伝わってきた。
これだけやられたら、さぞかし怨みは強いだろう。
こんな状況から、一体どうやって立ち直ったんだ?
中学生のところまで読み進めると、次第におかしな記号が出てくるようになる。
その中のひとつに”卍”という記号がある。
ナチス・ドイツのハーケンクロイツか??この記号が割と出てくるようになる。
日記のいじめの内容も過激になっていく。
”殴られ、蹴られ、お金を巻き上げられる。もう事故にあったと思うしかない。”
”T先輩はシンナーをやっているようだ。殴り方が普通じゃない。早く卒業してくれ。もう会わないようにしたい。卍”
”今日はT先輩からバットで先生を殴れと命令された。僕にはどうしてもできず、罰としてバットで僕が殴られた。卍”
毎日毎日凄惨ないじめに合っていることが分かる。学校を休まないと自分が潰れてしまうだろう。逆にこの状況でよく学校に登校し続ける事が出来るな。
”学校に行きたくない。でも昼間時間を潰す方法がない。”
・・・
”山の中に誰も使っていない小屋を見つけた。ここを秘密基地にして時々時間を潰そう。”
なるほど、それでここに基地を作ったわけか。
”プールに突き落とされた。上がろうとするとモップで押さえつけられた。死ぬかと思った。とっても寒い。どうして僕がこんな目に。T先輩死んでほしい死んでほしい死んでほしい卍”
”自腹で竹刀を買いに行かされた。その後その竹刀でめちゃくちゃ叩かれた。痛い痛い痛い。誰でもいいから助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けてくれるならなんでもするから卍”
日記の内容が悲惨すぎて眉をしかめる。
学校に行っちゃダメなレベルを遥かに超えてる。
親が厳しいのか?親に心配させたくないのか?いやいや、自分のことが第一だろう。
《こんにちは。あなたのことを助けてあげる。その代わり、なんでもするんだよね?》
”あなたは誰??なにもの??”
《誰でもいいよ。ずっとつらかったね。もう大丈夫。殺したい奴がいるんでしょ?協力するよ。》
なんだ??
いきなり別の奴が日記に書き込み出したぞ??
筆跡が違うので、恐らく別人だろう。
”でも、どうやって殺せばいいのか分からない。殺せても絶対見つかるし捕まる。家族に迷惑がかかる。”
《じゃあ、みつからない方法で殺せばいいよ。完全犯罪にするから問題ない。T先輩を殺せばいいんでしょ?私の言う通りできれば私が殺してあげるよ。死体もその後、始末してあげる。その代わり、私とトモダチになって。》
”あなたは誰?そんな事どうやってするの?”
《私はこの廃屋に住み着いてる悪魔だよ。やるの?やらないの?》
”やります。お願いします。トモダチにもなります。”
《じゃあ、あなたの部屋の机の一番上の引き出しの中に魔法で小瓶を出すから確認して。T先輩を自分の部屋に呼んで。小瓶の中の液体を飲み物に入れてT先輩に出して。飲んだら眠るから、お風呂場の空の浴槽の中にT先輩を入れて蓋を閉めて。その後、夕方までこの小屋で待ってて。》
物騒な会話が続く。
コイツは一体何者だ??
この廃屋に住み着いている悪魔?
では今もここにいるのか?
背筋に寒い物が走る。この日記を開いたのはマズかったか?
しかし、この後の事が気になって仕方がない。
もう少し読み進めることにした。
”言う通りにしたよ。小瓶の中の液体を入れた飲み物を飲ませたよ。T先輩をお風呂の浴槽に入れたけど、この後どうすればいいの?”
《昨日はお疲れ様。T先輩を消しといたよ。これでT先輩はもうこの世界にいなくなったよ。》
”ありがとう。T先輩はどうなったの?どこに行ったの?”
《悪魔の世界だよ。二度とこの世界には戻ってこれない。もう会うこともないよ。良かったね。》
日記はここで終わっている。
何だと???
意味が分からない。
T先輩は魔界にいったのか?
いや、そんなわけがない。まさか殺したのか?
日記にはしっかりと「殺してあげる」と書いてある。悪寒が走る。
この悪魔、まだこの廃屋にいるのか?
ーその後、廃屋の解体を進めていると、床下から人骨が出てきた。
すぐに警察を呼んで、捜査が始まった。
捜査の結果、遺体は10年前に行方不明になった中学3年生のDNAと一致した。
ここの地域出身の同僚が、当時、行方不明になった中学生の事件で大騒ぎしていたと言っていた。
”T先輩”が行方不明になった事件だったのか。
その同僚の話では、そのT先輩がいじめていた後輩の男の子は一家まるごと行方が分からなくなっているらしい。
悪魔の世界に連れて行ったと書いていたが、それは嘘だ。
だって死体が出てきた。
T先輩は殺されたのだろう。
そして、悪魔の世界に連れて行かれたのはもう一人の方だろう。
この日記の持ち主は、未だに見つかっていない。
END
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
この話は怪談として読める一方で、
超常現象を使わずに読むことができるように作っています。
もし気になる箇所があれば、
ぜひもう一度、日記のやり取りや言葉の選び方を追ってみてください。
悪魔がいたのかどうかは、読者のご判断にお任せします。




