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悪魔公女Ⅱ 『ネタバレ倉庫』  作者: 春の日びより
第二章・現代社会見学編
32/47

2-10 波乱の兆候 ①



 

「ユルちゃん、それでね、四十万くんが京都ラーメンをくれてね、私初めて食べたんだけど、あんなにこってりしてると思わなかったぁ。お父さんがパパッと作ってくれたんだけど、お父さんったら、四十万くんがうちのらーめん凄く好きだから、照れちゃってんのよ、あんなお父さん初めて見たわっ。あ、ちゃんとユルちゃんの分もラーメンあるわよ。帰ったらお母さんの分と一緒に作るから待っててね。そうだ、私が作っていいでしょ? 色々なラーメン作るのって楽しいのよねぇ。この間も四十万くん博多ラーメンを持ってきてくれたのよ? その次は喜多方ラーメンだったの。そっちのほうがうちの味に近いかなぁ。でもパックになったチャーシューはあんまり美味しくないね。あ、そんなこと四十万くんに言っちゃ嫌だよ?」

「……らじゃー」

 

 良く喋るなぁ……この子、こんなにお喋りだったっけ? まぁ、そんだけ嬉しかったのかな。

 美紗の惚気だかラーメン談義だか良く分からない話を聞きながら、私は美紗と商店街を歩いていた。今日はお店のお使いじゃなくて、単純に美紗と遊んでいます。

 昨日、リンネが恩坐さんをお迎えに行ったけど、あれから音沙汰もなく、二人はまだ戻ってこないから、若干暇なんです。

 リンネが行ったから心配はしてないけど、まさか男二人で遊んでいるとか? リンネに悪い遊びを教えないで欲しいわ。

 まぁ、それはいいとして、一応、私が美紗の家にいるのは後一ヶ月程度しかないから、美紗も寂しがっているんです。

 私だって寂しいよ? 父ちゃんや琴美さんとも仲良くなったし、商店街のみんなも顔を見ればにこやかに手を振ってくれる。

 それに琴美さんは前世の『お姉ちゃん』かも知れない。……けど、思っていたよりも衝撃はなかった。元の家族たちが心配かと言われれば気にはなるけど、無事だと分かっているなら会いたいとも思わなかった。

 感情としては寂しいけど、たぶん人間だった頃のような感傷は私にない。

 悪魔だから感情がないんじゃなくて、半分精神生命体だから魔神の私は精神抵抗値が異様に高いんだと思う。思いもしなかった弊害だよ。

 そうなると『勇者』とか人間でも生命体としての『格』が高いと、感情に流されたりしなくなるのかも。……友達の勇者様は落ち着きがなかったけど。

 話が逸れました。

 美紗が最近、私の側に居たがるのは、私が他の所に行く場合は、お別れ会も無しに居なくなると伝えてあるからです。

 それに関しては渋られたけど、だって仕方ないじゃない。……空港まで見送られてもパスポートなんて持ってないんだから。

 

 でも次はどこに行こうか……。

 予定ではヨーロッパ辺りに行って、私腹を肥やす生食…おっと、聖職者の魂を躍り食いして魔力を回復しようと思っていたんだけど、リンネのおかげで魔力は八割くらい回復している。

 お父様とお母様の居る世界に戻る分の魔力はある。次元を渡る悪魔である【魔神(デヴィル)】の力で次元を開くことは出来るんだけど、肝心の聖王国のある座標が分からない。

 はっはっは、思いっきり迷子ですね。

 本当に、魂の繋がりが強いリンネがあっちに残っていてくれれば、それを指標に渡ることが出来たんだけどなぁ。

 他に魂が繋がっているのは四人の従者(アクマ)達が居るけど、たぶんある程度近い次元に行かないと感知できないかも。

 あと可能性があるとしたら、空間転移や探知が得意なファニーが向こうの世界からサポートして、従者(アクマ)の誰かが私を探しに来てくれれば簡単に帰れるかも知れない。

 まぁ、先走ってファニーがこっちに来ちゃったら、どうしようも無くなっちゃうんだけど。

 ……そう言えば、私を追ってくるとか言ってたような。……まさかね。

 

「四十万くん、色々なところのラーメン買ってきてくれるけど、そんなに旅行してるのかなぁ」

 あ、まだ、美紗の話が続いていたみたい。

「旅行じゃなくて、普通にネットで買ったんじゃないの?」

「あ、それもあるか。うちパソコン無いから、その発想はなかった」

「普通にスマホでいいじゃん……」

 私は持ってないけど。

「そっかぁ……じゃ、どこに行ってんだろ」

「…ん?」

 さっきまではしゃいでいた美紗が少し萎れているように見えた。

「ちょっと前まで、お休みの日はお店に来て、お父さんからラーメンの作り方とか習っていたのに、最近忙しいみたいで会えない日が多いんだ。それに…」

「どうかした?」

「……うん、この頃、顔が怖い時があって…あ、うん、気のせいだよねっ」

「……そうだね」

 上手くいってるのかと思っていたら……。何をやってんのよ、四十万くん。

 ……軽くお仕置きが必要かしら。私の可愛い美紗を悲しませたら、悪魔(わたし)を敵に回すことになるんだから。

 それはともかく、……周りが鬱陶しいな。

 

「ユルちゃん、どうしたの?」

「うん、ちょっとばっかり、見られているかなぁ…って」

「ユルちゃん、綺麗だから仕方ないよっ。…でも、今日は人が多いね。何だか坊主頭の人が多い…?」

「そうだねぇ」

 美紗が言ったように今日の商店街は坊主頭の人を多く見かける。

 別に坊主頭は珍しくない。……一般的に言えばこれだけ集まるのは珍しいんだけど、私の自称信者さん達がらーめんを食べに来たりするから、そこそこ現れる。

 ただその人達は、好意的というかキラキラしたお目々をしているのですが、今見える人達は好意的どころか警戒している感じがする。

 ……ひょっとして私が『悪魔』だってバレましたか?

