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悪魔公女Ⅱ 『ネタバレ倉庫』  作者: 春の日びより
第二章・現代社会見学編
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2-17 真 神 ②


 

 吹きすさぶ風が長い髪を靡かせる。

 遠くに見える巨大な街を、九人の男達が鋭い視線で睨め付けていた。

 

「…………」

 こんにちは、ユールシアです。

 問題もなく関東に入った私は、二十三区外で『御山』の僧侶達と合流して、異変があると思われる障気溜まりの情報を求めました。

 集まった人は思ったよりも多かったけど、実際に『命を賭けて』向かうのは九人と言うことでした。

 それ自体は問題ない。むしろよく九人も集まったと感心したほどです。私も慈円さん達のような前途ある若い人達の参加は禁止しましたからね。

 そして命がけの戦いに申し出てきたのは、『御山』でも滅多に外には出ない、大僧正や(ごん)僧正と言った、年齢も地位も高いご老人達でした。

 残り少ない命をこの国の為に使おうと、彼らは私の元に集まった。

 そして、全員が『頭皮』の回復を私に願い、共に戦う為に立ち上がったのだ。

 

 なんだそりゃ。

 

「……あなたたち、帰って良いよ」

「荒神よっ! 何を言っているんですか!?」

 私の呟きに、腰まで伸びる長い髪のおじさん…示現さんが、私の足にすがりついた。うん、ごめん、きもい。ツヤツヤのキューティクルが妙に腹が立つ。

 それと同時に少し前まで毛根が死滅していたお爺ちゃん達が、長い髪を手櫛でかきなげながら、驚いた顔で振り返った。

 何で驚いた? 何で長髪なのか?

 彼らはこの国の救いを願い、その鍛えた『魂』を対価に、失われた毛根の復活を願い出てきたのだ。

 良く分からないでしょう…? 私も理解したくない。

 前半と後半でまったく意味が繋がらない。いや…実際に『神聖魔法』で治しちゃった私が言うのも何だけど、何で国を救うのにハゲを治す必要があるの……?

 

「なんかもう、魂とかいらないから帰って良いのよ?」

「ほっほっほ、儂らにそんな心配は無用ですじゃ……どれ、お小遣いをあげよう」

 100歳近いよぼよぼの……でもふさふさのお爺ちゃんが、孫娘にお小遣いでもあげるように、1センチくらいの札束を私にくれた。

 ボケてんじゃないのっ!?

「男には、命にも替えられないものがあるのです」

「……は?」

 比較的若い70歳くらいのお爺ちゃんが、真面目な顔でそんなことを言いやがった。

 とりあえず、ワンレン気味の髪を耳にかき上げる仕草を止めなさい。

 髪は女の命とか言うけど、男性にとっても魂を対価にしても良いほど大事なものだとは思わなかったわ。

 

 

 とりあえず私は、お爺ちゃん達に現地で散開して貰い、異変が集中している場所を特定して貰うことにした。

 さすがに魂を丸ごと貰う気にはならなかったので、対価は一律『寿命十年分』だけ貰う契約にする。

 そのままぽっくり逝く人もいるんじゃないかと思ったけど、皆さん不気味なほど元気です。あと三十年は平気な気がします。

「荒神よ、こちらをお持ち下さい」

「……うん」

 連絡用に携帯電話を受け取った。画面にタッチ式じゃなくて、パカパカする奴だ。

 ボタンが15個しか無くて、文字がデカい。……老人用ですか。

 持っただけでお線香と加齢臭の香り漂う、どう見ても中古品です。

 

 そうして私は一人で東京に入ることが出来ました。

 情報を統合すると、東京の中でも繁華街……新宿から渋谷までの中に異変の中心部があるらしい。

 比較的外国人が多い地域だけど、それでも私みたいな金髪金目のゴスロリ少女はもの凄く目立っている。

 私の外見は気軽に声を掛けられるような感じじゃないから助かっていますけど、歩いているだけで、学生からジロジロ見られて、名刺を持ったおじさんがジリジリ近づこうとしてくるので、その度に軽い威圧で追い払わないといけないので面倒だった。

 こんな目立っているのに、老人用携帯なんて使いたくない。

 とりあえず連絡は通話じゃなくてメールでお願いしたけど、お爺ちゃん達から五分に一回はメールが来る。

『お小遣いは足りとるか?』

『迷子になったら、おまわりさんに聞くように』

『シャンプーはどこの店がいいんじゃ?』

『ここどこじゃ?』

『交差点の角のお店は、まだ早いから入っちゃいけません』

『いえーい、届いとるかの?』

 

 がぼぉおおおおんっ!

 全力で携帯を路面に叩きつけると、周りの通行人にドン引きされた。

 

 

『……タ…ス……テ…』

「………」

 不意にそんな声が聞こえた。別に私も苛立ち紛れに携帯電話を壊したんじゃなくて、ちゃんと目処は付いていたんです。ホントデスよ?

