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騎士様の素顔  作者: 夜星ゆき
第1章 出会い編
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第8話 遠くて、近い

 私が授業の準備をしていると、少し嬉しそうに担任が口を開いた。

「本日はお客様がいらっしゃいます」

 唐突な担任の言葉に、教室がどよめく。


 お客様……? まさか……。


 思わず呆れた顔になってしまった。

 ジト目で、扉の向こう、全く様子をうかがえない廊下のほうを見る。

「では、お入りください」

 担任に促され、扉が開き、その人物が教室に足を踏み入れた途端、教室中が生徒たちのざわめきで満たされた。

「アルフレッド様……!?」

 貴族令嬢たちの黄色い声にやわらかな微笑みを向けたその人物は、アルフレッド第一王子殿下その人だった。

 相変わらず綺麗な微笑みに、少し妬けてしまう。


 あんな素敵な微笑みをみたら、ご令嬢がみんな惚れてしまうわ……。


 そんな殿下の後ろには、騎士の正装を身に纏った、すらりとした男性が無表情で付き従っている。


 そばにいるのは護衛の方かな。見たことがないお方ね……。


 正装の騎士服を身に纏う姿は、まさに紳士といった風貌だ。

 魔力はあまりないようだ。火のように揺れているのが気になるけれど、微々たる魔力しか感じない。

 おっと、瞬時に人の魔力を探るのを癖づけているのでついやってしまったけれど、あまり魔力をもたない人にやると私の魔力が強い刺激になって失神させかねない。これ以上はやめておこう。

 もしかしたらさっき殿下と念話したときにいた人かもしれないと思ったけれど、これしか魔力がないなら人違いだろう。

 ご令嬢たちは彼にも頬を染めているようだ。

 むしろ、殿下に対する視線よりも、騎士服のかたを見るご令嬢たちの目はギラギラとしていて、獲物を狙う魔物のようだ。


 ……ちょっと怖い。


「第一王子!?」

「なぜ第一王子がこちらに……!?」

 女子だけでなく、男子生徒たちも驚きの声を上げている。

「急に訪問して驚かせてしまったかな。私はアルフレッド・ライトだよ。今日はわが国が誇る魔法学校の様子を見学させてもらいに来たんだ。よろしくね」

 殿下はそう言って、恭しくお辞儀をした。

 ほう、と感嘆の声が漏れ聞こえてくる。

 それほどまでに、殿下の一礼は美しかった。

 私はこの前のように、いつも殿下の書斎で任務を与えられることがおおいので、殿下が真面目なときにその美しい礼はよく見ていた。


 この礼を見慣れているなんて、身に余る光栄なのかもしれないな。


 殿下が手の届かないような、遠くに行ってしまったような気がして、少し寂しくなった。

「では、邪魔にならないようにするから」

 そう言って、殿下は私の斜め後ろ、空席となっている予備の机があるところで、ふつうに椅子を引いて腰掛けた。

 護衛とおぼしき騎士服の方は、その斜め後ろに立って控えている。

『殿下、なぜそちらに?』

 確かに遠い存在なのかも、と思ったが、今度はさすがに近すぎる。

『え? ソフィアがよく見えて、かつ不自然じゃない完璧なポジショニングだろう?』

『それを完璧とお思いなら、色々と学び直したほうがよろしいかと』

『ええー? そうかなぁ?』

 うーん、こんなふうにおちゃらけられてしまうと、本気なのか冗談なのか分からない、な。

 殿下が座っている席から人ひとり分離れた机のご令嬢は、緊張しきってかたまってしまっている。

 他のご令嬢たちもほんのりと頬を染め、ほう、とため息をつきながら、ちらちらと殿下のほうを見ている。

 その様子を見ていて、胸にもやもやした気持ちが湧いてきた。


 ご令嬢たちにも愛想を振りまいているなんて、何か悔しい。


 ちらりと殿下のほうをうかがえば、にこりと完璧な笑顔を返された。


 ああ、今日も完璧でお美しい笑顔だわ……。


「みなさん、殿下が気になるのは分かりますが、僕の授業も聞いてほしいです……」

 思わず見惚れてしまっていると、担任が悲しそうな顔をしていた。

 担任の様子に、みんなかわいそうに思ったのか、ちらちらと麗しいお二人のことを気にしてはいたけれど、だんだんと前に向き直り、授業に集中しだした。



◇◇◇



 終業を知らせる鐘の音が鳴り響く。

「では、今日の授業はここまでです。みなさん、おつかれさまでした」

 笑顔でそう告げた担任に礼をして、授業は終わった。

「それでは僕たちも失礼するよ。みんな、がんばってね」

 殿下が完璧な王子様スマイルを振りまきながら、教室を出て行った。

 その後ろに騎士服の方と、担任がつづく。


 ふう……。


 ノートをまとめ終わった私は、気分転換に少し散歩でもしようかと考えていたときだった。

『ソフィア』

 殿下の念話が飛んできた。

『何でしょうか、殿下』

『このあと時間はあるかい?』


 ないけど。

 私は魔法を学ぶのに忙しい……なんて、言えないか。


『……、お昼休みでしたら』

『ありがとう。では、そのときに、〈応接室〉へ来てほしい』

『……わかりました』

 何か重要な話だろうか。

 〈応接室〉というのは、私と殿下で作った、魔法学校にある秘密の部屋だ。

 辺境伯令嬢と一国の王子が頻繁に会っていると印象が良くないので、スムーズに任務の話ができるようにと、数年前に作ったのだ。

 その部屋の存在を知っているのは、王家とその側近、私とアレクシアだけだ。

 殿下のご命令で最前線に出向いてから、1ヶ月といったところだが、魔物の活性化について何かわかったのだろうか。

 おちゃらけているようでいて、覚悟を決めたような殿下の声色に、緊張してきてしまう。

『ふふ、きみが不安に思うようなことではないよ、ソフィア。むしろ安心するかもね』


 安心……?


 殿下が仰っている意味を理解することはできないけれど、とりあえず悪い知らせではなさそうだ。

『わかりました。昼休みにうかがいます』

『うん。よろしく頼むよ』

 そう言って、まあ念話だから言葉を発したわけではないけれど、王子は教室を後にした。護衛の方とおぼしき人物も王子殿下について行く。

 殿下は言わずもがなだけれど、護衛の方も凜々しい後ろ姿だ。

 

 よし、私も次の授業に行かないと。


 お昼休みの呼び出しも気になるけれど、今は次の授業だ。

 私は必要な教科書を持って、教室を後にした。

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