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神とアンドロイドの共通色  作者: 茶利休
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ラボ畜、逃亡する

ほほう、捨てられてしまいましたかー。


ごろんと柔らかい絨毯の上でごろごろしながら白い天井を見上げる。

オルゴールの優しい音色が流れている。

子どもの囁く声も途切れない。


さっきエリカ先生に聞いたところによると、

ここに居るのは大半が人間の子どもの代わりにカスタマイズされて作られた特注のアンドロイドらしい。

子どものいない夫婦が作らせた子、

亡くなった子どもの代わりの子、

一人暮らしの老人を介護するために作られた子。


ただしそういった"特注品"は構造が量産品とは違い解体するにも難しいものが多いそうな。

家族となる人間がいなくなって役目を終えた子達が解体業者に引き取られた時、悪質な業者は面倒な解体作業を行わずにスリープ状態で棺に入ったアンドロイドを人里離れた場所にそのまま捨ててしまうとな。


ひっでーなー。


ころんと寝返りをうつ。


真っ白な部屋を囲む真っ白な壁のひとつに、隣室へと繋がる仕切りのない出入口がある。

隣の小さな部屋にはナチュラル系の机と椅子があり、暖かな色の照明がともっている。椅子にはアルプスの少女ハイジに出てくるオンジのような恰幅のいい老人が1人座り、女の子の腕を直してあげていた。


「あそこにいるのはアレックス。

アンドロイド専門のお医者さんで、彼自身もアンドロイドだよ」


とエリカ先生が教えてくれた。


棺に入れられ捨てられたスリープ状態の子どもアンドロイドをこの山の観測用のシェルターハウスに回収してアレックスが直し、エリカ先生が面倒を見ている。


子どもアンドロイドは家にいた頃と同じようにいい子を演じて友だちと仲良く遊び続ける。

アレックスは医師をやっていた頃と同じようにアンドロイドを直し続け、エリカ先生は以前人間の子どもの世話を見ていた時と同じように子どもたちを助け面倒を見ている。


ここには捨てられて尚、役目をなぞり続け働き続けるアンドロイドたちが集まっているわけだ。


人間を模した非人間がままごとをしている。とても哀しい空間だと思う。


オルゴールの音色がたまに途切れては、その前に座っている子がねじを巻きなおしてまた再開する。

あの子はいつから何回ねじを巻き直し続けているのだろう。

オルゴールの上でくるくると回り続ける人形。

くるくる。

くるくるくる。


子どもたちが遊んでいるボードゲームやおもちゃ、読んでいる本やあのオルゴールはきっと棺に入れられたものなのだろう。

あれこそが人間から与えられた彼らの愛の象徴か。


オルゴールは鳴り続ける。

子どもたちの瞳はガラス玉。

くるくる回る人形。

アレックスに診てもらっている女の子の机の上にのせている腕から、配線が数本、ぴょんと飛び出した。


がばっと起き上がり、ガラス窓の嵌められたドアへ向かう。

一刻も早くここから出なければ。

出ていかなければ。


遊んでいる子どもたちの間をすり抜け、ドアノブに手をかけたところで


「アオちゃん?どこに行くの」


振り向くと腰をかがめて私に目線を合わせたにこやかなエリカ先生が居た。


「ここ以外のどこかへ」

「だめよ」


強く否定する割にエリカ先生は笑顔を崩さない。

笑顔以外の表情をもう作れないのか?


機械の経年劣化。もう不要になって捨てられたアンドロイド。


「なんでだめなの」


「外はだめよ」


私はドアノブに掛けた手に力を込め、ドアを開け放った。

太陽が目に痛いほど輝く深い青色の広い空と、荒涼とした岩山が視界いっぱいに広がり、木や金属でできた子ども一人すっぽり入るサイズの大きな直方体が数十個、岩ばかりの土地に転がっていた。

これが子どもたちの入れられていた棺だろう。


「エリカ先生、捨てられていた小生を助けてくれてありがとう。

アレックスも直してくれてありがとう」


さよなら、というや否や外に飛び出す。

エリカ先生が笑顔のまま「戻ってきなさい」と追いかけてくる。


棺の上を走り、棺から棺へ、岩から岩へと飛び移って逃げた。

この身体の軽いことといったら。

こんなに走っても跳んでも息が切れない!そもそも呼吸はしてないけど。

運動不足のラボ畜からしたらありえない性能である。


エリカ先生はまだ追いかけてきているようだ。

でもエリカ先生が自らの役目に縛られているならシェルターからそう遠く離れないだろう。

保育用アンドロイドならそこまで身体能力も高くないだろうし私にスペックで勝てるはずがない。


だって私は軍用戦闘アンドロイドなんだから。


そこまで考えてあれおかしいな、と首を捻る。

なんで今小生は自分のこと戦闘アンドロイドとか思ったであるかな。

エリカ先生だって小生のこと汎用型アンドロイドって言ってたし。中二病の暴発?


棺の上でちょっと立ち止まって後ろを振り返る。

と、手足を蜘蛛のように使い棺や岩を登って四つ足で追いかけてくる笑顔のエリカ先生がすぐそこに居た。


まじかよ二足歩行の概念がバグってるであるか!?


エリカ先生の手が足首につかみかかって来る直前に足をひょいと上げてそのまま踏み込み大きく跳躍する。


5メートルほど跳んで棺の上に着地すると同時にまた跳躍し岩を蹴って二つ棺を超えた。

そうこうして逃げていくうちに棺がまばらになってきて、ごつごつした岩がゴロゴロ転がるばかりになってきた。

ちらと振り返ったがエリカ先生の姿は見えない。


とは言えまだ油断できないよなあ。

はぁーどこへ逃げよう?ここから1番近い人里までどのくらいかかるのかな。


すると、ぽんっと目の前に半透明の地図が出現し地図上の2点に光るピンが立てられた。

光るピンの一方には現在地と表示されている。

一方にはベーカー村と表示されて徒歩で1日と横に追記された。

…なんだこの便利なナビ機能は。

さすがにこれはアンドロイドになった感否めない。


「他に既に登録されている目的地があります」

と追加される。

よく見るとベーカー村の地図の一点に赤く別のピンが刺さっており

「目的地に設定されています」

と赤いピンの横に表示された。


なんかよくわからんけどとりあえずここに行ってみるか。


さらに目の前の空間に半透明の文字で「案内開始」と選択肢が出てくる。

案内よろしく、と心の中で言ってみると光る細い線が自分の胸から飛び出て近くの岩に突き刺さり向こう側に伸びて行った。


「情報線をたどってください」

とメッセージが表示される。


この光る線は情報線というのか。

これは道しるべみたいなものなのかな。


ふへー。なんかすごいなぁー。

とりあえず人里目指して冒険始めてみようかな。


伸びをして足のストレッチを軽くする。

さて。

拙者のアンドロイドになって初のクエストである。


はりきっていこかー。


「みーつけた」


ごとり、と音がして振り返ると、後ろの岩陰からエリカ先生の笑顔が覗いた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


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