第三話 見覚え
「俺と話すのが初めて? どういうことだ? 俺とお前は親しい仲だったんじゃないのか? その証拠に、俺が異世界転生モノの漫画やアニメを見てる事だって知ってただろ。それに、お前は俺の事を"遠野先輩"って親し気に呼ぶじゃないか」
「それは、ずっと見てたから」
古本つきひは短く言った。
「ずっと見てた? もう少しはっきりと言ってくれ」
俺が聞き返すと、古本つきひは潤んだ瞳で俺を見上げた。
「中学生の頃からずっと遠野先輩を見てました。私が中学校に入学した時、先輩は軽音楽部でギターを弾いてました。正直上手くはなかったけど、先輩が一生懸命にギターを練習している姿を見ていました。中学三年生になって、先輩が公立の高校を受けるからって塾に通い始める姿を見ていました。無事に白山高校に受かって、友達の水原さんと根山さんと駅前のカラオケに行く姿を見ていました。高校生になってからは先輩と離れ離れになってしまったけど、毎日放課後に先輩の姿を見に行きました。先輩は部活には入らないでお小遣いのために桜書店でアルバイトを始めましたよね。ちょっとエッチな本が並ぶ棚を先輩が丁寧に掃除している姿も見ていました。それから先輩はアルバイト中に気になった異世界転生の漫画をよく読むようになりました。でも、なんか恥ずかしいからと、周りの友達にはなかなか言い出せなかったですよね。だけど、中学の時からの友達の水原さんと根山さんにはそれを話していて――」
「もういい、もういいから。やめてくれ」
気が変になりそうだった。俺は古本つきひという少女の事を何一つ知らないと言うのに、古本つきひはまるで俺のすべてを知っているかのような口ぶりだった。
「お前は誰なんだ。古本つきひ」
目の前の少女に問いかけた。どうにかして納得できる答えが欲しかった。
「私は遠野先輩の後輩です。白山高校一年三組、古本つきひです」
彼女はそう言って、なんでもないように笑った。
「あ、そうだ。これなら少しは見覚えあるんじゃないですか?」
古本つきひは制服のポケットから黒縁の眼鏡を取り出してかけた。そして、肩で揺れていた髪の毛を片手で束ねて頭の後ろに持って行った。
「知ってる。見覚えがある気がする。どこで見かけたんだ」
その野暮ったい見た目には見覚えがあった。どこだったろうか。中学の体育館、帰り道、バイト先の書店、牛丼屋、カラオケ店、高校のグラウンド。そのどこかで見た覚えがある。いや、そのどれにでも彼女の姿があった気がする。




