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悪魔公女Ⅱ 『ネタバレ倉庫』  作者: 春の日びより
第二章・現代社会見学編
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2-11 波乱の兆候 ②




 

 お迎えの車はでっかいリム…何とかさんでした。いえ、もちろん知ってますよっ。

 ……車種に自信がなかっただけです。

 もしかしたらロールスな何かかも知れないですが、私的にはシートがふかふかで中が広ければ問題ない。

「テレビ見てもいいですか?」

「………」

 ダメですか……。さっきの若いお坊さんが警戒はしてるけど、何だこいつは…って目付きで私を見た。

 

「はっはっは、お嬢さんは度胸がお有りですなぁ」

 対面の席からおじ様が仮面のような穏和な笑みでそう言った。

 車内には運転手と助手席に一人ずつ。後部座席は対面式で六人が座れるけど、正面を向いている最後部の三人座席は私一人で腰掛けていた。

 ……ちょっと傷つくわ。

 警戒しているんですよね…? こんな12歳の女の子に怯えている訳じゃ無いんですよね?

「あら? おじ様がこんな子供一人に、何かなさると言うのですか…?」

 そんなことを考えているとは顔には出さず、ふんわり微笑んで先ほどの言葉に答えると、おじ様の笑みはそのままに車内の温度が少し下がったような気がした。

 私は下がったように感じないけど、若い人二人の顔色からそう判断したのは間違いではないと思う。

「もちろん、子供に怖いことはしませんよ。……普通の子供は、その美貌で若い僧侶を誑かしたりしませんがね」

 酷い言い掛かりです。

 まるで私が、人の良い笑顔で耳障りの良い甘い言葉を囁いて、他の悪魔からでも魂を奪うような、食欲優先の極悪非道な悪魔に聞こえます。

「………」

 うん、大体その通りだね。……困ったもんだ。

 

 現在私は、威圧も気配も極力抑えて、ほんわかとした雰囲気を醸し出しております。

 これが意外と忍耐が必要なんです。マラソンしながら口呼吸を控えている感じと言えば分かって貰えるでしょうか。

 私が何でそんな面倒なことをしているのかと言うと、この人達の思惑が良く分からなかったから、気持ちよく喋ってもらおうと思ったのです。

 思っていたのですが、……本当に面倒くさくなってきましたね。

 

「そんな酷いことをする『悪魔』のような人がいるのですか?」

「言い得て妙ですね。あなたのお国では、悪魔は最上級の邪悪でしょう。……おっと、あなたのことではありませんでしたね。慈円にはあなたは『悪魔』を追ってきたと聞きましたが」

 探りを入れてきましたね。多少直接的なのは私を侮ってくれているみたいです。

 ところで慈円くん、お喋りすぎですよ。

「この国では悪魔はいないそうですね。戦い方をご存じで?」

 良かったらご教授しましょうか? っと親切で言ったのですが、そうは受け取ってもらえなかった。

「……この国には千年以上の退魔の歴史がある」

「そうですねぇ」

 

 おじ様拗ねちゃいましたか? まぁ、私もわざとなんですが。

 そんな朗らかな会話をしていると目的地に着いたようです。やけに近い。てっきり威厳を見せる為にどこかの大きなお寺に連れて行かれるかと思ったら、星が何個か付きそうな高級ホテルでした。

 ……ケーキ包んで貰っていいですか?

 

   ***

 

 その地域で唯一星を得た『二つ星』であるホテル光天は、開業してから初めてその正面玄関のシャッターを下ろした。

 数日前から新たな客を受け入れず、予約が入っていた客はそれが例え議員であっても多額の詫び代と共に他のホテルに回され、一切の苦情を受け付けなかった。

 そんなことをすれば、これからの営業に支障も出そうなものだが、このホテルの経営母体の一つが、『宗教団体』と関わりがあると言えば理解できるだろうか。

 それだけでも異様だが、ホテル内の雰囲気も普段とは変わっていた。

 関係者(・・・)以外の従業員はもれなく休暇を申し渡され、その代わりにホテル業とは無縁とも思える者達が大量に臨時雇用されていた。

 

 おそらくはここまで上げただけでも、億を超える金額と、千を越える人間が動いている。

 たった一人の『少女』に話を聞くだけのことに大袈裟……言い方を変えれば、それだけ警戒をしているとも思えるが、この場に呼ばれた人間は『少女』だけではない。

 少女に傾倒していると見られる『癒しの天女』派と同じ『改革派』である、正体不明の戦士を信奉する『黒の勇者』派もこの場に呼ばれていた。

 

 本来なら総本山である『御山』の本殿に招集を掛け、数千人の僧兵達で固めて威圧するところなのだが、僧達は『癒しの天女』と『黒の勇者』を警戒していた。

 おそらく海外の政府か宗教関係者だと考えていたので、本殿の情報を与えない理由もあったが、問題は日本の諜報機関でも彼らの正体が分からなかったからだ。

 顔を隠して神出鬼没である『黒の勇者』の正体が分からないのは、ある意味理解できる。だが、素顔を晒し、名前と住む場所まで分かっている『癒しの天女』は、あれ程の目立つ容姿なのだから、ネットを調べるだけでも画像の一枚くらいは出てきそうなものだが、海外に派遣している調査員は、わずかな影も見つけることが出来なかった。   まるで、1年前に突然この世界に現れたような……。

 その人とは思えぬ美貌と相まって、『御山』の上層部はこの少女に『畏れ』に似た感情を抱いた。

 

 

