43 前触れ
林から街に戻り ボク達の拠点へ帰って来た。
まだ 何もないガランとした部屋を見て、ラグが誰ともなしに言う。
「窓の横に、10人くらい座れる大きい机が欲しいな」
「じゃ~ボクが机を買うよ」「いいの?皆で出し合ったら」
皆は、知らないが 大蛇の報奨金やこれから入る不労所得など、この中で一番お金に余裕があるのは、ボクなのだ。
「盗賊討伐の時 ボクが一番お金を受け取ったからね。机は、ボクが買うよ。他にも椅子とか棚とか色々 たくさんいるものあるだろ?それは、皆で出し合って買おうよ」
「俺 ハンモックをここに持ってこようっと」
「おっ!それいいな、俺もそうしよう」「ぼくもそうする」
「皆で机を見に行ってから 帰りに家に寄って持ってくればいいよ」
ボクは、ディメーションに置いてあった革袋から大銀貨3枚持って 皆とトーマス商会に向かった。
売り場に入って色々見回り その中で一番ボクの目を引いたのは、セブラウッドの一枚板で出来たテーブルだった。
白木に自然の年輪が刻まれている 見事な出来栄えだ。
残念ながらそれは、長さ1.6m幅60㎝厚さ5㎝で4~6人掛けだった。
ミアがいたのでこれの10人掛けが欲しいと伝えると、それなら特注になるので大銀貨10枚が必要よと言われた。
大幅な予算オーバーになるが、どうしてもそれが気に入ったので買う事にした。
「ありがとうございます。納品は14日後になります」
素晴らしい営業スマイルで、ニッコリ笑うミア。
ボクは、家族割引無いのか…と 心の中で呟いていた。
お金は、後で持って来るから発注しといてねと 念を押して店を出る。
それからボク達は、お気に入りの物を溜まり場に運ぶため一旦各自 自宅に帰った。
自宅の部屋に戻りディメーションを開ける。
革袋から多めにお金を取り出し、もう一度店に戻ってミアに代金を払った。
残りの金で、小さいシャー達とボクが寛げれる大きさのソファーベットと、ブランケットやマットなど色々買い足す。
ディメーションは、ここじゃ使えないから 小さい幌付きの荷車も買うか。
荷車に買い込んだものを積んで、シャーに引いてもらい溜まり場に着くと、先に戻っていたラグ達が呆れた顔をしてこっちを見ていた。
「ノア ここに住むつもりか?」「そんなつもりは無いよ」
「裏から荷車を庭に運び入れれば 部屋に荷物を入れるのも楽だよ」
スミスに言われ裏に回ると手つかずの庭は、雑草がぼうぼうと生えて荒れていた。
その様子を見たドライが庭の事は、私達に任せてと嬉しそうに話し ピクシー達を呼び寄せている。
高さ1mの塀で隣と隔てられていたので、自由にしても問題ないだろう。
ソファーを置いて、その下にロックウルフ用の柔らかいマットを2枚ひいた。
それを見たラグ達が、ボクの荷車を借りて慌ててマットを買いに走ったのは、言う迄も無い。
皆が荷物を運び入れ落ち着くと、部屋に間延びした空気が漂った。
「なぁ~今夜ここに泊まりたいな」「あっ、俺もそう思っていた」
「本当?ぼくもだよ」「うん。ボクも」
ボク達は、親の許可をもらう為もう一度家に帰る。
親から許可をもらいボクが溜まり場に戻ったが、まだ誰も帰っていない。
ふと、岩場が気になったので呼び掛けてみる事にした。
((アッシュ シルバー岩場の様子は、どう?))
((問題ありません。さっきもアームモンチを数匹見かけましたが、影から襲撃してやりました。フフフフフ))
((え…こっちから喧嘩をふっかけたの?ん~~~まっいいか、危険を感じた時は、直ぐに連絡をいれるんだよ))
((はい。心配しなくてもきっと大丈夫ですよ))
((ラグ達が戻って来た、寝る前にまた話をしようね))
ラグ達に今聞いた話をすると、
「お~やるな!」「ぼくも家からここに来る時 ロキシーから聞いたよ」
「父ちゃん まだ家に帰って来てなかったな、ロッキーが見たと言ったけど」
「夕飯前にギルドへ話を聞きに行こう」
その前にもう一度荷車を貸して欲しいと言うので、何に使うのか聞いたら ソファーが欲しくなったのでもう一度買いに行くと言って3人は、出て行った。
一人残されたボクは、他にやる事も無いので シャー達に庭の監視を頼み、ディメーションを開け砂場造りの続きをする事に あと少しで目標の3m達成だ。
((ノア 皆が帰ってきました))
庭にいるシャーから連絡が入ったので、作業を止めて外に出た。
いつの間にか ワン達5匹も外にいて庭の砂を堪能している。
「お前達も気に入ったのか?良かったな」
声を掛けながら庭に出てみると、唖然とした。
帰って来たラグ達も驚いている。
ドライ達が緑魔法を駆使し、庭の土を柔らかく掘り起こし雑草も一掃され さっきとは、見違える様になっていた。
その上、横に枝を大きく広げた邪魔にならない程度の高さの樫の木まで 一本そこにあった。
これは、噂の種になるな(ハァ~)
出来てしまったものは、しょうがない 誰かに聞かれたらどう説明するか皆で相談して、しらばっくれる事に決める。
夕暮れ時になり、話を聞くためギルドへ顔を出しに行く。
庭が気に入ったのか ピクシー達が留守番すると言ったので、シャーだけ連れて行き 用心の為他のウルフに留守番して貰った。
ギルドのカウンターにいたアリスにアームモンチの事を尋ねたら、今さっきドアロスが帰って来たとコッソリ教えてくれた。
