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番外編 初恋 (緑川泰人 編)

「最近引きこもり過ぎじゃね?」


 そう声を掛けたのは自分の姉、栞に対してだ。栞は冬休みをいい事に、正月を過ぎてからは家の中でゴロゴロしっぱなしだった。

 今日もリビングのソファで寝っころがりながら本を読んでいる。何かの小説のようだ。そういえば、以前はそれ程本を読まなかった気がするが、最近はその量が増えている。買っている訳ではないようだから、友達にでも借りているのだろう。

 栞はこちらも見向きもしないで、本の文字を追いながらだらしない声を上げた。


「だってぇ、寒いし~。」

「うわっ、不健康~。あっという間に太るぞ。」

「うるさいなぁ。」

「彼氏にフラれてもしらねぇぞ。」

「・・・・・。」


 この一言が効いたのか、栞が体を起してこちらを見る。冷蔵庫から牛乳をグラスに注いでいた俺は、次の一言に思わずそれを溢しそうになった。


「ねぇ、泰人は好きな子とかいないの?」

「なっ、なんだよ、急に。うち男子校だぞ!いるわけねぇじゃん!!」

「男子校だって、登校中に同じ電車に乗る子とかさぁ。」

「俺チャリ通だし。」

「あ、そっか。」


 俺はグラス片手に移動し、栞の隣に座ってテレビのリモコンのスイッチを入れた。午後の2時では見たい番組なんてやっていない。仕方なく、栞の会話に付き合ってやる。


「・・急に何なワケ?」

「べっつにぃ~。」

「うわっ、ぶっさいく!」

「超失礼!」


 栞は寝転がっていたソッファのクッションを俺に投げつけてきた。


「テメッ、やったな!!」


 同じく俺も投げ返す。久しぶりにガキのような攻防を続けた後、ジャンケンして負けた栞は俺の命令で近所の商店街に鯛焼きを買いに行く羽目になった。

 ざまぁみろ。





 * * *


「はぁ?春が女と?マジで!?ありえねぇ!!」

「だってホントだもん。」


 鯛焼きを買うという任務を無事果たした栞は、それを再度トースターで温めながら、先程見たという春の事を報告してきた。春、というのは本名東川春彦といって、俺の中学のダチだ。栞も一度春に会った事があってそれを覚えていたらしい。その春が女と一緒に買い物をしていたのを見かけたのだという。

 有り得ない、と自分で否定したものの気になるので詳しく訊いてみることにする。


「・・・相手、どんなだった?」

「えーとね、黒髪で、髪が長くて綺麗な人だったよ。私と同じか、ちょっと年上ぐらいの大人っぽい人だったけど。」


 それを聴いて、俺はほっと溜息をついた。思い当たる人物がいたからだ。


「なんだ。それ春の姉ちゃんだよ。」

「へー。春君お姉さんがいるんだ。」

「そ。すげぇ美人だったろ。春の姉ちゃん、うちの学校でも有名だもん。」


 春の姉ちゃんはウチの中学の近くにある月島高校に通っている高校二年生だ。昔から美人だと評判で、俺も春の家に遊びに行った時に会った事がある。栞とはイッコ違いだとは思えない程大人っぽく、モデルにでもなれそうな程スタイルが良い。知り合いの先輩達も春の姉ちゃんを見る為に、わざわざ家まで行った事があるって話だ。


「・・・・。」


 すると、栞が微妙な顔をしてこちらを見ている。他所の姉ちゃんを褒めた事が気にいらなかったのだろうか。


「何?」

「そういえば泰人ってさぁ、昔から私の事お姉ちゃんって呼ばないよね。」

「だから、何?」

「いや、何でだろうなぁ、と思って。」

「・・・・・。」


 一瞬思考が止まる。だが、咳払いして俺は栞から目線を逸らした。


「いーじゃん。大して歳も離れてないんだし。」

「そう?三つも離れてるじゃん。」

「今更変えんのもおかしいだろ?」

「まぁ、そうだけどさぁ。」


 言いながら、栞は温まった鯛焼きを取り出して俺に一つ渡す。その顔には納得がいかない、と書いてある。

 あぁ、ややこしい事になった。


「智人はお姉ちゃんって呼んでくれるのに。」

「あいつまだ小学生じゃん。」

「泰人は小学生の時から栞だったじゃん。」

「いつまで言ってんだよ。くだらねぇ。」


 いい加減にこの話題を終わらせたくて、俺は冷たく言い放つと鯛焼きに齧り付いた。それでも栞は俺の顔を覗いてくる。


「ねぇ。」

「何?」

「彼女できたら教えてね。」

「はぁ?ぜってぇヤダ。」


 思わず鯛焼きを落としそうになってしまった。急に何だってんだ。


「何でよ。」

「な、なんで一々報告しなきゃなんねぇんだよ。」

「お祝いしてあげるのに。」

「結構。」


 栞は口を尖らせる。

 言うわけねぇだろ。兄弟なんかに。増してや栞は自分の初恋の相手なんだから。好きだったから、幼い頃から姉ちゃんなんて呼べなかった。呼びたくなかったのだ。


(鈍い奴・・。)


 まぁ、気づかれても困るけれどな。こんな時、男子校に行ったのは間違いだったのではと思う。


(あー、彼女欲しい・・・・。)


 いつの間にか初恋の相手は彼氏を作っていたっていうのに。自分ときたら・・・。


(まぁ、慶中好きだからいんだけどさぁ・・。)


 親友の顔が浮かぶ。


(あいつも理想高いからなぁ。ま、あんな綺麗な姉ちゃんが側にいたんじゃ仕方ねぇか。)


 あくまで自分の予想だが、春の初恋の相手も姉だったのではないだろうか。

 食べかけの鯛焼きをマジマジと見ながら、俺は真剣に祈った。


(春より先に彼女が出来ますように・・・。)






  初恋(緑川泰人編) END

 『カラーレンジャー』を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


 当初は一話完結のつもりが話が長くなり、どんどん登場人物も増えていき、橘自身が一番驚いております。

 中には今後他のお話に登場するキャラクターもおりますので、楽しみにしていただければ幸いです。


 各キャラクターおりますが、皆様のお気に入りは誰だったでしょうか?

 橘のお気に入りは桃井でした。あまり贔屓しないようにしたつもりでしたが・・・。


 『カラーレンジャー』は、あるバンドの曲からインスピレーションを得て出来たお話です。それがここまで形になったのも、皆様のおかげだと実感しております。


 誠にありがとうございました。




   2010/1/22  橘


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