弟が女の子拾ってきた
遅くなりましたが更新します。
「あー、そこで拾って来ちゃった」
えへへ、と弟が困り笑いをしながら言った。背中から年下の女の子がひょこっと顔を出す。
淡く青みがかった灰色の髪に同じ色の瞳をした線の細い小柄な女の子である。
村では見ない顔だ。
頭をポリポリとかきながら弟に確認する。
「いや、そこで拾ったって?女の子を?」
「うん」
「村にはいないだろこんな子」
「うーん、そうなんだけどねー。
森からさ、ごそごそ音がしてクマかなーって思って待ってたら女の子が出てきたんだよね」
えーっと。
弟は元からどこか抜けているというか、のんびりしていたが今回のはツッコミが追いつかない。
「えと、お前なんでクマかなーって思って逃げなかったんだ。なんで正体確かめるまでその場で待ってたんだよ!」
弟は困ったように笑いながらえへへーと誤魔化した。
警戒心とかないのかこいつ。
これだから兄たる俺がしっかりせねば。
「ふたご??」
女の子が俺と弟の顔をきょろきょろ見比べながら言った。
「ああ、そうだ。俺が兄のヨハン・ルートヴィヒ・シェリングだ。」
「それで僕が弟のルートヴィヒ・ヨハン・シェリングだよ。ルイジって呼んでねー」
女の子はあまり表情が豊かではないが、ぱちぱちと大きく瞬かせた目からはなんとなく好奇心が読み取れた。
「おしゃれな名前。2人で名前を共有してる」
この名前をおしゃれなんて言われたの初めてだ。
「私はマキ・アオ。
アオっていうのは私の国の言葉で青色のこと。
青ってよんで」
青はぴょこっと頭を下げて挨拶した。
なかなか礼儀正しい。
マキ・アオ。ファミリーネームが先なんだな。
母さんの元の名前と一緒だ。
「ね、ヨハン。立ち話もなんだし、青には中に入ってもらおう?」
はぁー。
実はここまでずっと玄関先でのやりとりであった。
この家は先祖代々増改築を繰り返してきたおかげでやたらと広いが玄関はキッチンとダイニングルームに直結している。
ちょっとお腹がすいてキッチンを覗きにきたおかげでこっそり見た事もない女の子を家に上げようとしていたルイジの動向に気づいてしまったのである。
「余所者は入れるなって言われそうだしなぁ。
青はどこから来たんだ?」
青の服や靴には土の跡や草の切れ端が残っている。
ここベーカー村は1番近くの村からも相当遠いからどこかの村から迷い込んだとは考えにくい。
まあ流浪の民の子だろう。何度か流浪の民が来た話は聞いたことがある。
この村では余所者をなるべく入れないしきたりがあるがこんな子供にまで目くじらは立て…ないよなぁ…。
不安になってきた。
これあとからしきたりを守らなかっただの怒られないよな…?
ちらりとルイジに視線を送って直接脳内に問いかける。ルイジは、しきたりについては分かってるけれど青を放ってもおけないでしょ、と声には出さずに返事してきた。
あまり長く黙っていると青に不自然に思われてしまうことを警戒したのだろう、ルイジはその先は声に出して続けた。
「青はね、山に捨てられたから人里を探して歩いて来たんだってー」
弟が言った言葉にぎょっとした。
年端もいかない女の子が、こんな山奥に捨てられた?
ここ一帯は標高の高い岩山に囲まれている。
こんな所に捨てていくなど殺しと同義だ。
改めて見るとキョロキョロ見回している青の土に汚れた頬には血の気がない。
「何日歩いたんだ?けがはしていないのか?食べ物は?」
整った鼻梁の横顔に矢継ぎ早に問いかけると、青灰色の瞳をこちらに向け、相変わらず感情の読み取れない幼い声で
「2日逃げ――歩いた。けがはしてない。ちょっと水をもらえたらうれしい」
と言った。
「待ってろ、今水をもってくるから。ルイジ、客間に案内して座らせておいて」
弟に青を任せ、急いで井戸に向かう。
後ろの方でルイジが
「ほらね、優しいから大丈夫って言ったでしょ?」
と青に耳打ちする声が聞こえた。
優しい、とかじゃなくてあんな小さな女の子が山をさまよってここに辿り着いたなんて聞いたら放っておけないだろ。
井戸に向かって走りながら、余所者に会ってしまったときの決まりを思い出していた。
散々、大人に言い含められた決まりだ。
なるべく余所者を村に入れないこと。
村人が"心の声"を聞くことができるということを絶対に知られないようにすること。
"翼"を余所者に見られないように隠すこと。
――あ、翼隠すの忘れてたな。
ここまで読んでいただきありがとうございます。