それなら ドアロスから状況を聞こうと言う事になり、外の屋台から食料を買い込みギルドで食べながら待つ事となる。
周りの冒険者たちも食事をしたり今日の成果を語り合ったり、ギルドの中はざわめき賑わっていた。
ボク達の食事が終りかける頃 やっとドアロスが奥から出て来た。
「父ちゃんお疲れ~」「おう ラグロスか、何でここにいる?」
「アームモンチの事 父ちゃんから聞こうと思ったからだよ」
「家でも良くないか?」「俺 今日は、家に帰らないもん」
「へ?何処に泊まるんだ」「ふふふふふ。クレッセントのアジトだよ」
「クレッセント?アジトだと、何だそりゃ」
そして ボク達の話をしながらドアロスを溜まり場へ招待すると、部屋に一歩入ったドアロスは、こりゃ色々買いこんだもんだと驚いていた。
思い思いに座り ドアロスの話を聞く。
アームモンチは、3匹の班を組み 一日に何回も岩場の様子を探りに来ていた。
ロックウルフが話していた通りだ。
そこで、何組か見送った後 何処に巣があるのか調べるため後を付けようとした。
「そしたらノアんとこの2匹のウルフが3匹をのしちまって ロックウルフの餌になっちまったから、こっちはお手上げだぜ」
その後も他のアームモンチが探りに来ないか待ったが、その3匹が戻ってこないせいか現れなかったので、今日のところは諦めて帰って来たと話した。
恐らく今回の事で警戒するだろうと言って腕組みをして唸っている。
なので アームモンチを見かけても、危害を被らない限り無視するようウルフ達に伝えてくれ そう言い残してドアロスは、帰って行った。
部屋に残ったボク達は、明日の事を話し合った後 自分の好きなように過ごす。
ボクは、当然砂場造りだ。
「力仕事なら手伝えるが、これは無理だな」
ラグが残念そうに作業を眺めている。
気持ちは、有り難いが こればかりは無理だ。
暫く作業を続けたが、途中でロックウルフに名付けをする事を思い出した。
魔力を温存しなきゃな 今日は、ここまでにするか。
ボクが作業を終えた所を見計らって、トリルが話しかけて来た。
「なぁ~ノア サンド達の手綱や鞍の状態を真似していいか?」
「うん、いいけど」
ロックウルフは、小さくならないので脱着の必要が無いから 革製品で間に合わせる事にしたらしい。
この世界は、盲導犬がいないので サンドが形態している型は、とても珍しい。
明日もまた 午前中トーマス商会へ行く事になりそうだ。
そろそろ寝ようと思ったが、その前にシャーに後の事 頼んでおかないと。
「シャー お願いがあるんだけど」「なんですか?ノア」
「寝る前にロックウルフ2匹に名前を付けるんだけど、そしたら魔力不足でボクが寝落ちるかもしれないだろ?もし 今夜シルバーやアッシュから助けを求められたら、ボクが何もできなくてもシャーの判断に任せてもいいかな」
「ノア ご心配に及びません。我にお任せ下さい」
「ありがとう。シャー」
使役する他のウルフ達にもシャーに従うよう指示をしてから、寝る前にロックウルフの名付けをした。
落ちるほど魔力の消耗は、無かったが 体が重い。
砂場の作業もしていたし仕方ないな、そのまま眠る事にした。
―side シャー―
ノアに頼られるのは、誉望だ こんなに喜ばしい事は、無い。
今夜は、月明かりに照らされ見通しもいい 何事も無ければ良いが、そう思いながら 我も眠りにつく。
昼間 3匹を排除した報復なのか、30匹のアームモンチに囲まれていると、眠っていた我にアッシュから声が届いた。
ノアを見ると、魔力を消耗し過ぎたのか深く眠っている。
ブルーとレッド そして新たに仲間になったウルフ達を見た。
異変が起きた事に気付いているようだ。
我等は、静かに部屋を出る 表に出たところでツヴァイ達に伝えた。
「我等は、影を伝い先に行く。ツヴァイ達は、急いで岩場を目指してくれ」
返事は、聞くまでも無い そう言い捨て すぐさま影に飛び込んだ。
岩場に着くと、既に小競り合いが始まっていた。
我等が到着したのを目撃したアームモンチは、たった3匹増えた所で焼け石に水と言わんばかりの仕草で馬鹿にする。
我等は、直ぐに影に潜み意表を突き攻撃をし また影に潜む。
喉笛に狙い食らいつき切り裂く、青い血飛沫が上がり首が捥げて宙を舞う。
アームモンチも反射的に鋭い足の爪で反撃し、不覚にも肩に突き刺さり深い傷を負った。
遅れて来たツヴァイ達も、そのまま乱戦に飛び込み死闘を繰り広げる。
数で圧倒しようとしたつもりの様だが、残念だったな我達には、通用しない。
アームモンチごときに後れを取る筈がない。
ギャーギャーと喚き威嚇するアームモンチに対しロックウルフ達は、腕や足を狙い容赦なく噛み砕き 奴等の絶叫がこだまする。
そして我等は、影から首を狙い討つ 奴等は、声を上げる間もなく散る。
どのくらい時間が経っただろうか、半数以上の仲間が死にゆく現実を目の当たりにしたアームモンチが、逃げ惑う事となった。
だが、逃しはしない 影に飛び込み足元から飛び出て狩る。
戦意消失した奴等を狩るのは、少し忍びないが致し方あるまい 敵なのだ。
全てが終わり後に残ったのは、刈り取った累々とした躯だった。
腹が減ったのであろう、新鮮な躯を嬉々としたロックウルフが食していた。
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