マクデブルク
マンフレート(Manfred)派の会合がひそかに行われていた。
マクデブルク族は女王アルマ(Alma)によって統治されている。
マンフレート派は女王のおいである、マンフレートを王位につけようとする一派であった。
もちろん、マンフレート自身も王位を望んでいた。
マンフレート派の主張では『女王』による統治は屈辱的であり、『男性』による支配こそが唯一の正統性を持つとのことであった。
マンフレートには三人の部下がいた。
フーゴ(Hugo)
ユルク(Jurg)
ドロテア(Drothea)
であった。
「アルマ『女王』! 何と我々に屈辱的であろうか! 諸君! 我々は立たねばならない! 女王を殺し、真の王が君臨するのだ!」
マンフレートが声を張り上げる。
「我々は貴族の、貴族による、貴族のための政治を行う! アルマ女王は民衆のご機嫌をうかがうばかりで、我々貴族の政治的権利を軽んじた! 我々は貴族の誇りを持っている! それを踏みにじるアルマ女王は『敵』だ! アルマ女王には統治能力もセンスも欠落している! この事態を軽く見てはならない! 我々は決起する! アルマ女王を廃して、この私が新しい王になる! 諸君らの力を私に貸してもらいたい! ともに力を合わせて、アルマ女王を排除しようではないか!」
マンフレートは声を張り上げて断言した。
「おおおおおおおおお!」
貴族たちはマンフレート支持を打ち出した。
王宮の一室。
「マティルデ(Mathilde)……私には不安があります」
「それはどのようなものでしょうか?」
アルマ女王が従者のマティルデに相談した。
アルマ女王は長い金髪の髪に青いドレスを着ていた。
「どうやら貴族たちが私の統治を不満として反乱を起こそうとしているようなのです」
アルマ女王の顔には憂いがあった。
「貴族たちが、ですか?」
マティルデが聞き返す。
「そうです。貴族の特権を廃止されたことがよほど頭にきているのでしょう。彼ら貴族としてはその特権こそが存在意義と化していましたから」
アルマは大胆な改革を行った。
それは貴族制度を廃止するというものだった。
伝統ある貴族を廃止するということは、アルマ女王が民衆を支持基盤とし、新しい体制を作ることだった。
アルマ女王は国民投票を実施し、はんば強引に貴族制度を廃止した。
しかし、貴族たちは納得しなかった。
貴族たちの不満は火となって燃え上がり、反乱寸前だった。
「このままでは私は廃位されて処刑されるでしょう。彼らは『女王』の統治そのものに否定的であるようですね」
「アルマ陛下……テンペルを頼ってはどうでしょうか?」
アルマ女王がマティルデの目を見た。
「テンペル? あのツヴェーデンにある組織ですか?」
「そうです。我々もシベリウス教徒です。同じ信仰を持つ民をテンペルは放っておくなどできないはずです。テンペルには軍事力があります。テンペルの騎士は強いとの定評があります。テンペルは私たちにとっても兄弟姉妹です。私がツヴェーデンまで赴きましょう。女王陛下を助けてくれるよう援軍を要請するのです。必ず、テンペルは応えてくださいます」
アルマ女王の顔に希望がともった。
「そうですね。いいかもしれません。頼めますか、マティルデ?」
マティルデはひざまずきつつ、顔を上げて。
「私自ら志願いたします」
「それでは、マティルデ、あなたに命じます。テンペルに赴き、支援を取り付けてきてください」
「はっ! かしこまりました!」
マティルデはすみやかに行動に移った。
目的地はツヴェーデンの首都シュヴェーデだ。
マティルデはその体をひるがえし、部屋から出て行った。
「テンペル……確か、あの方がいたはずですね。再会できるといいのですが……」
アルカ女王はイスから立ち上がると、窓から空を眺めた。
アルマ女王のほおがほんのりと赤みを持っていた。
マクデブルクからの使者、マティルデがテンペルにやって来た。
マティルデはスルトの執務室に通された。
「ご面会いただき、恐悦至極に存じます」
マティルデは直立不動で言った。
スルトはそんなマティルデをほぐすように語りかける。
「使者殿、それほど硬くならずともよろしい。使者殿はどのような案件をお持ちか?」
スルトがマティルデに尋ねる。
「はっ! 率直に言わせていただきます! 実のところ、我が主アルマ女王陛下は困っておいでです」
「女王が何にお困りか?」
「はっ! 女王には強大な敵対者がおります。彼らはマンフレート派と名乗っていて、武力で女王陛下を退位させるつもりなのです」
「マンフレート派か……マンフレートとは何者なのか?」
「マンフレートはアルマ女王のおいにあたります」
スルトが机の前で手を組む。
「女王はなぜ君をテンペルに派遣したのか?」
「それは女王陛下に救援要請を行うためであります!」
スルトはどこか納得した表情で。
「つまり、アルマ女王はテンペルの軍事力を頼りにしていると?」
「それ以外に、シベリウス教の信徒としてテンペルに救援を願っているのであります! アルマ女王はこれを機会に外交関係を作りたいと思っておられます!」
スルトはうなずいた。
「ふむ、おおよそのことはわかった。女王には軍事力はないのかね?」
「女王陛下には専属の騎士団が付いておりますが……マンフレート派とは比較になりません。そこでテンペルの軍事力……聖堂騎士団の力を借りたいのです」
「要望はわかった。それではこれより関係者によって協議したい。マティルデ殿には退出していただこう」
スルトの執務室にスルト、アンシャル、セリオンが集まった。
「用件はこうだ。現在、マクデブルクはアルマ派とマンフレート派に分かれて対立している。対立の原因は王位だ。女王のアルマとおいのマンフレートが敵対しているらしい。マンフレート派は強大なため、アルマ女王はテンペルに救援要請を出してきた。さて、我々はいかに対処すべきだろうか?」
スルトが述べた。
アンシャルが質問する。
「一つ聞きたい」
「何か?」
「アルマ女王はシベリウス教徒なのか?」
「そのようだ。使者のマティルデ殿が言っていた」
「なら俺は救援要請に応えるべきだと思う。シベリウス教の姉妹を見捨てることなんて俺にはできない」
セリオンが意見を述べた。
「私も救援に応じるべきだと思う。それに……」
「それに?」
「いや、何でもない」
アンシャルは何か事情を知っていそうだった。
セリオンはアンシャルの顔を注視した。
「私も救援を送るべきだと思う。それにテンペルがシベリウス教の信徒を見捨てればその影響は計り知れないだろうからな。どうやら、二人とも異論はないようだな。では、我々は救援要請を受託する。それでは肝心の人選だが……アンシャルには聖堂騎士を率いてもらうとして、ほかにはセリオン、エスカローネ、アリオンで言ってもらいたい。アンシャルには副団長として現場での騎士たちの指揮を執ってもらう」
「わかった。騎士たちの指揮は引き受けよう」
アンシャルがうなずいた。
「セリオンたちはマティルデ殿と共に出発してほしい。出発は明日とする。アンシャル、おまえの方からエスカローネとアリオンに伝えてほしい。かまわないか?」
「ああ、いいだろう」
かくして、マクデブルク救援チームが結成された。