 やだなぁ。こんなに無害な悪魔なのに……。

 

「ごめん、美紗、どうやら私に用があるみたい」

「……え?」

「少しお話し聞いてくるわ。たぶん問題は無い(・・・・・)から」

 本当に“問題”はない。

 一番困るのは、美紗達が人質にされることだけど、そうなったらこの世界を敵に回してでも助けると決めている。

「本当に大丈夫なの…?」

「うん。私を信用して」

「……ユルちゃんだからなぁ」

 失敬な。私が何か面倒を起こしたとでも言うのかね?

 それでも美紗は納得してくれたのか、家に戻ると言って私の側を離れてくれた。

 

 一人になった私はそのまま近所の公園にまで移動した。

 彼らが話しかけてくれるのを待つのはいいけど、商店街で私は有名人だから、人の目が少ない場所に移動する必要があった。

 ……別に貧弱な私の身体が、座る場所を求めていた訳ではない。

 公園の近くにあるフルーツパーラーのおじさんが作ってくれるアイスクリームが、最近『供物』化しているから、また食べたくなった訳でも、私の為に紅芋のスイートポテトを用意しておくと言われていたからでもない。

 

「……お嬢さん、少々お話しをお聞きしたいのですが、宜しいですかな?」

 

 しばらくすると、剃髪の男性二人を連れた初老のだんでーなおじ様が私に話しかけてきた。

 片手ににアイスクリームを持って、芋を口いっぱいに頬張っている私が振り返ると、おじ様が少し怯んでいた。

「…………」

 私は無言のままおじ様を見つめる。芋を飲み込むまで喋れないからだ。

 聖王国にいた頃は、人間の食べ物がこれほど美味しく感じられるなんて考えたこともなかったわ。

 思わずそんなことをしみじみと思っていると、坊主頭の一人が不機嫌そうな声をを出した。

「おいっ、僧正様がお声を掛けて下さっているのに、なんだその態度はっ」

 ふ~ん……やっぱりお坊さんなんだね。

「これこれ、突然声を掛けたのは私達だよ、君は控えなさい」

「す、すみません…」

 おじ様が穏和な口調で窘めると、その若い人は萎縮したようにおじ様に謝罪した。

 そう、“私”ではなく“おじ様”に謝罪したので、私はそのまま残っているアイスクリームを食べ始めると、私をもの凄い目付きで睨んでいた。

 まぁ、いいか。

 

「それで、何のご用ですか…?」

 アイスを完食した後、口元をハンカチで上品に拭いながら『公爵令嬢』モードで言葉を返すと、おじ様が穏和な笑みを変えずにゆっくりと頷く。

「あなたは『慈円』と言う男を知っておりますか?」

「……ええ、存じていますよ」

 知らないってシラを切るのも愉しそうだけど、話が進まなそうなので自重する。

「それは良かった。私は彼が勤める僧舎で上役に当たる『法玄』と申します。あなたが彼とその思いを共にする者達にお力を貸して下さっていると聞いております。今回は、是非あなたのお話をお聞きしたいと一席設けましたので、お付き合い願えますか?」

「……なるほど」

 言葉は丁寧だけど、決定事項だから着いてこいと言っているのね。

 あ~あ……やっぱり問題になりましたか。

「ユールシア嬢、あなたは正式な手順でこの国に入った訳ではありませんね…? もちろん、私どももそう言った理由があると理解しておりますが、その点を含めてお話しをさせていただきたい」

「………」

 要するに私が不法入国してきた、正体を明かすことが出来ない外国の宗教関係者だと思われているのかな?

 言葉は丁寧だけど、内容は『脅し』だ。

 法玄さんは相変わらず穏和な表情を浮かべているけど、完全に仮面のように固まっていて、何を考えているのか分からない。

 さっきの若い人は、私を見下すように口元を笑みに歪めているし、もう一人のお付きの人は、無表情に指で袖元を撫でて……暗器でも隠しているのかも。

 周りを包囲していたらしい剃髪の男性達が姿を見せて、その雰囲気と肉体の大きさで私を威圧していた。

 

 ……この悪魔である私を、人間の少女のように考え、威圧して脅してきたのだ。

 

「ええ、喜んでお付き合いさせて貰いますわ、おじ様」

 

 そう答えると、おじ様達の気配が戸惑うように揺れた。

 おそらく私の顔には花のように満面の笑みが浮かんでいることだろう。

 この世界に来て貴族のしがらみが無くなったのは気楽に感じていたけど、やっぱりどこか物足りなくも感じていた。

 私、この手の『人間』が『大好き』ですからっ。

 

 さぁ、久しぶりに愉しくなってまいりましたっ。

 



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― 新着の感想 ―
四十万くんが~、四十万くんは~、四十万くんに~ > なあ、信じられるか? こいつら、これでも付き合ってないんだぜ? ………付き合ってないよね? まだ。
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