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箱庭?のロンド ―マリサはもふ犬とのしあわせスローライフを守るべく頑張ります―  作者: 彩結満
第1章

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52 想い溢れて(ライアン視点)~七日目

 

 今夜―と言っても日付は変わっているが、もう眠れそうになかった。

 身体が軋む様に痛かった。

 疲労に加え、瘴気の影響だろうか、魔物の咆哮のような耳鳴りと共にガツンと殴られるような酷い頭痛が襲い、ライアンは顔を顰めた。

 作戦は、一歩ずつではあるが概ね上手くいっている、そう思っていたが甘かったようだ。

 近隣国にまで手を伸ばし調べさせているが、まだポイズンバッタの大量発生の原因は掴めていない。 


 状況は刻一刻と変化をしていた。

 二日前のマリサの光魔法で、湖大の大きな瘴気溜まりは池サイズに小さくなり、余裕をもって討伐ができると安堵した。

 ポイズンバッタの殲滅後の処理は、マリサの光魔法によりほとんどは毒が消滅した。 

 とは言え、広域の畑で大量発生した場所に、少々毒が残っていた。その場所を目標に定め、公爵領魔術部隊と騎士部隊がいくつか分隊を組み、火魔法で焼却及び浄化、僅かに残った毒を帯びた魔物を見つけ次第討伐という一連の作業を積極的に進めたため、毒の濃度は薄れた。

 おかげで、厄介だった毒に侵され狂暴化した魔物は少なくなった。


 だが、一向に魔物が減らないのだ。

 そのため周辺を調べたところ、翌日になり、新たな瘴気溜まりが数キロ先に見つかったのだ。

 そのものは大きくはない、もしかするとマリサの光魔法で小さくなったのかもしれない。だが二つの瘴気溜まりに挟まれた上、どちらからも魔物が発生し続けるため、討伐に明け暮れており、発生源の瘴気溜まりを魔法で消滅させることは不可能だった。

 また、瘴気溜まりの影響で瘴気の濃度がじわじわと上がってきたため、予断を許さない状態だった。

 切れ間なく出現する魔物と、そして領民の救出と治療、避難所の設営、物資の供給に加えそれらの運営に至るまで必死に働いているため、皆満身創痍だった。


 汚染された外気を吸うため、皆、息苦しそうだ。ライアン自身も身体が重く感じていたのだ。

 そのため、残った兵達の疲労は目に見えて色濃くなっていた。従魔達もそうだった。グレイスでさえ動きに精彩を欠くほどだ、他の従魔たちは限界に近い。苦痛による悲鳴、怯える姿、虚ろな瞳に、幾度、耐えてくれとライアンは祈ったことかしれない。


 夜に活動する魔物もいるため三交代での任務に就き、数時間後の明け方にはまた戦場に立つ。そのため、気休めにしかならないがテント内で身体を横たえてはいた。

 比較的瘴気の薄い丘が、ライアンが指揮を執る公爵家の全ての部隊と自警団、そして公爵領にて募った冒険者、他に、複数の部隊を組む王国軍の一部の野営地となっているが、それでも()えた様な臭いがテントの中にまで入り込んでいた。


 持参した鎮痛剤がまるで効かなかった。

 ポーションならあるいはと、これも持参したものを一口飲んでみたがだめで、かすり傷が消えたのみ。残りはグレイスの身体に振りかけた。

 痛みが波のように襲い続けていた。藁をもすがる思いで、テントの中で頭痛を宥めるべく呼吸法を実行することにした。

 微かな瘴気を吸い込むため、効くかどうかはさておき、ゆっくりと口から息を吐き切り、またゆっくりと鼻から吸い込む。なるべく同じリズムで呼吸をすることにより、リラックスを促し頭痛の緩和を図るのだ。

