第二話 転生
「はい、あなたは死にました」
「はい、先輩は死にました」
二つの声が重なって返ってくる。
「どうか落ち着いて聞いて欲しいのです。遠野小春」
案内人の女性は静かに続けた。
「あなたは不慮の事故に巻き込まれ、命を落としました。これは大変残念な出来事でした。ですが、あなたの魂は選別を経て、再び違う世界で生を与えられようとしています。あなたは選択できます。このまま緩やかに魂の浄化を待つか、異世界で再び新たな命を与えられるか」
「これ、異世界転生ってやつですよ。先輩がよくアニメや漫画で見てた」
古本つきひが小さな声で言った。
「異世界転生……」
確かに俺は異世界転生の漫画やアニメを好んで見ていた。だけど、俺はそれを友人達に隠していた確かな記憶がある。それなのに、なぜ古本つきひはそれを知っている。俺達はそれほどまでに親しい仲だったのか? でも、それならば、俺はなぜ彼女の事を思い出せない。
「どちらにしても、私は遠野先輩について行きますよ」
思考を巡らせている俺の隣で、古本つきひは笑顔を見せた。
「その前に、俺の死因を聞いてもいいですか。急に死んだって言われても、なんか納得出来なくて」
「覚えていないのも仕方がないですね。あなたの死は本当に突然なものでしたから。――遠野小春、あなたは交通事故で亡くなっています。交差点に飛び出した子どもを助けるため、あなたは自らの身を挺してその子を守ろうとしました。子どもは助かりましたが、あなたはその場で命を落としています」
「交通事故、子ども――そういえば、学校の帰りに」
緩やかに記憶が戻り始めていた。断片的ではあるが、思い出せる事がいくつかあった。青いサッカーボール。小さな男の子。大型のトラック。高校の制服。血に濡れたスクールバッグ。それと、俺の名前を呼ぶ誰かの声。
「そうか、俺は死んだんだな。ありがとうございます。おかげで色々と思い出せました」
記憶と共に死の実感のようなものが足元から押し寄せてきた。俺の手は小刻みに震え、トラックが迫り来る瞬間の恐怖が体を凍らせた。
「先輩、大丈夫ですよ。私がいますから」
古本つきひが俺の手を握っていた。その手は暖かく、なによりも力強く感じた。
「ありがとう。でも、不思議なんだ。死んだ時の記憶は戻ってきたっていうのに、古本――お前との記憶が戻ってこないんだ」
「それはそうですよ。先輩と話すのは、これが初めてですから」
古本は笑顔でそう言った。




