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ベルがスキルによって書いた小説、『手癖の悪い猫』。
メアリーに手渡したそれは、その他の『太陽のキャノウプス』メンバーの手によって半分が燃やされてしまった。
″小説家″のスキルは現実にある筋書きを書き起こすもの。
それを燃やしたりなどすれば、現実の筋書きそのものもねじ曲がってしまう。
本当ならシィナを助け出すのは、領主の息子の役目だったはず。しかしベルが酒場で見かけた彼は、実にクズな男であった。
本当なら、その親――領主の方がクズな人間であったはずなのだ。
件の冒険者パーティと裏でつながっており、地下施設にスラム街の子らを捕らえ、各地へ売り飛ばすあくどい商売を黙認していた――それが、ベルが知っている領主だ。
だが、どうやらそちらの方も、書き変わってしまっていたらしい。
「封鎖されていたはずの地下監獄で、そのような悪行がなされていたとは……。それも、わが愚息が手引きしていたとは。まったく嘆かわしいことだ」
領主は、重い溜め息を吐きながらそう言った。
「冒険者の男どもは逮捕した。もちろん、息子もだ。逃げ出してきた子供たちは保護した。ひとまずは安心してくれ。――君のおかげだ、ありがとう」
今回の件の立役者だという旅人・ベルに対し、領主はそう言ってまた深く頭を下げた。
息子がクズとなっていた半面、親である領主は、実直な人間となっていた。
だったら、始めから警備隊に通報して動いてもらえば解決していたかもしれない。
ベルがわざわざ単身で地下に突入する必要はなかった。
……だがまあ、結果が同じなら良いだろう。
残念ながら、すでに売り飛ばされてしまった子供も少なからずいるようだが……冒険者どもから顧客リストや帳簿を押収したので、それをもとに、なんとか助け出して見せるから安心してくれと、領主は言ってくれた。
「よかった。みんな助かるんだ」
領主の言葉を聞いて、そう言ってほっと胸を投げおろす、シィナ。
「それで、今回の活躍にあたって、君に謝礼金を支払おうと思うのだが」
領主が、そう切り出してきた。
「謝礼金?」
「そう」
そう言って領主は秘書らしい女性に指示し、金を持ってこさせようとするが……ベルは、それを引き留めた。
「なんだね? これは感謝の気持ちだ。ぜひ受け取ってほしいのだが……」
「いや、というか……むしろ、俺たちは、これをあなたに渡しに来たんだ」
そう言って、ベルが取り出したのは、――麻袋。さきほど宿屋の主人から受け取ったものだ。中には、大量の紙幣が入っている。
さらに、シィナも懐から金をとり出す。
ここへ来る途中、スラム街にある自身のねぐらへ寄って、持ってきたものだ。
彼女が、これまで溜めてきた金である(スリによって稼いできた金であって、健全な金とは言えないだろうが、この際それは問うまい)。
「どういうことだ? 私に金を? むしろこちらが謝礼金を渡したいという立場なのに……」
戸惑う領主に対し、すかさずシィナが口を開く。
「じゃあさ、領主サン。このお金と、その謝礼金の分も含めてにゃ! それで――この街に、おっきな孤児院を建ててほしいんにゃ!」
「な、なに?」
「にゃー、だって、保護した子供たち、これからどうするかは難しいトコでしょ? この街には孤児院がにゃいんだから……このお金でサ! えへへ、これだけお金があれば、それはもう豪勢な孤児院になるんじゃにゃい?」
そう言って、にやりと嬉しそうに笑う少女。
それは、彼女の、かねてからの夢であった。
スラム街で暮らす子供たち。苦しんでいる子らを、なんとか救ってあげたかった。
これだけの金があれば十分だ。
これこそ、シィナがベルに提案した、宿屋の主人から渡された大金の、『良い使い方』。
これならばベルも納得だ。これで、身寄りのない子供たちが救われる。
――当然、シィナも。
これだけの金なら豪華な孤児院になる……嬉しそうにそう言うのだから、もちろん、自分もそこに住まうことを想定しての笑顔だろう。
この猫の少女も幸せになるなら、やはり何より『良い使い方』だ、と思えるのだ。
あまり良い環境とは言えない中で育ってきたこの少女が、これからはまっとうな生活を送れるのだ……そう思い、ベルはほっと安心した。




