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第9話

「お姉ちゃん」


 閉店後、お店の片づけをしていると不意に後ろから妹の声が聞こえてきた。今までのテンションとは打って変わって控えめで、パジャマ姿で私を見上げている。


「どうかしたの?」

「……私の夢にも、その男の子って出てくるのかな?」

「うぅん……多分、出てこないと思うけど。どうして?」

「えっと、私もお礼言いたいなーって思ったんだけど……」


 その声は何故か怯えてる(、、、、)声だった。何でそんなに怯えているのかと訊ねてみると、


「……か、雷は恐いなぁ……って」


 と返ってきた。

 失礼ながら、私は堪え切れなくなって吹き出してしまった。


「あ、あ、あぁー!? 何で笑うのさ!?」

「あっははは! ないない、そんなことないわよ。その子も、悪いカイブツを懲らしめる時しか雷は出さないわよきっと」


 そういえば、妹は私と違って雷が嫌いだった。


「で、でもさ! なんで雷なんだろ? もっと強い武器とかカッコいい武器あるのに! ……ビームサーベルとか!」


 そんな武器を持つインディアンは嫌だなぁ。


「ドリームキャッチャーを作ってた時、ゴールデンイーグルの話をしたわよね。覚えてる?」

「え? うん、男の子用の材料って話でしょ。勇気を、しょーちょー、してるんだよね」

「それと同時に、インディアンにとって“鷲”という生き物は『雨を(もたら)し、雷を呼ぶ』存在としてとても大切にされていたの。だから、悪い夢と戦う男の子のために羽根飾りが力を貸してくれたんじゃないかって私は思うわ」

「……雨も嫌だけど、雷も嫌だなぁ」

「自然の力はそれほどに強力ってことよ。剣や槍は使っている内にいつか壊れてしまうけど、雨や風は壊れないし人が予想も出来ないような威力を発揮するでしょう?」


 台風や落雷が正しくソレにあたる。

 日本だって、昔から地震雷火事親父と恐れているじゃないか。……ん? ちょっと違ったかも。


「じゃ、じゃあお姉ちゃん今日は一緒に寝てよ! お姉ちゃん雷平気でしょ? だから私の代わりに雷をバーンって!」

「私を避雷針にしてまで会いたいの? そういう悪いこと考えてるとおへそ取られちゃうわよ?」

「えッ!? ……ふ、ふぇ……え」


 危うくここにも土砂降りの涙が降り注ぎそうになったので、私はやや強めに妹の髪をわしゃわしゃっと撫でくり回した。ふわりと香ったシャンプーの香りに私も眠気を誘われる。


「はいはい、わかったわ。一緒に寝てあげるから用意しておきなさい。もう少し片付けなきゃいけないことがあるから、それが終わったら部屋に行くから」

「ぅぅ……う、うん! 待ってる! 絶対だからね! か、雷は、お姉ちゃんにまかせるんだからね!!」


 パジャマの袖でごしごしと顔を拭いた後、妹は思いっきり雷の部分を強調してから階段をどたばたと駆け上って行った。半ば呆れつつ、そういえば久々に一緒に寝るなぁと感慨に(ふけ)りかけたその時、兄さんのダンボールが目に留まった。


「……今回も大活躍だったわね」


 兄さんからの贈り物が無ければ歩ちゃんの「夢をつかまえる方法」なんて思い付けなかったし、装飾に使えるようなパーツがなかったら一緒に作ろうだなんてとても言えなかった。あの男の子も、歩ちゃんの夢の中で果敢に戦ってお母さんを立派に守って戦士としての務めを果たした。


「……あれ、これは……?」


 雑誌やドライハーブのボトルも残さず全部取り出したかと思っていたはずなのに、箱の一番下の隅っこに写真と小さなメモのようなモノを見つけた。やや色あせた写真と、二つ折りにされた紙切れがホッチキスで留めてある。興味をそそられた私は手を伸ばして紙切れを開いた。


「…………………………………………そっか」


 それは、兄さんからの短い手紙。

 そして一緒に留められていた写真に写っていたのは夢で見た男の子と、その家族たちに混じって笑い合う兄さんの姿。相変わらず、他の誰よりも眩しい笑顔を浮かべている。他の誰も悲しませないように、自分だけは絶対に泣かないぞと、意地を張ってるみたいに。


「おねーちゃーん! お片づけ、まだぁあー?」

「……はいはい。今から行くから待ってなさいって」


 目尻に浮かんだ小さな雫を小指で払うと、私はダンボール箱を丁寧に片付けてお店の電気を消した。



 遠く異国の戦士さま。

 至らない私に力を貸してくれてありがとう。


 小さな祈りと感謝を込めながら、私はほんの少し窮屈になったベッドの中で静かに瞳を閉じた。



 ~お終い~

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