 あれだけ私が来るのを拒んでいたんですから、このぐらい場所を特定できれば、近くに行けば反応はあると思っていました。

 掠れたような声のような『音』……。

 汚さないように琴美さんのマフラーをドレスの内側に仕舞い、私は音がはっきり聞こえるほうへ足を向ける。

『………タ………テ……』

『………ス…ケテ………』

『……タスケ…テ………』

『……タ…スケ…テ……』

 何に怯えているのか。何に救いを求めているのか。

 そんなの決まっている。その存在は『私』を畏れている。

 まるで小さな子供のように……。

 

 ……じゃり、と足音が変わる。

 道が小石が敷かれた砂利道に替わり、周囲の景色がコンクリートから緑の木々に変化した頃、私は人の姿がまったく見えなくなっていることに気づいた。

 こっちで正解みたいですね。

 人払いの術式でも使っているのか、元からそんな結界があったのか、それとも亜空間にでも繋げたのか。

 う~ん……細かいのは苦手です。こういう時、従者がいないのは面倒ですね。

「そう言っていただけると、私達も嬉しいです」

「ユールシア様ーっ、お茶にしますかー?」

「……………」

 ……………………はい?

 

 いつの間にそこにいたのか、彼女達二人はメキメキと自販機の扉を無理矢理こじ開けて、缶紅茶のプルタブを開けてから私に差し出した。

 

「………ティナ? ファニー? なにしてんの?」

「もちろん、主であるユールシア様をお迎えに上がりました」

「褒めて褒めてーっ」

 あ~~……何となく分かった。

 変態(ティナ)が嗅覚で私を捜して、ファニーの能力で追ってきたのね? まぁ、追ってくるって聞いていたから、いつかはやって来ると思っていましたけど、このタイミングで来ましたか……。

 私の首に抱きついてくるファニーの頭を撫でながら、それを見て血走った目で抱きついてくるティナをアイアンクローで止めて、ようやく頭がフリーズから解除されて飲み込めた。

 何故でしょう……。

 行方不明になった主を捜して追ってきた従者との感動の再会なのに、まったく感動しないわ。…と不味い缶紅茶をすすりながらそんなことを思う。

 

「ねぇ、ノアとニアは?」

「全員でこちらに来ると、主様のご要望である旦那様と奥様の警護が出来ませんので、二人は向こうに残してあります」

「じゃんけんで決めたんだよーっ」

「……そうですか」

 寄りにもよって、この二人かぁ。あっちの二人ならある程度私の意を酌んでくれるのになぁ……。まぁ、この二人がお父様とお母様の警護をするより安心できるけど。

 

「……分かりました。着いてきなさい」

「「はいっ」」

 

 さぁ、気を取り直していきましょう。この場合、生きましょうでも逝きましょうでもそんなに間違っていない気がする。気分的に。

 どうやら二人は数ヶ月前にこちらに世界に来て、日本中で私を捜して旅をしていたらしい。……一発でこっちに来られたのに、なんでそこから迷子になるかなぁ?

 それと二人はどうやって結界に入ってきたの?

「良く分からないけど、結界のパズルを解いていたら、突然ごちゃごちゃになって道が開けたのー」

 思考が声で漏れていたのか、ファニーがにこやかに答えてくれる。私が結界を突破した時に偶然で?

「………そうなんだ」

 やっぱり、この『世界』が『悪魔』を求めているのかも知れない。だから私達はこの世界にすんなりと来られた。

 この世界は、きっと人間の増加が急すぎたんだ。

 自然を潰し、信仰心が消えて『精霊』が居なくなり、傲慢な人間の心は畏れを失い、『悪魔』さえ消えてしまった。

 悪魔が消えたせいで人間はさらに数を増し、精霊が消えたせいで下位の魂でさえ、人間として転生できるようになった。

 人間だけが増えすぎた歪な世界。

 転生の秩序が無くなり、上位の魂がまともに転生できなくなった世界は衰退する。

 容積が大きい強い魂が外の世界に弾かれるようになり、弱い魂だけがこの世界に残るようになってしまう。

 だからこの世界は『悪魔』を求めた。

 生き物の身体が、自然と必要なものを欲求として求めるように、異界からバランスを崩す『強者』を求めた。

 

 では、それを排除しようとする四十万くん達に憑いた、あの『存在』は何なのか…?

 

 しばらく歩くと大きな鳥居が見えた。

 その奥にはさらに大きな寺院が見える。本当だったら、平日でも観光客や参拝客で溢れているだろうこの場所には、今は誰も居なかった。

 私達と……あの、黒覆面の少年以外は。

 

 前に出ようとする二人の首根っこを掴んで下がらせると、私がゆっくりと前に出る。

「四十万くんでしょ? 美紗が心配していたよ」

「……………」

 ……あかん、完全に取り込まれてるな。眼の色が尋常じゃない。

 仕方ないなぁ……。

 

「ねぇ…死んでみる?」

「っ!?」

 

 私が軽く爪先で蹴っ飛ばした石畳が、唸りをあげて四十万くんに襲いかかると、彼は大きな剣でガードしながらそれを回避した。

 さすが異界の勇者? だね。そのうえ変な力を得ているから、簡単に死んだりしないでしょう。たぶん。

 きっとここは、愛と友情で説得する場面なんでしょうけど……。

 四十万くんが私を睨み、私はその憎悪に満ちた視線を受けて静かに嗤う。

 

「さぁて、美紗を泣かしたお仕置きだけは受けて貰うよ」

 

 



生きろ

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― 新着の感想 ―
ここどこじゃ? > ボケてるーっ!? いや、携帯使える程度の理性は残っている! ………………っていうか、誰だ、このじいさん連れてきたのは? 自分から来た? うっそだぁ!
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