3.子どもじゃないね
「じゃあ、みつさん?」
だめだだめだ。こんなに年下の子。
「ありがとうございましたー。またお越しくださいませー。」
ここに勤めて約2年半、後輩も増えた。自分は今26歳で社会人だ。学生の年下の子達は可愛くて、その中でも可愛がってるのは、1ヶ月前に入ってきた名雪霙くん。名前の通り冬生まれらしい。俺は、森光。森がファミリーネーム、光がファーストネームだ。パートさん達には「もりみつちゃん」と呼ばれている。「もりちゃん」「みつちゃん」より呼びやすいそうだ。レジでは無いが、違うセクションに「森さん」がいて名札には苗字だけのところ俺のにはフルネームが書かれている。
「もりみつさん」
その振り向いた瞬間に、始まったように思えた。
「新人さん?」
「はい、名雪です。よろしくお願いします。」
自分より身長が10cmほど高い見るからにモテそうな若い男の子。俺の名前、いつ覚えてくれたんだろう? ネームプレートは見えなかったはずだ。
「みつ、が、名前なんだー」
「え? もり・みつ、さん?ですか?じゃあ」
「そう。違う部門の森さんとの区別でねー」
イケメンだなー。と失礼にならないぐらいに見ながら思う。可愛いと言うよりは、格好良い。ていうか、綺麗だ。少し切長な目を量の多い長い睫毛が囲んでる。鼻が高くて、唇は厚めで形が良い。俺は、平均体重くらいだけど、この子は、細身だな。髪型もいまどきで、丸みがあって、襟足を刈り上げてる綺麗なストレートヘア。凄いな、なんでこんなにサラサラなんだろう?
「今日は研修で、森さんに付いていただきます」
「聞いてないなー。そこらへん緩いんだよね、ここ」
まあ、だから、居心地がいい面もあって続けてるんだけど。
「あ、お客さん来たね。じゃあ、ちょっと見ててくれる?いらっしゃいませー。当店のアプリお持ちでしょうかー?」
カゴを預かりながら入ってる商品を見る。2Lのペットボトルが2本、パンが5個くらい、後生肉。基本として、重いものを下に置く。でかい飲み物は、倒れるから始めから倒しておく。まあ、立てて欲しい人もいるんだけれど、後で袋に入れやすいんだろうな。カゴからカゴに移し替える時はたまごとか潰しちゃわないように、この入れ方はしょうがない。生鮮商品をポリ袋に入れる。途中でスキャナーを伸ばして液晶に表示されているバーコードを読み込む。
「袋お願いします」
「かしこまりましたー」
「新人さん?」
「あ、はい」
研修中と言う字を見て、常連さんが話しかけてきてくれた。「今日からです」と補足して俺も返事をする。後ろには誰も並んでいないのを考えてしゃべってくれる良い人だ。名雪くんは少し無愛想に返事をする。でも、嫌な感じはしないな。お客さんもニコニコしている。
「頑張ってねー」
「ありがとうございます」
ほら、頭を少し下げる礼儀正しさがある。
「今のは常連さんで週に3回くらいは来てるよー」
「ヘビーユーザーですねー」
「そだね」
最初は見て覚えてもらって、隣に立ってサポートしながらチェッカーを任せる。
「ちなみに怒ってるのかな?って思っちゃうお客さんは大抵なんにも考えずにボーッとしてるだけだよ?それか、違う事考えてる」
「あ、イラついてました。それで」
「人間だね」
お客さんがいない時はカゴ回し。バスケットカートにカゴを集めて入り口に持っていく。
「他はー......笑うのは苦手?」
「あ、はい」
「そんな笑わなくても良いかも。マニュアルでは笑顔って言ってるけど、客層が良いから怒られたりしないんだ。前にいる子も、仏頂面でしょ?並木さん。同い年だよ、名雪くんと」
「仲良いんですか?」
「ん?そだね、皆んな仲良いからね」
「成る程」
「並木ちゃんは、入ったのが俺と同じくらいだからまた教えてもらいなね」
「睨んでません?」
「いつもだよー」
並木護ちゃんは、高1から働いていて、本当に笑わないけどマナーや常識はある良い子だ。
「あの子は甘味さん。まんまだよねー、見た目が甘いと言うか、あ、これはコンプラかなー。並木ちゃんと特に仲良しだよー」
「へー仲間ですね」
「ん?うん!」
今日も抱きついてるなあ、甘味桃花さん。並木ちゃんも絆されるみたいに和らいだ表情。少し頬が緩んでいる。
「可愛い関係性だね」
「もっと可愛くなりたいんでしょうねー」
「ん?」
「いえ」
目を細めて口元が上がる名雪くん。微笑みながらふたりを見つめている。なんだかどきどきとしてきた。分かんないけど、優しいな。何が分からないんだろう? 分からないと困るの?
「あ、お客さんだ」
「はい」
初心者らしく手際悪く商品を移していく。自分は軽い物をいったんカゴから出して後で上に乗せる。
「とりあえず打ち間違えが無いように。丁寧にね。」
「はい、すみません」
「指差し確認しよっか」
ポイントカードを出したお客さんに気付かなかったり、カゴに残っているのを見落としたり、割引が通らなかったり。
「それはやめなさい」
人にはしちゃいけません。




