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番外編 アラン3

アーチの前につき、シプリー嬢の前に対峙する。

心臓がバクバク言っている。

こんなに緊張するものなのか。


「アラン様…?」


不思議そうにシプリー嬢が首を傾げた瞬間、風が強く吹き、シプリー嬢の帽子があっという間に風に舞い上がった。

俺は咄嗟に薔薇のアーチの上に跳び乗り、帽子を追いかけてアーチの上を全速力で走り、更に跳び上がって帽子を掴み取る。

そのまま地面に転がるように着地し、シプリー嬢に帽子を差し出した。


「危ない。無くなる所だった。どうぞこちらを」

「あ、ありがとうございます…」


シプリー嬢はびっくりしながらも帽子を受け取り、再度頭に被った。

また飛ばされないように手で押さえている。

俺はよしよしと満足し、気を取り直して再度…と思い、ふと薔薇のアーチに目をやると。


先程俺が飛び乗った衝撃で、見事に薔薇の花が散り、アーチもひしゃげてしまっていた。



俺はあまりの光景に言葉を失った。

な、なんてことだ。

自らこの練りに練ったプロポーズの場を台無しにしてしまった。

ムードが台無しだ。

なんだこのゾンビの襲撃にあった後のような光景は。




「あ、あははははは!」


俺が呆然としていると、前から笑い声が聞こえた。

見るとシプリー嬢がお腹を抱えて笑っている。


「も、申し訳ありません思わず…でも…あはは!さすがアラン様ですわ!あの状態でまさか帽子を掴み取ってしまうなんて!かなり高くまで舞い上げられてしまったのに!なんというかアラン様らしすぎておかしくて…!」

「は、はははは。あはは!」


シプリー嬢が笑っている。

本当におかしそうに、目から涙まで浮かべて。

何だか、それを見ていたらつられて笑ってしまった。

いいな。

こうやって、いつまでも2人で笑い合いたい。


そう思うと、俺は自然に膝をつき、シプリー嬢に手を差し出していた。



「シプリー嬢。あなたの優しさ、美しさ、聡明さ、その全てに心を奪われました。

その笑顔を私がずっと側で見守りたい。どうか、婚約者になっては頂けませんか」


シプリー嬢は一瞬、何を言われたのか分からないという風に固まり、それからボボボッと音が出そうなほど顔を真っ赤にした。


「え、あの、それは、家の方は…」

「既に我が侯爵家から、シプリー子爵家に婚約の打診はしているんだ。けれど、俺はシプリー嬢の気持ちを優先したい。だから、もちろん断ってもらっても構わない。

だが、俺…いや、私はあなたのことを愛している。

もしも許されるなら、この手を取ってくれはしないだろうか」



シプリー嬢は、涙を浮かべて震えているように見える。

迷惑だっただろうか。

気味悪がられただろうか。

不安が心を塗りつぶしていく。

シプリー嬢が声を出すまでの間は、永遠の時のようにも思えた。



俺は真っ直ぐにシプリー嬢の青い瞳を見つめていた。

そして、シプリー嬢はゆっくりと俺の手を取り、言った。


「本当に…私で良いのであれば、喜んで」


それを聞いた瞬間、俺は喜びが体中を駆け巡るのを感じた。

そして立ち上がると同時にシプリー嬢の手を引いて、彼女の腰のあたりに腕を回して、抱き上げた。


「本当か!本当にいいんだな!?愛してる、シプリー嬢!」

「私も…お慕いしていました、アラン様。どうかセシリアとお呼び下さい」

「セシリア!セシリアセシリア!何度でも言うぞ!」


俺は嬉しくて、俺より高い所にあるセシリアの顔を見上げながら、何度も言った。

セシリアも顔を真っ赤にさせながら、涙を浮かべて笑っている。


すると、それまで少し離れたところで見ていたリナリア嬢が駆け寄ってきた。


「アラン様とセシリアが婚約だなんて…!こんなに嬉しいことはないわ!信じられない!おめでとう2人とも!」

「おめでとうございます。兄様、セシリア嬢」


2人に祝福されて、俺とセシリアは2人とも顔を見合わせて照れながら笑った。




「おめでとうございます。アラン」


急に、生垣の中からボファッと音を立てて顔が飛び出してきた。

全員が驚き見ると、なんと兄上ではないか。

何でここに?と全員の顔に書いてあったが、俺には分かる。

アルベルトのデートが上手くいくか心配で着いてきたに違いない。

そんな暇がどこにあるのかと思うが、これで仕事は完璧にこなしているのだから、この人の超人さが分かるというものだ。


「シプリー嬢。この愚弟にはなかなか苦労すると思いますが、誓ってあなたのことを大切にするでしょう。どうか、呆れずに付き合ってやって下さいね」

「え、ええ。ありがとうございます」


頭や服に葉っぱを付けながら良き兄風に言う兄上に、セシリアは引き気味に応える。

アルベルトさえ絡まなければ、まともな兄上だ。

状況はアレだが、言っていることはとても温かい。

俺のこともきちんと弟として可愛がってくれているのが分かる。

仕事があるからと去っていく兄上の背中に、俺は感慨を覚えた。

他の3人はドン引きしていた。




後日正式にシプリー子爵家から婚約を受け入れる旨の連絡があり、さっそく教会に婚約書を提出して名実ともに婚約者になることが出来た。


ああ、それから植物園にはアーチを破壊したことを謝罪し、ついでに兄上が潜んでいた生垣分も含めて迷惑料として金貨を贈った。

その時の薔薇の花は散ってしまったが、またきちんと花を咲かせられたようだ。




セシリアには、今でもあの時のことを笑われる。

このままだと結婚して子どもが出来たら、その子にまで言われそうだ。

なんて、先走ったことを考えてしまう。


結婚は、セシリアが卒業する1年半後に決まった。

侯爵家の持つ子爵位を譲り受け、領地は持たずに王都に屋敷を構えることにした。

セシリアは商売に興味があったようで、シーブルック家と共同で行うことをいくつか考えているようだ。

俺はセシリアが幸せならそれでいい。

と言うと「もし私が悪女だったらどうするつもりだ」と怒る。

そこがまた愛しい。

心配してくれているようだが、セシリアならば問題ないのに。


俺たちの関係はまだ始まったばかり。

2人できちんと話し合い、必ずや幸せになろう。


隣にいるセシリアの手を握り、そう思うのだった。



以上で完結です!

セシリアより王太子やアレクシスが目立っていた可能性がありますが…。

ありがとうございました!

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