 耳を澄ませば周囲のテントからは寝息の一つも聞こえなかった。

 皆も、眠れない夜を過ごしているのかもしれない。

 苦く笑みが溢れれば、それに呼応するように、外で寝そべる相棒のグレイスが、ため息のように鼻を鳴らした。

 もう、どこがどう痛むのかわからないほど、打ち身や傷は数知れずあるが、治療魔法を使おうとした部下を手で制し、持参のポーションがまだある、温存せよと突っぱねてきた。

 傷を負う度に、いちいち仲間の貴重な魔力を使うわけにはいかない。重傷を負った兵士や怪我をした領民の治療に使うべきだし、また、この南の領地に巣食う魔物討伐と復興を遅らせるわけにはいかない。

 助けに赴いた我々が足を引っ張ることなど言語道断だ。

 部下達もそれを承知で、皆痩せ我慢をしていた。

 部下や従魔達に苦労を強いるのは、流石に堪えるが、己が、弱音を吐くわけには行かないと、ライアンは呼吸法を続ける。

 眠れなくても、僅かでも疲労が緩和できたらと息をついた瞬間だった。

 テントの外が銀砂を塗したように輝いたのだ。


「……うおお……」

「……ブルルルルッ……」

「うわぁあっ」

「ウォオーン!」

「ひゃーっ」


 周囲から慌てふためくような人及び従魔の声が次々とあがって行く。

 南の領地に再び、救いの女神が微笑んだのだった。

 テントの中からでも感じる、柔らかく、優しく、労わるようなその輝きに、ライアンは破顔した。


「……ふっ……」


 ふわふわの綿に全身包み込まれたような心地良さに、凝り固まった心まで一瞬で解けてしまい、酷い頭痛など跡形もなく消えてしまっていた。

 暫く余韻に浸りつつ、マリサのことを思い浮かべ目頭が熱くなりかけた時、テントに駆け寄る音がしたため、顔を振って外へ出た。


「ご就寝のところ失礼します。ライアン様、今のは、マリサ様ですね」


 感激を顔に張り付けた壮年の副官が膝を付く。


「ああ、深夜だというのに、派手にやってくれたものだな」


 ライアンは笑みを湛えて頷いた。

 テントの脇、布で屋根を設え藁を敷いた簡易的な厩では、グレイスが既に気持ちよさげに寝息を立てていた。


「部下たちからの報告を纏めますと、ここ一帯の大気の浄化により、瘴気が一切感じられなくなったとのことです」

「もしかすると、瘴気溜まりがごく小さくなったか消滅の可能性もあるな」

「はっ、現在、二つの瘴気溜まり及び、付近へ偵察に向かわせております。確認が取れ次第ご報告いたします」

「小さいものが残っていた場合、サイズによっては魔術師数名を派遣して消滅させる」

「はっ」

「魔術師、騎士の選出もしておいてくれ」

「承知しました」

「人選は起きてからでいい。明け方まで僅かでも休んでくれ」

「はっ! いやあ、身体が忽ち軽くなり、心まで飛んでいきそうなほどですよ。冗談はさておき、従魔たちまで、すっかり回復しております」


 胸に手を当てつつ、にかっと笑うと、副官は弾むように戻って行った。後姿を見送っていると、ふいに睡魔が襲ってきた。


「……ふぁあ……、ありがたいことに、ほっとしたら眠くなってきたようだ。少し横になるとするか」


 色めき立っていた部下達も従魔達も、ようやく眠りについたらしい。

 テントの中に倒れこむようにして横になり、一秒もせぬ内にライアンは眠りにつくのだった。


 南の領地が息を吹き返し、領民が、騎士、兵士達が女神の御使いと崇めるマリサに想いを馳せながら、感謝の祈りを口にし、戦い、また眠りにつく頃、当のマリサは就寝中であった。

 そう、ライアン及び、南の領地の無事を祈り、また憂う想いが溢れたのだろう。眠りながらの祈りとなり、光魔法を大放出してしまったのだった。


更新が空いてしまいすみません。

仕事でこちらに取り組むことが出来ずにいました。


僅かでも楽しんでいただけたら幸いです。

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