 少女の迎え役として出向いた法玄の付き人である『信明』は、まだ若いが『改革派』の人間ではなく『伝統派』である。

 信明の父も『御山』の僧兵であり、その兄弟子である法玄は、信明を生真面目すぎるとは思うが幼い頃から知っており、側近として信頼を置き、信明も法玄を父と同様に尊敬していた。

 披露宴にも使用できる大広間には、すでに『御山』から選ばれた僧兵が百名以上場所を埋め、後から法玄を含めた僧正が三名集うことになっている。

 信明は少女を連れた法玄より先にこの大広間に来て、他の面子を確認した。

 

 大広間の隅に数名で固まっているのは『黒の勇者』派と、そのリーダー格である無文だった。彼らが『黒の勇者』と呼ぶ人物は、それを迎えに行くはずの僧正がすでに居ることから、連れてくることは出来なかったのだろう。

 直接の上役が側に居るのに無文は平静であり、その不遜とさえ言える表情と態度は、自分のやっていることに絶対の自信があるのだと感じた。何か策を弄している可能性もあるが、その為に百名以上の僧兵を用意しているのだから問題はない。

 だが、肝心の『黒の勇者』が来ないのなら、今回の焦点は『癒しの天女』と呼ばれる少女になる。

 直系の兄弟子ではないが、『癒しの天女』派の慈円は知っている。実力もあり信心深いエリートだった彼が、こんなあからさまに上に逆らうとは思ってもいなかった。

 その慈円はすでに呼び出されてこの場にいるが、彼は何が問題なのか分かっていないようにも見える。

 その信心深さ故に、あの少女の美しさを神のように感じてしまったのだろう。

 

(……確かに美しい女の子だったが…)

 信明もまだ二十代前半の若い僧侶だ。あれ程の綺麗な少女を間近で見て胸がときめかなかったと言えば嘘になる。

 最近では“親しみやすい”容姿のアイドルが主流だが、本物の『美少女』を目にして信明は雷に打たれたような衝撃を受けた。

 あれでは俗世に疎い慈円があっさり傾倒したのも仕方がないのかと思う。

 

(でも、私は違う)

 信明達、『御山』の僧は、この国の安定と平穏の為に、千年以上歴史の裏側で邪悪と戦ってきた。

 時の権力者と懇意にすることはあっても、それは退魔行を行う為に必要なことで、金銭や権力に惑わされることなく、仏を信じることで心を不動のものとしていた。

 近年、『伝統派』と『改革派』に別れてしまったが、それでも信じるものは同じで、進む道を同じくした同志であった。

 それがただ美しいだけの少女に惑わされたなど罪にも等しい。

 確かに美しい少女だが、あののほほんとした少女にあっさり傾倒した慈円達に、信明は怒りを感じた。

(だが、それも終わりだ)

 もうすぐあの少女が、この場に連れられてくる。

 あの何の力も感じない少女が、この百名以上の僧兵に囲まれ、無様に狼狽える姿を見れば、慈円達も正気に戻るだろう。

 もしそれで慈円達の目が覚めなくても、信明達数人の僧兵は、この場で少女を暗殺するように命じられていた。

 それによって慈円達が使い物にならなくなっても、内部に裏切りの火種を抱えた勢力を放置する訳にはいかないからだ。

(……可哀想だとは思うが、実力も無しに我らに関わった己を恨むがいい)

 

 そして……時刻となり両開きの扉が開くと、法玄ら数人の僧と、金髪の少女が大広間に姿を現した。

 

 何かが……おかしい。

 初めは想像通り、少女の美しさに皆が見蕩れ、そしてその柔らかな微笑みにホッとして春の陽だまりのような暖かさを感じた。

 だが少女が大広間を見渡し、立ち並ぶ僧兵達の視線に晒された時、少女の微笑みが別の『何か』に変わっていった。

 僧達が感じた、この思いをどう表現すればいいのだろう……。

 心の奥底から沸き上がる『畏れ』…『不安』……でも、それが不快(・・)で無いなどと誰が信じられるだろう。

「「「「「……………」」」」」

 僧達は、心をじわりと汚染するような、甘い欲望を感じる。

 例えて言うならば、麻薬に近いだろうか……。

 使えば害にしかならない。身体も心も蝕まれてボロボロになり、命さえ脅かされると誰もが充分に知っているのに、愚か者はその快楽を得る為に手を伸ばしてしまう。

 信明は、少女の姿から目を逸らすのに、全精力を振り絞らなければいけなかった。

 少女の美しさは、まさに極上の美酒であった。

 手を伸ばさずにはいられない……。その甘い一口を味わう為なら、『魂』さえ捧げても惜しくないと、心の奥で誰かが囁いている。

 さぁ手を伸ばせ……魂と引き替えに、極上の美酒に口を付けろ。

 心を鍛えてきた百人近い僧侶が、亡者のようにふらふらと少女に惹かれて……。

 

 ガキン……ッ!!

 

 鉄骨とコンクリートの柱が、巨大な鉄に打たれて悲鳴をあげた。

 抵抗できなかった全員が我に返り、その破壊音に振り返ると、そこには無骨な鉄剣を構えた黒覆面の勇者の姿があった。

「「………」」

 いつの間に現れたのか……。

 黒覆面からわずかに見える目が少女を捕らえて微かに見開かれ、少女も黒の勇者を視界に収め、ゾクリとするような甘い笑みを浮かべた。

 

「初めまして(・・・・・)勇者様、お元気そう(・・・・・)で何より」

 





何故か、うちの主人公は、悪役やらせると活き活きしていますね。



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― 新着の感想 ―
『癒しの天女』派と~『黒の勇者』派 > こうして並べるとどっちもどっちだなあ。というか、坊さんの派閥問題で命を狙われるとか………………;;
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